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タトゥーク星

「うえええ……」

 大気圏を離脱して間髪入れずのジャンピング航法は、慣れていないジャンヌとバレルにはキツかったようで、二人とも吐き気を催してしまった。ジャンヌはバレルにそんな姿を見られたくなかったので、何とかこらえたのだが、バレルは戻してしまった。

「うわ!」

 無重力の状態での嘔吐は悲惨だ。吐瀉物がコクピット内を浮遊した。

「掃除機で吸い取って」

 カタリーナは目の前に広がる惑星に対して周回軌道を取りながら告げた。

「はい、すみません……」

 涙目で掃除機を手に取り、バレルは自分の不始末を吸い取った。

「大気圏突入するわよ。ベルトを装着して」

 カタリーナは前を見たままで言った。

「はい」

 バレルは口の周りを持っていたハンカチで拭い、席に着いた。ジャンヌはそれを半目で見ていた。


「母上がいらっしゃる」

 タトゥーク星にある銀河の狼の本部の一室で、ソファにくつろいでいたカタリーナに瓜二つの女性が呟いた。先先代の総統領だったアメア・カリングである。彼女はカタリーナの細胞を核として、ジョー・ウルフの遺伝子を受け継ぐクローンであるため、その見た目はまさにカタリーナであり、ジャンヌにも似ている。今は悠々自適の身であるが、着ているのはアンドロメダ銀河連邦軍の真紅の軍服である。これはパトリシアの父であるミハロフ・カークがアンドロメダ銀河連邦軍の幹部である影響だ。彼は今、連邦軍の仕事でアンドロメダ銀河に帰っている。

「母上って?」

 隣のソファで眠っていた少女が目を覚まして尋ねた。黒髪で黒目。遺伝子的にジャンヌと近いので、よく似ている。母の好みの影響か、真紅のタンクトップに真紅のミニスカートを履いている。ジャンヌと違って、肉感的なスタイルである。

「パトリシアのお祖母ばあ様だ」

 アメアは立ち上がった。

「おばあさま?」

 パトリシアと呼ばれた少女は首を傾げた。

「母上に向かって、『お祖母様』は厳禁だぞ。制裁されるからな」

 アメアは半目でパトリシアを見た。

「へえ、そうなんだ」

 パトリシアは微笑んで応じた。

「お前も来い。母上を出迎える」

 アメアは部屋を出て行った。

「待ってよ、お母さん」

 パトリシアは慌てて立ち上がると、母を追いかけた。


「所属不明機、ジャンピングアウト先、わかりません」

 惑星を飛び立った戦艦のブリッジで部下からの報告を受けたカサンドラは眉間にしわを寄せた。

「わからないとはどういう事だ?」

 カサンドラは部下を睨みつけた。部下は後退あとずさりをして、

「その、アンドロメダ銀河の武器商人が開発したと言われている、空間跳躍偽装電波発信装置の影響と思われます」

「何!?」

 カサンドラはジャンヌ達の小型艇が消えた方角を見た。

「ならば、私が探ってやる」

 カサンドラの身体が金色に輝き始めた。

「うわっ!」

 ブリッジにいたニューロボテクター隊と戦艦のクルーはその輝きに目を見開いた。

「ジャンピングアウトした座標を言うので、そこへ跳べ」

 カサンドラは操舵手に命じた。

「あ、はい!」

 操舵手は慌てて操縦桿を握った。

「タトゥーク星だ。そこへ向かえ」

 カサンドラは静かに告げた。その星の名を聞き、一同は顔を見合わせた。

「早くしろ」

 カサンドラは操舵手の右肩を掴んだ。

「はい!」

 操舵手はその握力に顔を歪めながら、ジャンピング航法の準備に取りかかった。


「陛下、もう少しでお世継ぎをお迎えできます」

 豪華な飾り付けをされたベッドに横たわっている白髪の男性にクラークが跪いて告げていた。

「早く、早く連れて参れ」

 男性はか細い声で言った。

「ははっ」

 クラークは頭を下げて応じると、

「では、失礼致します」

 立ち上がってもう一度頭を下げ、薄暗くなっている部屋を出て行った。

(陛下のお命は予想以上に危うい。急がねばならぬ。ジャンヌという少女よりも、そばにいた少年を優先すべきか?)

 クラークは眉をひそめた。

(ルイ・ド・ジャーマンが見つからぬ以上、その子を次期皇帝として据えるしかない。旧銀河帝国の血統を絶やさぬためにも)

 クラークは大股で長い廊下を進んだ。


「ジュリア、ゴレル、一緒に来い。息子が帰って来たぞ」

 アメアは本部の司令室に顔を出すと、そこにいた一組の男女に言った。

「え?」

 その男女は顔を見合わせた。女性は金髪ロングで碧眼。男性は刈り上げた黒髪で黒い眼。どちら銀河の狼の制服であるチャコールグレーの軍服を着ている。

「どういう事、アメア?」

 アメアに問いかけたのは、銀河の狼の現リーダーであるエミー・レイクである。黒髪のショートカットで、同じくチャコールグレイの軍服を着ている。

「母上が戻られたのだ。我が妹、ジャンヌと共にな」

 アメアはそれだけ告げると、司令室を出て行った。パトリシアがそれに続いた。

「何かあったのかしら?」

 金髪の女性が呟いた。

「とにかく、行ってみよう」

 黒髪の男性が女性を促し、司令室を出て行った。

「アメア、待って!」

 エミーは周囲の人達に目配せしてから、アメア達を追いかけた。


「あれ、建物から出て来た人達がいるよ」

 キャノピーから外を見ていたジャンヌが、アメア達に気づいた。

「あの赤い軍服の子が貴女の年の離れた姉さんよ」

 カタリーナは苦笑いをした。

「本当だ、ジャンヌにそっくり! っていうか、カタリーナさんと瓜二つですね!」

 早速女好きの虫が湧き出したバレルが嬉しそうに言ったので、

「あんた、少しおとなしくしてなさいよ!」

 ジャンヌが食ってかかった。

「何だ、ヤキモチか、ジャンヌ?」

 バレルがジャンヌに近づいてニヤつくと、

「うるさい、スケベ男!」

 ジャンヌはバレルの股間を爪先蹴りした。

「うごお……」

 不意を突かれたバレルは席にうずくまってしまった。

「二人共、うるさい! 着陸するから、シートベルト締めて!」

 カタリーナが怒鳴った。

「はい」

 ジャンヌもバレルも、カタリーナが本気で怒っているので、シュンとした。


「ジャンピングアウトしました。タトゥーク星の衛星軌道上です」

 ジャンヌ達の小型艇を追って来たカサンドラ達が乗艦している戦艦がジャンピングアウトした。

「ここで待機しろ。小隊を編成して、小型艇で降下、制圧する」

 カサンドラは身を翻して大股で歩きつつ、

「一班、私に続け」

 それだけ告げると、ブリッジを後にした。

「はっ!」

 一班のニューロボテクター隊がカサンドラに続いた。

「警戒すべき相手は三人だけだ。後の連中には目もくれるな」

 カサンドラは速足で進んだ。

「了解しました」

 ニューロボテクター隊十名は速過ぎるカサンドラを必死になって追いかけた。


「お前達は中に戻れ。厄介な連中が降りて来る」

 アメアは早くもカサンドラ達の動きを察知していた。

「何か来ているの?」

 エミーが尋ねると、アメアは上空を見上げたままで、

「それがわからない者は中に入って震えていろ」

 強い口調で言った。エミーはカチンと来たが、アメアの凄さを知っているので、

「わかった。下がりましょう」

 パトリシアも含めて全員を下がらせ、建物に戻った。

「久しぶりね、アメア」

 着陸した小型艇からカタリーナが降りて来たが、

「母上、尾けられましたね。迂闊ですよ」

 アメアに真顔で言われ、ハッとした。

「まさか? 追尾は撒いたはずなのに……」

 アメアが見ている方に目を向けた。光点が一つ見え、やがて小型艇の形がはっきりわかる程大きくなって来た。

「何か来る」

 続いて降りて来たジャンヌもアメアと同じくカサンドラの乗る小型艇に気づき、上空を見た。

「え? 何かって何?」

 まだ気づいていないバレルはジャンヌに釣られて上を見た。

「さすが、我が妹だ、ジャンヌ。鋭いな」

 アメアがフッと笑った。ジャンヌはギョッとして、

「姉さん?」

 改めてアメアの放つ強烈な気を感じた。

(アメアって人、カタリーナさんよりスタイルがいいな)

 バカなバレルは緊急事態が迫っているにも関わらず、そんな事を考えていた。

 

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