表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/53

クレウサの進撃

「救命艇はカール・ハイマン隊長が乗っているようです」

 共和国の宙域に向けて発進したクレウサ率いる大艦隊は、途中で救難信号を受信し、発信元へと進んでいた。

「そうか」

 旗艦のブリッジで、キャプテンシートに座ったクレウサは何の感情も浮かべていない顔で応じた。ブリッジのクルー達はクレウサの無表情に戦慄していた。

「救出しろ。奴は戦力になる」

 クレウサは前を向いたままで命じた。

「はっ!」

 操縦士はクレウサに身体を向けて敬礼すると、席に戻り、旗艦をカールの救命艇がいる方向へと転進した。

(あんな奴、見殺しにしてもいいはずなのに、何故わざわざ進路を変更して救出に向かうんだ?)

 ブリッジにいる全員がそう思っていたが、誰もそれを口には出さなかった。クレウサがどう反応するかわからず、怖かったのである。


 ジャンヌ達が乗り組んでいる小型艇は無事にタトゥーク星に帰還した。

「カールは殺せなかったようだな」

 出迎えたアメアがいきなり物騒な事を言ったので、ジャンヌ達は顔を引きつらせた。只一人、パトリシアは、

「はい。非常に残念です」

 悔しそうに応じた。

(さすが親子。怖い)

 バレルはアメアとパトリシアの母子の会話に震えそうになった。

「アメア、カールを殺せなかっただなんて、酷い事を言わないで。軽蔑するわよ」

 溜まりかねたのか、カタリーナがアメアをたしなめた。

「はい」

 アメアはカタリーナには全体服従なので、しょんぼりした。パトリシアはカタリーナにはそこまで思い入れがないので、

「お母さんをいじめないでください、お祖母様」

 つい、禁句を発してしまった。

「お祖母様?」

 カタリーナはパトリシアの物怖じしない発言に目を見開いた。

(確かに私はパットから見れば、お祖母さんなのだけど……)

 カタリーナは項垂れた。するとアメアが、

「パット、母上に何と失礼な事を言うのだ!? 謝れ!」

 烈火の如く怒り、パトリシアに詰め寄った。

「え、ああ、その……」

 アメアには絶対服従のパトリシアは顔面蒼白になり、後退あとずさった。

「アメアさん、そこまでパットを責めないで。母はパットから見れば、お祖母様なんだから」

 ジャンヌが仲裁に入った。

「ならば、お前は叔母様で良いのか、ジャンヌ?」

 アメアはジャンヌに詰め寄った。

「ああ、えっと……」

 ジャンヌはそこを突かれると思っていなかったので、動揺してしまった。

「二人共、もういいわ。私はお祖母様で構わないわよ」

 カタリーナは苦笑いをしてアメアとジャンヌの間に入った。

「いえ、それはダメです。母上はパトリシアから見ると、祖母ではありますが、母上を称してお祖母様は間違っています。そこはパットに厳しく言いますので、ご容赦ください」

 アメアは頑として譲るつもりはない。

「わかったわかった。それなら、カタリーナでいいわよ。アメアも母上ではなくて、名前で呼んで」

 カタリーナはキッとしてアメアに強い口調で反論した。

「わかりました」

 アメアもカタリーナが怒っているのに気づき、ようやく引いた。

「そう。じゃあ、呼んでみて、アメア」

 カタリーナは微笑んで告げた。アメアは顔を引きつらせて、

「それはどうかご勘弁ください。パットには名前で呼ばせますので」

 ジャンヌはアメアがそこまでカタリーナに対して弱いのを不思議に思った。

(誰に対しても強気なのに、どうして母さんにだけはあんなに弱気なのだろう?)

 ジャンヌはアメアの複雑な思考を完全には理解していないので、カタリーナに対するアメアの感情を把握し切れなかった。

「あ!」

 その時、アメアはクレウサの存在を強く感じた。

「カサンドラの代わりに生み出された女が、共和国を滅ぼすために進軍しています」

 アメアは今の状況を打開するために、話題を変えようとした。

「ええ!?」

 ジャンヌもアメアの作戦に乗る事にした。

(母さんには悪いけど、そんな話で揉めている場合ではない)

 ジャンヌは朧げながらも、クレウサの強大な悪意を感じていた。

「まあ、ラグルーノ・バッハはロクでもない総統領だから、一掃されるのもいいかも知れない」

 アメアはまた物騒な事を言い出した。

「でも、ケントさんが創立した銀河共和国が滅ぼされるのは忍びないわ。それに、アメアは先々代の総統領だったのでしょう? 何も思い入れはないの?」

 カタリーナがアメアを嗜めた。アメアはまたギクッとして、

「いえ、そのような事は……」

 苦笑いをした。

「ケントおじさんは、銀河共和国の創立者なの?」 

 ジャンヌは驚いてカタリーナに問いかけた。

「前にも言ったつもりだったけど、覚えていない? ストラッグルという万能の銃を造ったマイク・ストラッグルの血縁のケントさんとその奥さんのアルミスさん、そして、ケントさんの妹のカミーラさんが創立したのよ」

「そうだっけ?」

 言われたような気がしたジャンヌは頭を掻いた。

「それに、カミーラさんの夫のフレデリックさんは、共和国軍の司令長官でしょう? 放ってはおけないわ。神聖銀河帝国の進軍を伝えて、阻止しないと」

 カタリーナはアメアに詰め寄った。

「待って!」

 そこへエミーが口を挟んだ。カタリーナはハッとしてエミーを見た。

「私達は銀河の狼。共和国とは相容れない組織よ。共和国に加担する事はできない」

 エミーの言葉にカタリーナは口を閉ざした。

「お前達には何もしてもらうつもりはない。これは私とパットで対処する」

 アメアは憤然としてエミーを睨みつけた。

「ジャンヌはどうする? お前もエミーの肩を持つのか?」

 アメアは次にジャンヌをめつけた。

「エミー、お前は命を助けてくれた者にそんな古ぼけた事を持ち出して意を唱えるのか?」

 アメアが更にエミーを責めた。エミーはビクッとしてパトリシアとジャンヌを見た。

(俺は確かに助けていないなあ)

 エミーが見てくれなかったので、密かにしょぼくれるバレルである。

「それは……」

 エミーは痛いところを突かれ、俯いた。アメアはエミーを無視して、

「行くぞ、パット。母上の御恩に報いるのだ」

 カタリーナに一礼すると、自分の専用艦がある方へと歩き出した。

「待ってよ、お母さん!」

 パトリシアは慌てて母を追いかけた。ジャンヌはエミーとアメアを交互に見ていたが、

「行って来るね、母さん」

 カタリーナに告げると、二人を追いかけた。

「ああ、ちょっと待って!」

 バレルがジャンヌに続いた。

「ごめん、カタリーナさん。私は協力できない。何人も共和国軍との戦いで命を落ちした仲間がいるの」

 エミーは涙を浮かべて言うと、建物の中へ駆けて行った。


「何だと!?」

 惑星マティスの総統領府の総統領執務室で、総統領であるラグルーノ・バッハは側近から神聖銀河帝国の大艦隊が共和国領内に侵攻して来たのを知らされ、驚愕していた。

「何故だ? 休戦協定を破るのか?」

 ラグルーノは混乱していた。

「しかし、それは我が方の見立てであって、神聖銀河帝国の見解は不明です。休戦協定は正式には結ばれておりません」

 側近の言葉はラグルーノには聞こえていなかった。

「ザギマはどうしている!?」

 ラグルーノは知恵袋のメケトレス・ザギマにすがろうと考えた。

「私ならここに」

 総統領補佐官であるザギマが部屋の端から進み出た。ラグルーノは引きつった顔で無理に笑顔を作ると、

「おお、ザギマ、そこにいたのか。すぐに軍を差し向けさせてくれ。神聖銀河帝国など、撃退しろ!」

 ザギマを指差した。

「無理です」

 ザギマは事もなげに告げた。

「はあ?」

 ラグルーノはせり出した腹をさすりながら眉間にしわを寄せてザギマを睨んだ。

「貴方が国防費を削ってしまったせいで、共和国軍は武器弾薬がまるで足りていません。降伏するしかないでしょう」

 ザギマはラグルーノを睨み返した。

「え?」

 ラグルーノはハッとした。

「貴方が総統領執務室を豪奢に改装させ、奥様に好きなだけ贅沢をさせた結果です。責任をお取りください」

 ザギマはそれだけ言い捨てると、執務室を出て行った。側近も分が悪いと悟ったのか、それに乗じて出て行った。

「バカな……」

 ラグルーノは膝から崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ