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二人の武器商人の思惑

 アテナ・ルビルの乗る商船は、ジャンピング航法によって、タトゥーク星の衛星軌道上に現れた。根回し上手のアテナは、すでに銀河の狼に対して通信をし、支援を申し出た上で、本部に行く許可を取り付けていた。

(ここからが勝負だよ、タミルおばさん)

 アテナは神聖銀河帝国に擦り寄ろうとしているタミル・エレスとの競争に勝つつもりでいた。

(タミルおばさんは、恐らくジョー・ウルフを逆恨みしている。おばさんの父親であるヤコイムは、ニコラス・グレイに殺されたのに、ジョー・ウルフがその一因だと考えているようだ。そんな思考だから、読み違いして、クラーク・ガイルになんか尻尾を振っちまうのさ)

 アテナは、自分の父親であるジャコブ・バイカーがジョーと関わったせいで命を落としたのを知っている。だが、戦争を商売にしている以上、いつ殺されても仕方がないと思っているアテナは、ジョーを恨んだりはしていない。むしろ、ジャコブの上得意だったジョーに感謝しているくらいだ。

(伝説の名銃工フレッド・ベルトとのつながりで、ジョー・ウルフと関われた事を父はいつも自慢げに母に語っていたそうだ。それ程、ジョー・ウルフという人は、父に好かれていた)

 ほとんど母のところに寄り付かなかった父を、アテナはあまり記憶していない。だが、母は一度でもジャコブの事を悪く言った事はなかった。会えない分、アテナ達が生活に困らないように気を遣っていたのを知っていたからだ。アテナもまた、ほとんど知らない父の後を追うようにして、武器商人の道を選んだのだ。

「大気圏突入します」

 操縦士が告げた。アテナはそれに応じて、キャプテンシートに座り直し、シートベルトを装着した。


「え? アテナ・ルビルが?」

 ジャンヌは、アテナがタトゥーク星に来るのを聞き、驚いていた。

「いつの間にそんな話になっていたの?」

 司令室でジャンヌはエミーに詰め寄っていた。

「あなた達が大気圏に突入する直前に連絡があったのよ。武器弾薬の調達を支援したいって」

 エミーは苦笑いをして告げた。ジャンヌは溜息を吐いて、

「アテナ・ルビルは神聖銀河帝国とも取引がある武器商人よ。スパイかも知れないわ」

 するとカタリーナが、

「その可能性もあるけど、私はアテナを疑いたくはない」

 ジャンヌはハッとして母親を見た。

「どうして?」

 ジャンヌは今度はカタリーナに詰め寄った。カタリーナはジャンヌを見て、

「アテナ・ルビルの父親は、ジャコブ・バイカーという人で、父さんと親交があったのよ」

 ジャンヌは目を見開いた。

「父さんと?」

 カラリーナは頷いて、

「そう。ジャコブがいたから、父さんは戦えて、最終的に勝てたのよ。その娘を疑えないわ」

 ジャンヌの右肩に右手を置いた。

「そうなんだ……」

 何も知らなかったジャンヌは早合点した自分を恥じた。

「アテナ・ルビルの商船が着陸します」

 通信士が伝えた。

「わかった。第一ターミナルに誘導して」

 エミーが命じた。

「了解」

 通信士はアテナの商船にその旨を告げた。

「さあ、出迎えるわよ、アテナ・ルビルを」

 エミーが言うと、

「おう」

 一番に返事をしたのはバレルだった。ジャンヌはバレルを白い目で見た。

「な、何だよ、ジャンヌ?」

 その厳しい視線を感じたバレルは、口を尖らせた。

「別に」

 ジャンヌはバレルを押し退けて、エミーを追いかけた。

「あ、俺も!」

 バレルはよこしまな気持ちをジャンヌに見抜かれたので、焦りながらも走り出した。

「私は、母を迎えに行く」

 パトリシアはずっと黙っていたが、そう宣言すると、司令室を飛び出して行った。

「気をつけてね」

 カタリーナが声をかけた。


(アテナ・ルビルめ、早速寝返ったな)

 最高司令官棟の司令室で、クラークはアテナの動きを感知していた。

(まあ、いい。あの女とタミル・エレスが張り合ってくれた方が、いろいろと面白い事になる)

 クラークはアテナとタミルが犬猿の仲なのを理解していた。

「タミル・エレスの船が大気圏突入します」

 通信士が告げた。クラークは通信士を見て、

「私の執務室に来させろ」

 司令室を出て行った。

「了解しました!」

 通信士は敬礼して応じた。


(クレウサは予想以上にアメア・カリングに敵愾心を燃やしている。だが、冷静さを失えば、場数が違うアメア・カリングに付け入られる。矯正しなければな)

 クラークは廊下を大股で歩きながら、クレウサの精神面のケアを考えていた。

(そしてもう一つ警戒しなければならないのは、ジョー・ウルフの遺伝子に連なる者からの悪影響だ。カサンドラがそうであったように、クレウサも影響されないとは言い切れない。それだけはあってはならないのだ)

 クラークは戻って来たクレウサを寝室に呼んでいた。タミルが執務室に来る前に、クレウサの矯正をすませるつもりでいた。

(クレウサには私の遺伝子が受け継がれている。それをもっと強めなければ、ジョー・ウルフの悪影響を凌げない)

 クラークはクレウサの待つ寝室のドアを開くと、勢いよく中に入った。

「お待ちしておりました、父上」

 クレウサはベッドの脇に立っていた。クラークはフッと笑い、

「待たせたな、クレウサ。お前を矯正しなければならない」

「はい」

 クレウサは無表情のまま応じた。

「服を全部脱ぐのだ」

 クラークは下卑た笑みを浮かべた。

「はい、父上」

 クレウサは軍服を脱ぎ捨て、インナーも全部脱いだ。

「綺麗だよ、クレウサ」 

 クラークはクレウサを抱き寄せた。

「ありがとうございます、父上」

 クレウサは無表情のまま、クラークに抱きしめられ、ベッドに寝かされた。


(ここがクラーク・ガイルの執務室、か)

 タミルは部下二人と共に執務室に通された。

(ここに入らせてくれたという事は、信頼されていると考えていいのか?)

 狡猾なクラークにどこまで信頼されているのか、タミルはそこまで行ってから考えた。

(早まったとは思いたくはないが、警戒するに越した事はない。それ程、あのクラーク・ガイルは危険人物なのだ)

 タミルは勧められたソファには腰を下ろさず、執務室の調度類を眺めながら、様子を伺った。

「待たせたな」

 すると程なくしてクラークが奥のドアから入って来た。タミルはかしこまって、

「いえ、私達もたった今来たところです」

 一礼をした。クラークはタミルの社交辞令の言葉にニヤリとして、

「まあ、座ってくれ。話は長くなる」

 ソファを勧めた。タミルは、

「失礼します」

 手前の三人掛けのソファに部下二人に挟まれて腰をかけた。クラークは向かいのソファの真ん中に座り、

「ようこそ、神聖銀河帝国へ。我が国との正式な取引を決断してくれて、感謝する」

 社交辞令で返した。


(本当にバカなんだから!)

 ジャンヌはアテナにデレデレしているバレルに呆れつつ、アテナ一行五人を応接室に案内した。

「どうぞ」

 エミーがアテナ達にソファを勧め、奥の三人掛けのソファに座った。アテナ達は三人掛けのソファにアテナを挟んで三人が座り、残りの二人は背後を守るようにアテナの後ろに立った。ジャンヌとバレルもエミーの後ろに立った。いつ何があってもいいようにという考えからだ。

(母さんには悪いけど、私はまだこの女を信用できない)

 ジャンヌはアテナを警戒したままだが、バレルはアテナの豊満な胸をじっと見入っている。

(後でぶっ飛ばす)

 ジャンヌはバレルを横目で睨んだ。

「急なお願いをお聞き届けいただき、感謝致します」

 アテナはエミーに礼を言った。エミーは微笑んで応じ、

「銀河の狼の救世主であるジョー・ウルフと縁がある方のご要望なので、一も二もなくお受けしたまでです」

 互いに社交辞令だと思いながら言葉をかわした。

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