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バレルの受難

 バレルは意識を失ったまま、銀河の狼の本部内にある医務室に運ばれ、ベッドに寝かされた。

「重症なの?」

 事情を知らないエミーは、バレルが敵にやられたと思っていた。

「いえ、只気を失っているだけです」

 ジャンヌはまさか自分のせいだとは言えず、苦笑いをした。

「ジャンヌのせいだ。この女は男に乱暴過ぎる」

 しかし、アメアがあっさりとバラしてしまった。

「え、あ、アメアさん、それは言わないでくださいよ……」

 ジャンヌは顔を赤らめた。

「え? どういう事?」

 エミーはキョトンとしてカタリーナを見た。

「まあ、いろいろとね」

 カタリーナは肩をすくめた。

「はあ?」

 エミーはますますどういう事かわからず、首を傾げた。

「綺麗な顔をしている」

 アメアの娘のパトリシアは、バレルの顔をすぐ近くでジッと見ていた。

(まずいわね。パトリシアはアメアと同じで、男性に強い興味を持っているのよね)

 カタリーナはパトリシアがバレルに「ご執心」らしいのを感じていた。

「ダメだぞ、パット。それはジャンヌのものだ」

 アメアがあまりにもバレルを凝視しているパトリシアをたしなめた。

「べ、別に私のものじゃありません! 変な事を言わないでください」

 ジャンヌはアメアを睨んだ。ところがアメアが、

「何故隠すんだ、ジャンヌ? お前はその男と子を成したいと思っているだろう?」

 真顔でとんでもない事を言い出したので、

「な、何を言うんですか、アメアさん! 私はそいつと幼馴染なだけで、そういう関係ではありません!」

 ジャンヌは顔が破裂するのではというくらい赤くなって抗議した。

「なら、問題ないね、ジャンヌ?」

 パトリシアは母親譲りの物怖ものおじしない口調で尋ねた。

「え、ええ」

 ジャンヌはもしかして姪に当たるパトリシアの図々しさに引いて応じた。

「バレルとジャンヌが帰って来たの?」

 医務室に飛び込んで来た少女がいた。肩まで伸ばした茶髪で鳶色の瞳をしている。彼女のまた銀河の狼の制服を着ている。

「お帰りなさい、カタリーナさん」

 その少女の後から、カタリーナと同世代くらいの男性が入って来た。

「只今、ケント」

 カタリーナは微笑んで応じた。

「ローリン夫妻はちょっと出かけています。もう帰って来ると思います」

 ケントと呼ばれた男性はチラッとベッドに寝ているバレルを見た。

「ケントおじさん、しばらくです」

 ジャンヌはにこやかに挨拶した。ケントはジャンヌを見て微笑み、

「久しぶりだね、ジャンヌ。更にお母さんに似て来たね」

「ありがとうございます」

 ジャンヌは照れ臭そうだ。すると茶髪の少女が、

「ジャンヌ、久しぶり!」

 抱きついた。ジャンヌは面食らったが、

「久しぶりだね、サリー。元気だったようだね?」

 サリーと呼ばれた少女はジャンヌから離れて、

「うん! 元気だったよ。でも、バレルはどうしたの?」

 ベッドのバレルを見た。

「ジャンヌが殴った」

 またアメアがバラしてしまった。

「ええ!?」

 ケントとサリーが異口同音に声を上げた。

「ああ、その、敵に拉致されて、失神させられたんです。私が救出しました」

 ジャンヌは慌てて取り繕った。

「そうなのか?」

 ケントはカタリーナを見た。カタリーナは黙って頷いた。

(まずいなあ。サリーは以前この星にいた時、バレルの事が好きだったんだよね)

 ジャンヌはバツが悪くなっていた。

「バレル、大丈夫なの?」

 サリーはジャンヌから離れてバレルに近づいた。

「サリーはこの男とどういう関係だ?」

 パトリシアがサリーに詰め寄った。

「え、どういう関係って、幼馴染よ」

 サリーはいきなりパトリシアに訊かれたので、動揺していた。

「なら、男ではないのだな?」

 言い方が母親にそっくりになって来たとカタリーナは思った。

「お、男って、そんな……」

 サリーは真っ赤になった。パトリシアと違って、純情なのだ。

「ならば、今日からこの男は私のものでいいな?」

 パトリシアはサリーを見て、ジャンヌを見た。

「どうぞ、ご自由に」

 ジャンヌは呆れて応じた。サリーは黙ったままだ。

(ややこしいのは、バレルと私が前にこの星にいた時、パトリシアはアンドロメダ銀河にいて、不在だった。バレルとの時間が長いのはサリーだし、応援したいけど、パトリシアはアメアさんの遺伝子を受け継いでいるから、サリーじゃ太刀打ちできないかも……)

 ジャンヌは自分のバレルへの気持ちを封印して、揉め事回避に動こうとしていた。

(バレルの奴、憎たらしいくらいモテるのよね)

 それが腹立たしいジャンヌなのだ。

(バレルが男前なのは認めるけど、あのスケベな性格を改めない限り、絶対に恋人とかにはなれない)

 ジャンヌはパトリシアの気ままな性格のせいで、自分がバレルを意識している事を思い知ってしまった。

(それにあいつ、胸ばかり見ているし)

 ジャンヌはバレルがアメアの巨乳を見ていたのに気づいていた。それに比べて、自分は……。そんな自虐的な事も思った。パトリシアは母親譲りの巨乳である。パトリシアが言い寄れば、一も二もなくバレルはパトリシアとくっつくだろう。ジャンヌは複雑な心境だった。

(あんな奴、どうでもいい)

 ジャンヌは自分に言い聞かせた。

「ダメだ、パット。その男はあくまでジャンヌのものだ。お前は諦めろ」

 何故かアメアがそんな事を言い出した。

「でも、ジャンヌはご自由にと言ったわよ」

 パトリシアは不服そうだ。自分の思い通りにならないと、顔に出る。だが、さしもの彼女も、母親には逆らえない。アメアが怒るととんでもなく怖いのはよく知っているからだ。しかも、思い通りにならないと顔に出るのは、アメアの遺伝なのだ。アメアは口答えをした娘に目を吊り上げた。

「わかったわよ」

 パトリシアは母が本気で怒る前に撤収した。すごすごと医務室を出て行ったのだ。

「心配するな。パットは私には絶対服従だ」

 アメアは勝ち誇った顔でジャンヌに言うと、上機嫌で医務室を後にした。

「相変わらずのようね、あの親子は」

 カタリーナはエミーに耳打ちした。

「でも、アメアがいるおかげで、ここは平和よ。それだけはありがたいわ」

 エミーは微笑んで応じた。

「そうなの」

 カタリーナは医務室のドアを見た。ジャンヌは親子の嵐が去ったので、大きな溜息を吐いた。

「う……」

 その時、バレルが目を覚ました。

「あ、バレル!」

 サリーは嬉しそうにバレルの顔を覗き込んだ。

「あ、サリー。ジャンヌは?」

 バレルはサリーの思いなど微塵も感じていないので、気遣いのない言葉を吐いた。

「い、いるよ」

 サリーは悲しそうに笑みを浮かべると、ジャンヌを見た。ジャンヌはバカな幼馴染にまた溜息を吐き、

「何よ?」

 不機嫌そうに言った。バレルはバツが悪そうに苦笑いをして、

「俺、何かジャンヌに失礼な事した気がしてさ。ごめんな」

「え?」

 ジャンヌはそんな事を言われるとは思っていなかったので、目を見開いた。

「あれは、あの神聖銀河帝国のお姉さんだったのか、ジャンヌだったのか、定かじゃないんだけど、何かふっくらしたものを触った気がして……」

 バレルがそこまで言うと、

「バカ!」

 ジャンヌはバレルの左頬を平手打ちして、医務室を飛び出した。

「な、何で?」

 バレルは叩かれた左頬をさすりながら、涙目になった。

「ジャンヌ……」

 サリーはどうしてジャンヌがバレルを叩いたのかわからなかったが、ジャンヌとバレルの間に入るのは無理だと悟った。


(父上はジャンヌだけ誘き出せと言ったが、あの男だけを捕まえればいいだけの事。その方が簡単だ)

 カサンドラはジャンヌへの復讐を誓っていた。

「ジョー・ウルフの娘であろうと、私が勝つ。私はこの宇宙で一番のビリオンスヒューマンなのだから」

 カサンドラはフッと笑った。

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[良い点] 宇宙レベルの小説!星間旅行! [気になる点] 私たちはみんな宇宙が大好きです! [一言] 彼らはひどい戦いから抜け出したところだった...
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