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カサンドラ再び

 神聖銀河帝国の正規軍が配備されている司令長官棟の司令室にそのトップであるクラーク・ガイルはいた。

「そうか」

 クラークは部下からの報告を受けていた。カサンドラが出撃したという事だった。

(あれは私の命令でも逆らう。それもよい。カサンドラは我が最高傑作。あのジョー・ウルフにすら勝てる逸材なのだ)

 クラークはフッと笑い、

「カサンドラの事は構うな。好きにさせておけばいい。それよりも、反共和国同盟軍の動きはどうだ?」

 部下を見た。部下は頭を下げて、

「今のところ、目立った動きはありません。只、武器商人の出入りが多いようです」

 クラークは右の眉を吊り上げて、

「武器商人だと? 誰だ?」

 部下は顔を上げて、

「タミル・エレスという女です。あのヤコイム・エレスの孫です」

「ヤコイムの孫? ニコラス・グレイに利用された武器屋の男か。因縁だな」

 クラークはニヤリとしてから、

「陛下にお会いして来る」

 大股で歩き、司令室を出て行った。


 そのカサンドラは部下も引き連れず、単独で小型艇を駆り、タトゥーク星を目指していた。

(ジャンヌめ。お前の父親諸共、叩き潰してやる!)

 カサンドラは目を血走らせ、前方を睨みつけていた。

(私はクラーク・ガイルの遺伝子を受け継ぐ由緒正しき血統のビリオンスヒューマン。誰にも負けない。最強だ)

 カサンドラはジャンヌの背後に見えたジョー・ウルフに恐怖を覚えた自分を否定した。

(あれは気の迷いだ。ビリオンスヒューマンは互いを感じる事はできるが、繋がる事などできはしない。私はジャンヌとアメア・カリングの卑怯な手に惑わされたのだ)

 だが、アメア・カリングは要注意人物だと理解している。

(一度はジョー・ウルフをあっさりと撃退したと聞いている。しかも、あのブランデンブルグが作り出したビリオンスヒューマンであり、アンドロメダ銀河最強と言われたミハロフ・カークと子を成したとも聞いた。つまり、ミハロフの力も吸収しているという事だ)

 カタリーナがジャンヌを産んだ事により、アンチエイジングを強く発現して、通常の人間よりも若い容姿と体力を有しているのは、彼女と対面した時にわかった。そこから類推すると、アメアは自身がビリオンスヒューマンである上に、ミハロフの能力も手に入れている事になる。警戒すべき存在なのは間違いない。

(只、アメアからは敵意を感じなかった。あの女が私に向かってくる前にジャンヌを殺し、ルイ・ド・ジャーマンの息子を連れ去ればいいだけ)

 何故アメアが敵意を向けて来なかったのかは、カサンドラにはわからなかった。

(敵意がないのであれば、協力者として同行してもらう事もできるかも知れない)

 カサンドラは途方もない事を考えていた。


「うお!」

 回復したバレルは、シャワーを浴びるために浴室に入った。するとそこへ何の躊躇ためらいもなく、パトリシアが入って来た。

「えっと、俺がいるんだけど、遠慮してくれない?」

 バレルは顔を引きつらせて告げた。するとパトリシアは、

「遠慮するな。私は何も差し支えない」

 バレルに構わず、制服を脱ぎ始めた。

「おお!」

 元々スケベなバレルは、巨乳のパトリシアが制服を脱ぐのを見て、凝視した。

(でかい!)

 制服の下から現れたインナーに覆われた胸は、バレルの想像を超えていた。

(母親もデカかったから、期待したけど、予想以上にでかい)

 バレルは鼻の下を伸ばした。

「お前も早く脱げ」

 パトリシアはバレルのジャケットを脱がしてしまい、ショートパンツもずり下ろした。

「ああ!」

 バレルはたちまちインナーだけにされてしまった。しかも、パトリシアの巨乳を凝視したせいで、反応していた。

「お前、恥ずかしいのか?」

 パトリシアがバレルの股間を凝視した。

「ああ、見ないで!」

 見るのは好きでも見られるのは苦手なバレルは思わず股間を両手で隠した。

「ならば、私が先に脱ぐ。そしたら、お前も脱げ」

 パトリシアがインナーを脱ぎかけた時、

「何やってるの、あんた達は!」

 声を聞きつけたジャンヌが入って来た。そして、インナーだけの二人を見て固まってしまった。

「わわ、ジャンヌ!」

 バレルもジャンヌに下着姿を見られて、赤面した。

「何だ、ジャンヌも一緒にシャワーを浴びたいのか?」

 パトリシアは事もなげに言った。

「何をしている?」

 そこへアメアが顔を出した。途端にパトリシアが蒼ざめる。

「パット、何度言えばわかるんだ? その男はジャンヌのものだ。出ろ」

 アメアはパトリシアの制服を拾って投げつけると、彼女を引きずるように浴室を出て行った。

(助かった……)

 バレルはホッとしたのだが、

「あんたって人はあ!」

 正気を取り戻したジャンヌに強烈な平手打ちを浴びせられた。

「グヒャ!」

 バレルはその場に崩れ落ちた。

「バカッ!」

 ジャンヌは顔を真っ赤にして浴室を飛び出して行った。


「ああ、ジャンヌ、バレルはどこに行ったの?」

 廊下でばったり会ったのは、バレルの養父母のジュリア・ローリンとゴレル・ローリン夫妻だった。ジュリアは小柄で細身、金髪で碧眼、ゴレルは長身で筋肉質、黒髪で黒い瞳である。二人共銀河の狼の制服を着ている。

「あれ? 部屋にいませんでしたか? どこに行ったんだろう。あはは……」

 浴室にいる事を教えると、バレルが伸びているのを見られると思ったジャンヌは咄嗟に嘘を吐き、その場から逃げた。

「ああ、そう」

 ジュリアとゴレルは顔を見合わせてから、走り去るジャンヌを見送った。

「カタリーナさんの話だと、神聖銀河帝国がジャンヌとバレルの存在に気づいたそうだが」

 ゴレルは腕組みをした。ジュリアは悲しそうな顔になり、

「心配だわ。ルイはどうしているのかしら?」

 ゴレルはジュリアがその名を口にしたので、ピクンとした。

(ジュリアは未だにルイを忘れられていないのか?)

 ゴレルもジュリアも旧帝国軍人で、ルイとは同じ所属になった事もあった。ゴレルは初対面でジュリアに惚れて、何度もアタックしたが、断られていた。だが、ジュリアの思い人のルイが彼の婚約者だったテリーザをうしない、その妹のマリーと暮らすようになって、ジュリアはようやくルイを諦め、ゴレルのプロポーズを受け入れた。まさに粘り勝ちだったとゴレルは思った。そんな折、ルイとマリーの間にバレルが生まれた。ルイはバレルには自分の不幸を引き継がせたくないと考え、マリーとも相談して、ジュリアに預ける事にした。ジュリアは自分の気持ちを押し殺してそれを受け入れ、ゴレルとの子としてバレルを育てて来た。

(ルイがジュリアにバレルを託したのは、髪の色が同じだったからだろう。罪な事をしてくれたよ)

 ルイには何の恨みもないが、現実は残酷だと思った。バレルは成長と共にルイに似て来た。そのため、ゴレルは嫌な噂を耳にした。ジュリアが浮気をしてバレルができたというのだ。ゴレルは気にかけなかったが、ジュリアは我慢ができなかった。そこでジャンヌを産んだカタリーナにバレルを託した。カタリーナは快く引き受けてくれて、タトゥーク星から離れた辺境の惑星に移り住んだ。その頃は、ジョーも行方をくらませており、サンド・バーという人相の悪い男がカタリーナの夫となっていた。ゴレルはサンド・バーに親近感を覚えた。

(あいつは多分、カタリーナさんに惚れてる)

 サンド・バーがジャンヌの父親となったのは、そういう事だろうと考えた。しかし、サンド・バーが惚れていたのは、アメアだとはゴレルは知らない。アメアの元となったカタリーナは文字通りアメアと瓜二つである。だからサンド・バーは引き受けたのだ。

(あいつもそんな事を引き受けなければ、長生きしたかも知れないな)

 ゴレルはカタリーナ達を逃がすためにサンド・バーが身を挺したせいで、神聖銀河帝国に捕縛され、拷問の末、死んだと聞いている。

(まあ、あいつも、カタリーナさんのために死ねたのだから、本望なのかも)

 ゴレルは誤解に誤解を重ねていた。


「む?」

 ジャンヌは司令室へ向かう途中で、カサンドラのイメージを感じた。

「まさか?」

 ジャンヌはきびすを返して、外へ出た。

「また来たのか?」

 アメアも出て来た。パトリシアも一緒だ。

「カサンドラーッ!」

 ジャンヌは上空に見える光点を睨みつけた。

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