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悪意に取り込まれし者達

(アテナ・ルビルめ、銀河の狼に取り入ったのか)

 タミル・エレスは、アテナ・ルビルがエミー達に支援をし始めた事を仲介業者に聞き、憤っていた。

(これで決まった。クラーク・ガイルがどれ程悪辣な人間であろうとも、私は神聖銀河帝国に加担する。そして、アテナ・ルビル諸共、銀河の狼の一団も殲滅してやる)

 タミルはアテナ憎しで凝り固まっていた。

(ゲノム編集、興味深い。私もしてもらおう)

 タミルはアテナとの争いを制するためにゲノム編集で若返ろうと考えた。すでに彼女はクラーク・ガイルの術中であった。

(天の川銀河だけではなく、アンドロメタ銀河の武器弾薬の取引も我が商会が独占する。そのためには、誰とでも手を組む。例えそれが魔物であろうとも)

 タミルはクラークに与するのを全く気にしなくなっていた。

「神聖銀河帝国のクラーク・ガイル長官に通信を」

 タミルは通信係に命じた。


 そのクラークは、ビリオンスヒューマンとなったカール・ハイマンに対して、タトゥーク星攻略を命じた。

「この命に変えても、タトゥーク星を落としてみせましょう」

 カールは不敵な笑みを浮かべて、跪いた。

「期待しているぞ」

 クラークはフッと笑って告げた。

「はっ!」

 カールは頭を下げて応じた。ここにも一人、憎しみに凝り固まった者がいた。クラークの悪意に取り込まれた者である。

(エミーはもう殺す。この俺をバカにして、この俺の強さを見くびったあの女は、犯した上で殺してやる。俺の子を産むという栄誉を与えるのも烏滸おこがましい!)

 エミーへの愛情は一片もなくなり、憎しみで満ち溢れていた。

(いいぞ。もっと憎め。もっといかれ。もっと狂え。ジョー・ウルフの遺伝子に連なる者達を殲滅するまで、戦うのだ)

 クラークはカールの憎悪に喜びを感じていた。

「では、出撃致します」

 カールは執務室を出て行った。クラークはそれを見届けると、執務室の奥にある寝室へと足を向けた。ベッドには全裸のエレクトラが寝ていた。

(エレクトラよ、次は我が跡継ぎを産んでくれ)

 クラークは軍服を脱ぎ捨てた。


「はあ、はあ……」

 ジャンヌは銀河の狼の本部の奥にあるトレーニングルームで、汗を掻いていた。

「ジャンヌ」

 そこへバレルが現れた。ジャンヌはバレルに気づくと、タオルで汗を拭い、顔を背けてシャワールームへと行ってしまった。

「……」

 バレルはジャンヌの怒りが解けていないので、溜息を吐いた。

(根に持つよなあ。執念深いというか……)

 バレルは落ち込んだが、ジャンヌがシャワーを浴びる音が聞こえてくると、途端にスケベの虫が疼き出した。

(今、ジャンヌは何も着ていない……)

 顔が嫌らしくなり、バレルはシャワールームに近づいた。

「おっ」

 ジャンヌは不用心にもロックを忘れたようだ。バレルはニヤリとしてドアを開くと、シャワールームに入った。そこには五つのシャワーがあり、撥水のカーテンで仕切られていた。ジャンヌは右から二番目のシャワーを使っているらしく、水が流れる音がしている。バレルの鼻の下が伸びた。忍び足でシャワーの近くに寄ると、

「ジャンヌ、俺も一緒にシャワー浴びるぞ!」

 カーテンをサッと動かして、中へ入った。

「あれ?」

 ところが、そこにはジャンヌはおらず、シャワーから水が出ているだけだった。

「そんな事だろうと思ったわ!」

 背後に殺気がみなぎる者が立つのがわかった。

「ひい!」

 バレルはビクッとして身を翻した。そこには仁王立ちしたジャンヌが腕組みをして、憤怒の形相でバレルを睨みつけていた。

「どこまで下劣なのよ!」

 ジャンヌは容赦なく、バレルの股間を蹴り上げた。

「おごああ!」

 バレルは悶絶しながら、シャワーの下に倒れ、転げ回った。

「頭冷やしなさい!」

 ジャンヌはそのままシャワールームを出て行った。


 クラークはエレクトラと楽しんだ後、タミルからの通信を受けていた。

「長官、私も是非、ゲノム編集をしていただきたいと思いまして」

 タミルは艶っぽい顔でクラークに懇願した。

「わかった。手配しよう。日程が決まったら、こちらから連絡する」

「よろしくお願いします」

 タミルが携帯端末の画面から消えると、クラークはニヤリとした。

(あの女も若返れば、なかなかの身体になりそうだ。しかも、あの野心は使える)

 クラークはタミルにも自分の跡継ぎを産ませようと考えた。

「長官、殿下のご容態が思わしくありません」

 そこへ医師団のリーダーから緊急の連絡が入った。

「何? どうしたのだ?」

 クラークは眉間にしわを寄せた。

「クレウサ様との間隔が少なかったせいのようです。最悪の事を想定して、もう一度皇帝陛下の子種を使って……」

 リーダーがそこまで言うと、

「いや、それでは同じ事になる。エレクトラの母体には何の問題もない。恐らく、陛下の子種がすでにダメなのだろう。別の方法でお世継ぎを産ませる」

 クラークにはもはやフランセーズ・ド・ジャーマンの遺伝子などどうでもよくなっていた。

「殿下にもしもの事があっても、公表するな。出資者共には伝える必要はない。極秘に次のお世継ぎを産ませるのだ」

 クラークはフッと笑った。

「その、どういう形で産ませるのですか?」

 リーダーがへ怪訝そうな顔になった。クラークは声を低くして、

「私の子種を使え。男子が生まれるように選別して、受精させるのだ」

 リーダーはあまりの提案に目を見開いたが、

「わかりました。すぐに取り掛かります」

 画面から消えた。

(これで名実共に私が神聖銀河帝国の支配者だ)

 クラークは声を立てずに笑った。

「む?」

 クラークはその時、アメアを感じた。

「まさか?」

 クラークは時折アメアを感じる事があるのは、アメアがビリオンスヒューマンだからだと思っていたのだが、どうやらそうではないのに気づいた。

(あの女、私の心を覗いているのか?)

 クラークの額に汗が伝わった。


「母上、よろしいですか?」

 アメアが突然部屋を訪れたので、カタリーナは驚いたが、

「ええ、いいわよ。どうぞ」

 中に招き入れた。

「たった今、驚くべき事を知りました」

 アメアはカタリーナが勧めた椅子を固辞して、

「クラーク・ガイルがとうとう禁断の一手を使うつもりのようです」

「え? どういう事?」

 カタリーナは眉をひそめた。アメアは声を低くして、

「エレクトラに産ませた皇帝の跡継ぎの容態が悪いようなのです。そこで、もしもの時は、自分の子種を使えと、医師に命じたのです」

「ええっ!?」

 カタリーナは衝撃的な事を聞かされ、大声を出してしまった。

「どうしたの、母さん?」

 通りかかったジャンヌが飛び込んで来た。パトリシアも一緒だった。

「それがね……」

 カタリーナは躊躇いながらも、アメアが言った事をジャンヌとパトリシアに伝えた。ジャンヌは「子種」に反応してしまい、顔を赤らめた。パトリシアは呆れ顔になり、

「どこまでも下衆な男ですね」

 吐き捨てるように言った。

「今回で、クラークの心を読むのは最後になります。奴がガードを固めたので、これからは無理でしょう」

 アメアは残念そうだ。カタリーナは苦笑いをして、

「クラークの動向も気になるけど、今はカールの方が緊急性が高いわ。備えないとね」

「カール・ハイマンなど、ものの数ではありません。例え奴が百人来ようとも、敵ではないです」

 アメアは自信満々で告げた。

「そ、そうね」

 カタリーナは顔を引きつらせた。

「その通りです、カタリーナさん。母と私とジャンヌがいれば、カールなど虫ケラ同然です」

 パトリシアも勝ち誇ったように言った。

「そうよ、母さん。心配要らないわ」

 ジャンヌは二人程自信はなかったが、カールに脅威は感じていなかった。

(俺は頭数には入れてもらえないのね)

 ドアの隙間から聞き耳を立てていたバレルは、股間の激痛に堪えながら、項垂れていた。

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