第二章 影を抱いて
戦争で命を落とした人がいる。
でも、大人たちは「勝った」と言って笑っている。
レイはそのことに、強い違和感を抱いていた。
「なにかがおかしい」
そう思いながらも、それを言葉にすることができなかった。
そんな時、彼は一人の少女と出会う。
その少女の言葉が、レイの心を動かし始める。
戦争が終わった。
村のみんなは「勝った」と言って、明るくふるまっていた。
でも、俺にはどうしても笑えなかった。
父さんの弟は帰ってこなかった。
近所のお姉さんも、隣の家の兄ちゃんも、もういない。
それなのに、大人たちは「これで私たちの暮らしが守られた」と言っていた。
本当にそうなのか?
あの人たちの暮らしは、守られなかったじゃないか。
ある日の夕方、村の外れで一人で空を見ていた時だった。
「ねえ、泣いてたの?」
声がして振り向くと、見知らぬ少女が立っていた。
年は俺と同じくらい。
髪が短くて、どこか落ち着いた目をしていた。
「泣いてないよ」と俺は言ったけど、
少女はふっと笑って「背中が泣いてるよ」と言った。
少女の名前はミオ。
静かな声で、少しずつ話をしてくれた。
「死んだ人たちの名前を、ここに書いてるの」
そう言って、地面に小枝で名前を書いていた。
「忘れられたら、かわいそうでしょ」
「……うん」
俺は、何も言い返せなかった。
その夜、俺は初めて誰にも隠さず、声を出して泣いた。
そして、少しだけ、心が軽くなった。
「勝った」という言葉の裏に、何人の命があったのか。
レイはまだその答えを知らないけれど、
ミオとの出会いが、その答えを探すきっかけになった。
命を想う気持ちが、誰かの心を動かす。
そんな小さな始まりが、この物語の芯になっていく。