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悪意の増幅

 ジャンヌはカールのやり方に怒りを覚えていた。

「カール・ハイマン、絶対に許さない!」

 ジャンヌは備え付けの簡易宇宙服を着ると、小型艇を出た。空気の流出は収まり、格納庫は完全に宇宙空間と同一になっていた。

「待てよ、ジャンヌ!」

 バレルも簡易宇宙服を着込んでジャンヌを追いかけた。

「慌てるな、ジャンヌ!」

 パトリシアも簡易宇宙服を身に付けて二人を追った。

「この隔壁、さっき全力で殴ったけど、ヒビが入っただけだった」

 ジャンヌは隔壁を右の拳で叩いた。

「そんな時は、これが役に立つ」

 パトリシアは刀の柄のようなものを出してみせた。

「何、それ?」

 ジャンヌとバレルはパトリシアの取り出したものを見た。パトリシアはフッと笑って、

「母の持ち物だ。黙って持って来た」

 ジャンヌはハッとして、

「怒られるんじゃない?」

 バレルと顔を見合わせた。パトリシアは、

「心配要らない。母はもう使わないと言っていた」

 柄に付いているボタンを押した。するとビームが伸び、刀になった。

「何、これ?」

 バレルは目を見開いた。

「ライトニングソード……」

 ジャンヌは初めて見たはずなのにそれの名を知っていたのに自分で驚いた。

「そうだ。母は、これでジョー・ウルフを斬った事があると言っていた」

 パトリシアは誇らしそうに言った。

「えええ!?」

 ジャンヌとバレルは仰天した。

「見てろ」

 パトリシアはビームを最大にして上段に振りかぶった。

「はああ!」

 ビームが隔壁を一閃して、斬り裂いた。

「うお!」

 迫力に思わず抱き合ってしまったジャンヌとバレルは声を上げ、互いにハッとなって離れた。

「行くぞ、バカップル」

 パトリシアは二人に一瞥くれると、熱で溶けた隔壁をくぐり抜けた。空気の流出がまた始まったが、ハッチが閉じたので、止まった。

「バカップルってどういう意味?」

 ジャンヌが追いかけた。

「知らない」

 パトリシアは振り返らずに応じた。バレルは肩をすくめてジャンヌに続いた。


 カールは、ジャンヌ達が格納庫を突破したのを知らされ、激怒していた。

「何をしている!? すぐに蹴散らせ!」

 他のニューロボテクター隊を差し向けた。

「各艦の部隊も旗艦に移動させろ。全力で奴らを殺せ!」

 カールは携帯端末に怒鳴り散らした。周囲にいるクルー達はカールの横柄さに辟易していた。

「人質を連行しました」

 エミーを拉致した別働隊がブリッジに来た。エミーは薬を嗅がされ、眠っている。

「よし、俺の部屋へ連れて行け。服を脱がせて、逃亡できないようにしろ」

 カールは下卑た笑みを浮かべ、眠っているエミーを見た。

「はっ!」

 別働隊はエミーを背負ったままブリッジを出て行った。

「奴らはどうしている?」

 カールは通信兵に尋ねた。

「現在、ブリッジに向かって来ています」

 通信兵はカールを見た。カールはニヤリとして、

「では、ここはもぬけの殻にして、爆弾を仕掛けろ。艦が吹き飛ばない程度のものを使えよ」

 専用の隠し通路を使い、自分の部屋へと向かった。

「どうする、あのバカ?」

 カールがいなくなった途端、通信兵が他のクルーに訊いた。

「どさくさに紛れて、脱出しよう。あんなバカについていたら、命がいくつあっても足らないよ」

 操縦士が応じた。他のクルーも頷いた。

「じゃあ、この艦が吹き飛ぶくらいの爆弾を置き土産にしてやるか」

 レーダー係が笑った。他のクルー達も笑った。

「そうと決まったら、即行動だ」

 ブリッジのクルー達は爆弾を仕掛けると、一人残らず退散した。


「む?」

 パトリシアが不意に走りを止めた。

「どうした、パット?」

 バレルが尋ねた。パトリシアはジャンヌを見て、

「感じなかったか、ジャンヌ? カールのではない別の悪意を」

 バレルはパトリシアに無視されたのでムッとしたが、勝てる相手ではないので、何も言わなかった。

「感じた。何かを企んでいるようね」

 ジャンヌはパトリシアを見た。

「どういう事だよ?」

 バレルはジャンヌにまで無視されたので、口を尖らせた。

「感じていないの? ブリッジにいる連中の悪意を?」

 ジャンヌが半目でバレルを見た。

「え? 感じてないけど……」

 バレルは前を走るパトリシアの尻を見ていたので、クルー達の悪意に気づけなかったのだ。しかし、それを言えば、タダではすまないので、鈍感なふりをした。

「最低」

 ジャンヌはバレルの素振りを罵り、彼を追い抜いてパトリシアを追いかけた。

「ああ、待ってよ!」

 バレルはジャンヌに気づかれたのかと思って一瞬焦ったが、すぐに思い直して走り出した。


「え?」

 ゲルマン星の監禁室に閉じ込められているマーカム・キシドムは、突然扉を開けて入って来た女に驚いた。

「お前がマーカム・キシドムだな?」

 入って来たのは、マーカム暗殺を命じられたクレウサであった。彼女の顔はこれから人を殺す顔ではない。全く感情を見せていなかった。

「君は誰だ?」

 マーカムはクレウサの美貌に胸を高鳴らせた。

(もしかして、夜伽よとぎの?)

 するとクレウサは一瞬のうちにマーカムに近づき、右手で彼の首を掴んだ。

「ぐう……」

 マーカムは全く抵抗できずに壁に押し付けられた。

「父上のご命令だ。死ね」

 クレウサは眉一つ動かさずに右手に力を入れた。

「かはあ……」

 マーカムの顔色が赤くなり、やがて紫色に変わっていく。

(何だ? この女は?)

 それがマーカムの最後の思考だった。彼は気道を握り潰されて呼吸できなくなり、やがて絶命した。クレウサは脱力したマーカムの首から手を放した。マーカムの遺体はそのまま壁伝いに崩れ落ち、前のめりに床に倒れた。クレウサはマーカムの死を確認する事なく、部屋を出て行った。


「完了したか」

 執務室にいるクラークは、クレウサがマーカムを一瞬のうちに殺害した事を知った。

「私だ。マーカム・キシドムの遺体を火葬して宇宙に放り出せ」

 携帯端末に告げると、クラークはフッと笑って回転椅子に寄りかかった。

(クレウサはカサンドラよりも有能だ。しかも、カサンドラの失敗を学習しているから、感情を封印している。最高の暗殺者だ)

 クラークは携帯端末でクレウサに連絡した。

「はい、クレウサです」

 クレウサの無感情な声が応じた。モニターに映る顔も無表情である。

「よくやった、クレウサ。次は惑星マティスだ」

 クラークはクレウサを見て目を細めた。

「畏まりました、父上」

 クレウサは抑揚のない声で言った。

「頼んだぞ」

 クラークはそれだけ告げると、携帯端末を切った。

(天の川銀河の統一。長年の夢がもうすぐ叶う。それが完遂したら、次は大マゼラン、小マゼラン。そして、アンドロメダ銀河)

 クラークは最終的に全宇宙を神聖銀河帝国の支配下に置く事を考えていた。

「タミル・エレスにつないでくれ」

 クラークは携帯端末に命じた。

「すぐに」

 通信兵が応じた。


「こっちだ、ジャンヌ」

 パトリシアが廊下の角を曲がった。

「え? そっちはブリッジじゃないよ」

 ジャンヌが驚いて告げると、

「わかっている。エミーはこっちだ」

 パトリシアは振り返らずに応じると、速度を速めた。

「ちょっと、パット、速いって!」

 バレルが泣き言を言ったが、

「あんたが遅いのよ!」

 ジャンヌにダメ出しされた。

「へい……」

 バレルはしょぼくれながらも、二人を追いかけた。

「ここだ」

 パトリシアは頑丈そうな扉の前で止まった。

「ここにエミーとカールがいる」

 パトリシアはまたライトニングソードを構え、ビームを全開にした。

「え? エミーが?」

 ジャンヌは改めて扉を見た。バレルはライトニングソードのビームにビビっていた。

「はああ!」

 パトリシアが扉を斬った。

「む?」

 先程の隔壁よりも頑丈なのか、表面は溶けたが、斬り裂く事ができなかった。途端に何十人ものニューロボテクター隊が現れた。

「パットは扉に集中して。こいつらは私とバレルで片づける」

 ジャンヌはニューロボテクター隊を睨みつけた。

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