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バレル拉致

「カサンドラーッ!」

 ジャンヌは激昂していた。彼女自身、そこまでカサンドラに怒りを覚えるのが理解できなかったが、それがバレルを狙っているカサンドラの意志を感じての事なのに気づいていない。有り体に言えば、嫉妬である。ジャンヌがどれ程否定しようとも、バレルに好意があるのは紛れもない事実なのだ。

「どうするの?」

 パトリシアはカサンドラの凄まじい悪意を感じて、母親であるアメアを見た。

「ジャンヌに任せておけばいい。我らは退散するぞ」

 アメアは欠伸をして建物の中に入った。

「待ってよ、お母さん!」

 パトリシアはアメアを追いかけた。ジャンヌは憤怒の形相で降下して来る小型艇を睨んだままでいた。

「どうしたんだ、ジャンヌ?」

 そこへバレルが現れた。ジャンヌはバレルを見ると赤面してしまった。

「あ、あんた、何しに来たのよ!?」

 ジャンヌは自分の感情を知られたくなくて、バレルに食ってかかった。

「いや、さっきアメアさんが外に行くのを見かけてさ。でも、すぐ戻って来たから、何があったのかと思って」

 バレルは頭を掻いて告げた。

(本当は、ジャンヌが外に行くのを見かけたから来たんだけど)

 バレルはバレルで照れ臭かった。

「だったら、隠れてなさいよ。またカサンドラが来たのよ」

 ジャンヌの言葉にバレルはギョッとした。

「え? あのおっぱいお姉さんが?」

 ついそんな事を口走ってしまったせいで、

「スケベ!」

 またジャンヌの平手打ちを食らった。

「いで!」

 バレルはそのせいでよろけた。

「ジャンヌ、何があったの?」

 そこへエミーとカタリーナが来た。

「神聖銀河帝国の女がまた来たわ」

 ジャンヌは叩かれた頬を撫でているバレルを押し退けた。

「そう?」

 エミーはバレルが頬を撫でているのを見てジャンヌを見た。カタリーナは上空を見上げた。

(何が目的なの? 私? ジャンヌ? それとも……)

 前回現れた時、カサンドラはバレルを連れ去ろうとしたのをカタリーナは見ている。

(でも、何故? バレルがルイの息子だから?)

 カタリーナには神聖銀河帝国の真意がわからない。それぞれが葛藤をしているうちに小型艇は軟着陸した。

「ここは銀河の狼の本部だったけど、今は何も武器がないわ。考えが甘かったのかしら?」

 エミーはカサンドラの侵入をあっさり二度も許してしまった事に責任を感じていた。

「そんな事はないわ。彼女の目的は銀河の狼ではないから。心配しないで」

 カタリーナはエミーの肩を抱いて励ました。

「カタリーナさん……」

 エミーは複雑な思いでカタリーナを見た。エミーはかつて、本気でジョーと結ばれたいと思っていた。しかし、カタリーナには勝てないとジョーを諦めたのだ。

(せめて、子供を産みたいと思ったけど、それも無理ね)

 ジョーにはカタリーナ以外見えていないのを理解したエミーはそれも諦めた。だが、他の男と結ばれるつもりは全くない。

「ジャンヌ、大人しくその男を渡せ。そうすれば、この星は滅ぼさない」

 カサンドラは小型艇から出てくるなり、高圧的な態度で告げた。

「ええ?」

 バレルは驚愕していた。

(いやいや、俺如きを捕まえるためにこの星を滅ぼすとか脅すって、あのお姉さん、頭がイカれてるのか?)

 ジャンヌはムッとして、

「訳のわからない事を言わないでよ。バレルは渡さないし、この星も滅ぼさせない!」

 カサンドラに向かって走り出した。

「ジャンヌ!」

 バレルとエミーとカタリーナがほぼ同時に叫んだ。

(アメア・カリングは動いていない。ジャンヌにジョー・ウルフは力を貸せない)

 カサンドラはニヤリとした。


 天の川銀河の中心部付近を航行する巨大な貨物船のブリッジで、

「神聖銀河帝国の者が?」

 腰まである長い銀髪で碧眼の女が呟いた。白いローブのような服を着ており、一見修道僧だが、その真逆の存在である。

「はい。武器弾薬を反共和国同盟軍に調達しているのを知られたのではないかと」

 黒いローブのような服をまとった男が告げた。白いローブの女はフッと笑い、

「知られたところで、何も恐れる事はない。我が商会にはアンドロメダ銀河連邦の後ろ盾がある。いくら神聖銀河帝国が強大だとしても、アンドロメダ銀河連邦軍を敵に回す程愚かではない」

「しかし、タミル様……」

 男は意を唱えようとしたが、タミルと呼ばれた女は、

「戦争を生業なりわいにしている我らが、軍事力に怯えてどうする? 放っておけ。害をなすようであれば、連邦の情報部員が始末してくれよう」

 全く意に介さない。男は溜息を吐いて、

「承知しました」

 一礼してブリッジを出て行った。

(むしろ、反共和国同盟軍には、仕掛けて欲しいのだろう、クラーク・ガイル?)

 タミルはあわよくば、神聖銀河帝国すら顧客にしようと目論んでいた。

(気になるのは、クラーク・ガイルよりも、ジャコブ・バイカーの娘の方だ。目障りになる程、私の商域を荒らしている)

 タミルは携帯端末を操作して、天の川銀河の全体図を表示した。

(天の川銀河の半分程を動き回っている。しかも、細々とした反政府組織にも入り込んで、小さな戦乱をあちこちで扇動している)

 全体図ではその戦乱が起こっている星域が無数点滅している。

しゃくさわるのは、あの女の組織が目立たず、私の商会ばかり神聖銀河帝国に取り締まられている事だ)

 タミルは舌打ちをした。

(そろそろ、クラークに直接接触する頃合いか?)

 タミルは携帯端末を切り、放り投げた。携帯端末は無重力状態のブリッジを漂い、壁にぶつかって跳ね返った。


「もっと戦略的に動け、ジャンヌ」

 カサンドラは突っ込んで来たジャンヌをかわすと、バレルに向かって走り出した。

「待て!」

 それに気づいたジャンヌがカサンドラを追いかけた。

「ひっ!」

 バレルはカサンドラが凄まじい勢いと形相で自分に向かって来たので、悲鳴を上げた。

「バレル、逃げて!」

 エミーとカタリーナが叫んだ。

「ひいい!」

 バレルは一目散に逃げ出した。しかし、カサンドラの方が速く、たちまち追いつかれてしまった。

「逃しはしないぞ!」

 カサンドラは前に回り込み、立ち塞がった。

「うわあ!」

 バレルはそのままカサンドラに突っ込んでしまった。

「獲った!」

 カサンドラはバレルを両腕で捕らえた。

「ぐえええ!」

 バレルは鯖折り状態で締め上げられた。

「バレル!」

 ジャンヌが突進して来た。

「この男、もらい受ける!」

 カサンドラは高笑いをして、バレルを担ぎ上げると、小型艇へと走った。

「くっ!」

 一瞬の差で、ジャンヌはカサンドラに逃げられた。

「ジャンヌーッ!」

 後ろ向きに担がれているバレルは、ジャンヌに向かって右手を伸ばした。

「バレル!」

 ジャンヌは必死になって走ったが、距離を詰められなかった。

「フン!」

 カサンドラはバレルをお姫様抱っこに切り替え、小型艇へと飛び込んだ。

「ふが」

 バレルはカサンドラの胸の谷間に顔を押し込まれた。

(わああ、すごい! でかい!)

 一瞬、恍惚としてしまったバレルであった。

「ああ!」

 ジャンヌの目前で、小型艇は飛び立ってしまい、たちまち見えなくなった。

「バレル……」

 ジャンヌは呆然としてその場にしゃがみ込んだ。

「何があったんですか?」

 そこへローリン夫妻が出て来た。

「バレルが神聖銀河帝国に連れ去られました」

 カタリーナが告げた。

「何ですって!?」

 ジュリアが叫んだ。ゴレルは唖然としている。

「ジャンヌ、追いかけるわよ!」

 カタリーナがしゃがみ込んでいるジャンヌに言った。ジャンヌはハッとして、

「でも、どこへ?」

 カタリーナを見上げた。カタリーナは、

「決まってるでしょ。神聖銀河帝国の中枢のゲルマン星よ」

 ウィンクしてみせた。

「ええっ!?」

 ジャンヌはその名を聞いて驚愕した。

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