追放ってどういうことだか知ってるか?
愛すべきお馬鹿達が出てきます。温かい目で見守ってやってください。
「お前は追放だぁ!パーティから出てけおらぁ!」
「えぇーー!?」
唐突なパーティ追放命令。仁王立ちで俺の顔面に指を突きつけるのは俺たちの冒険者パーティのリーダーであり剣士のゲイド。そして俺は魔法使いのレゼ。
「ちょっと待てよ。俺、なんかしたか?どうして急にそんなこと言うんだよ?」
「うるさい、お前は追放だ!とにかく追放だ!そして俺のライバルになれ!」
ん?
「ライバル?」
「そうだ。レゼは今日から俺のライバルだ。いいな?」
「ああ……それで追放はどうしてなんだ?」
「え?」
「え?」
ダメだこいつ話になんねぇ。
興奮気味のゲイドを宥め、他のメンバーに話を聞きに行く。
宿屋のゲイドの部屋を出て隣の部屋のドアを叩く。出てきたのはパーティのタンク、ノウムだ。
「ようレゼ、どうした?」
「おうノウム、さっき俺ゲイドにパーティ追放されたんだが、なんか聞いてるか?」
「え!じゃあお前、ゲイドのライバルになったのか!?」
「は?まあ、うん……」
「くそ、先越された!オレのライバルにもなってくれレゼ!」
「別に良いけど、だから追放はどうしてなんだよ?」
「え?」
「え……?」
こいつもか。どういうことだよ。
さらにその隣の部屋のドアを叩く。出てきたのは治癒師のマウルだ。
「マウル、お前はまともだよな?」
「何言ってんのこの人。要件は?」
「ゲイドにパーティ追放だって言われたんだ。ノウムに聞いても変なこと言うし、お前なんか知らないか?」
「え、マジで?言っちゃったんだ」
おお、マウルならまともな情報をくれるかもしれない。こいつはパーティの中でも冷静なタイプだからな。
「なあ、追放ってどういうことだよ?ライバルがなんだっていうんだ?」
「いやまあ、その……お、おれもお前のライバルだからな!」
バタンとドアを閉められた。は?
残るメンバーはあと一人。隣のドアを叩く。
「………」
叩く。
「……おい、いるだろジグルド。開けろよ」
「何……」
顔だけひょっこり顔を出したのはシーフのジグルド。ドアを閉められないように手で固定すると彼にも同じ質問を投げかける。
「ゲイドにパーティ追放だって言われたんだが誰も説明してくれないんだよ。どうせお前も知ってるんだろ?どういうことなのか教えてくれ」
「おれに聞くな」
「あ、いってぇ!!」
手を挟みながらドアを閉められた。この野郎、仮にも仲間なんだから怪我をさせるなよ。
……いや、もう仲間じゃないのか?
「……おい、全員集合!全員俺の部屋に集まれ馬鹿共ぉ!!」
***
ということで部屋に集められた男達四人。全員が不思議そうな顔をしてるが、そんな顔をしたいのはこちらの方だ。
「よし、ちゃんと説明してもらうからな。なんで俺が追放されるんだ?お前達は何がしたいんだよ?」
「お前にライバルになってほしいんだ!」
「ゲイドだけずるいぞ、オレもだ!」
「よしお前達は黙れ。さっきからそれしか言わねぇじゃねぇかよ。マウル、どういうことなんだ?ライバルって何だよ」
マウルは不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。だから何なんだよ。
「その前に……おれもライバルだって言ってくれ……」
「……分かった。お前も俺のライバルだよ。で?」
パァ、と途端に嬉しそうな顔をするマウル。だから本当に何なんだよ。早く説明しろよ。
「アゲイルのパーティが言ったんだよ、俺たちとお前たちはライバルだって」
「そうだな、アゲイル達とは年も実力も近いし、良いライバルだと思うよ」
「でもおれたちは仲間同士でお互いに競い合ってきたでしょ?だからおれたちのパーティは全員がライバルだって言ったんだ。そしたらあいつら、パーティ内ではライバルにならないって言うから」
「まあ考え方の違いだろうな」
「レゼを追放すればもう仲間じゃないでしょ?つまりライバルになれるってこと」
「……ちょっと待て、お前らは俺と「仲間」でいるよりも「ライバル」でいることを選んだっていうのか?」
「何、レゼはおれたちとライバルになりたくないってこと?」
いやいくらライバルがいいとしてもそんなことでパーティ追放なんかするもんか?ライバルってそんなに重要なことなのか?仲間の絆よりも?
「おいジグルド。お前からもなんか言ってやってくれ。ライバルになりたいからってパーティを追放するなんておかしいって」
「いや一理あるな」
「嘘だろお前もか。俺の仲間にはおかしな奴しかいなかったのか」
バッとゲイドが手を挙げる。律儀な奴だが頭はおかしい。
「なんだゲイド」
「ライバルってな、すごいんだよ」
「はあ」
なんか語り出した。
「ライバルはな、互いに高め合えるんだ。強くなれるんだ。それってすごいことだろ?」
「そうだな、すごいな」
「仲間じゃなくなっても一緒に冒険はできるだろ?でもライバルは仲間じゃなれないなら、仲間じゃなくなるしかないだろ?」
「うん……うん?一緒に冒険する奴のことを仲間って言うんじゃないか?」
「………」
黙りやがった。
次はノウムがビシッと手を挙げる。言われたことを守っているのは大変よろしいが頭はおかしい。
「はい、ノウム」
「つまりだな、「めいもくじょう」の追放ってことだ」
「名目上?」
「とりあえずパーティは解消しといて、オレたちはただなんか行き先が同じだから一緒にいて一緒に冒険とかしてるけどパーティを組んではいないソロの冒険者同士でライバルだけど仲間ではあるって感じの」
「長い、しかも何言ってるのかよく分からん」
「とにかく、パーティじゃないけど仲間だしライバルってことだ!」
そんなドヤ顔で言われても。
まあなんとなくこいつらが何を思って何をしようとしていたのかは分かってきた。だが。
「じゃあなんで俺だけ追放なんだ?パーティ解消って言えば良かっただろ?お前ら俺のこと嫌いなのか?」
「それはだな」
ジグルドが急に話し始めた。いつもこっちから振らないとほぼ話さないのに。
「意見の一致だ」
「自分から喋ったならせめてもうちょい説明してくれ」
「だからー、まずはおれたちの一番ライバルになりたい奴を挙げたらレゼだったの。で、どうやってライバルになるか考えてたらゲイドが抜け駆けして追放しちゃったの」
マウルが付け加える。それはつまり、えーと。
「お前らは俺を一番のライバルだと思ってくれてたってことか?俺のことが嫌いなんじゃなくて?」
「そうだ!お前は俺たちの中でも特に強いからな!」
ゲイドがそう言って大きく頷く。他の奴らもそれに賛同するように頷く。
「お前ら……」
ゲイドが笑って俺の肩を叩く。ノウムはぐっと親指を立て、マウルは少し恥ずかしそうに頬をかいた。ジグルドは目をつぶってゆっくりと頷き、俺は体を震わせる。
「……良い話風にしてるがいきなり追放したこと納得してないし怒ってるからな?」
「え?」
これは怒りによる震えだ。こいつらが俺のことを大切に思ってくれているなら余計に、こいつらのしたことに怒りが湧いてくる。
「普通は追放って言われたらもう関わらねぇってことなんだよ!言われた時の俺のショックが分かるか!?そもそも俺が追放を真に受けて出てってたらどうしたんだよ!?」
ガーン、と言わんばかりの顔をしている野郎共。俺が出ていくと思ってなかったのか。
今まで切磋琢磨しながら共に戦ってきた仲間に、まともな説明もなく理由が分からないままサヨナラを突きつけられたのだ。その時の気持ちがお前らには分かるか?すごく悲しい。
「そもそもなんでアゲイル達の言うことが正しいと思ったんだ。ライバルの定義とか仲間とか、そんなの人それぞれ考え方は違うだろ」
ガガーン、と言わんばかりに口を開けて呆けている野郎共。こいつら大丈夫か?もし俺が本当にいなくなってたらお馬鹿すぎてパーティ崩壊してたんじゃないか?
「俺は仲間でも、同じパーティの奴でもライバルとして互いに競い合って高め合っていけると思う。パーティを解消する方が手間だし、クエスト受ける時の手続きも面倒だろ?俺達はライバルであり、仲間であり、パーティだ。それでいいんじゃないか?」
部屋が静まり返る。
ゲイドが目を見開く。
「レゼ……やっぱりお前頭良いな!!」
お前に言われても嬉しくねぇよ。
「よし、じゃあお前を俺たちのパーティに入れてやる!」
なんで上から目線なんだよ。
「ちょっと待った!」
マウルが謎の待ったをかける。え、なんで?やっぱりお前俺のこと嫌い?
「仲間でもライバルになれるのは分かったけどさ、やっぱり同じパーティ同士だと全力で戦ったりとかできないじゃん?この機会に戦っとこうよ」
「は?」
何言ってんだお前。というかお前治癒師だろ戦闘職じゃねぇだろうが。
「それだぁ!!」
ああー、戦闘馬鹿が乗ってしまった。
「俺は嫌だからな。ただでさえお前らに振り回されて精神的に疲れてるのに何で戦闘で身体も酷使しなきゃならねぇんだ」
「お前に拒否権はない!俺たちのパーティに入りたくば俺たち四人を倒すことだな!」
「おれ治癒師だしパーティ対レゼにしようよ」
「それいいな、守りは任せろ!」
「しかも人数差エグいなフルボッコにでもするつもりか!?」
ギャーギャーと騒ぎながら外へ出ていく馬鹿共達。だが、なんだかんだ言いながら、俺もあいつらとは良き仲間でありライバルでありたいのだ。
ぽん、とジグルドが俺の肩を叩く。
「おれ達はお前が大好きなのさ」
「分かってるさ、そんなこと。でもそんなカッコつけながら言われると腹立つな」
その後俺は無事パーティに入れてもらい、俺達は今日も仲良く冒険している。
追放を免れたのはいいがちょくちょく戦闘を仕掛けてくるのはやめてほしい。しかも全員で。
やっぱり俺は嫌われてるのか……?
おしまい
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