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エミーの戦い

「カール・ハイマン、もう貴方は仲間じゃない。神聖銀河帝国に忠節を誓った段階で、敵。許さない!」

 エミーはタトゥーク星に降下して来るカールの艦隊の映像を見て叫んだ。

「エミー、これはお前の戦いだ。奴を倒せ。そうしなければ、お前は死ぬ」

 アメアが真顔で告げたので、エミーはギョッとしたが、

「うん、わかってる。必ずカールをやっつける。力を貸して、アメア」

 アメアの右手を両手で握りしめた。

「わかった。パットとジャンヌが手を貸す。安心しろ」

 アメアはエミーの手を振り払うと、司令室を出て行ってしまった。

「ええ?」

 エミーはアメアにあしらわれたと思ったが、

「大丈夫、エミー。アメアさんは遠くから助けてくれる。心配要らない」

 ジャンヌはエミーの右肩に右手を載せた。

「ありがとう、ジャンヌ。そうね」

 エミーはそれでもまだ不安そうだった。

「何だ、エミー、ジャンヌと私では不満か? 私はカール・ハイマンなど、瞬殺できるぞ」

 パトリシアが司令室に入って来た。

「え? ああ、そんなつもりはないよ、パット。貴女達がいてくれれば、カールなんて何もできはしないわ」

 エミーは顔を引きつらせて応じた。

「艦隊の数がわかりました! 旗艦を含め、総数二十。戦艦級が五隻、巡洋艦級が七隻、駆逐艦級が八隻です」

 レーダー係が告げた。

「やばいな。こっちは戦艦はアメアさんの専用艦しかないぞ。どうするんだ、ジャンヌ?」

 バレルがジャンヌを見た。ジャンヌは艦隊の映像を見たままで、

「こっちから仕掛ける。旗艦を占拠して、カールを捕縛する」

 白兵戦を挑む事を提案した。

「旗艦に乗り込むって、どうやって?」

 バレルが訊くと、

「小型艇で接近して、潜入するのよ」

 ジャンヌは弱腰のバレルに詰め寄った。

「無茶だよ。相手は疑似ビリオンスヒューマンだぞ?」

 バレルは尚も弱腰だった。

「私達は正真正銘のビリオンスヒューマンよ! こっちの方が上!」

 ジャンヌはバレルの顔にキスをするのかというくらい近づいた。

「ジャ、ジャンヌ、ここではちょっと……」

 元々そういう事しか考えていないバレルは顔を赤らめた。

「え?」

 ジャンヌは顔が近いのをそこでようやく理解して、

「バ、バカ!」

 慌てて離れた。

「何にしろ、こちらは戦力が少ない。ジャンヌの案が一番確実だ」

 パトリシアはジャンヌに賛成した。

「わかったよ。俺も行く」

 バレルが言うと、

「当たり前でしょ! あんた、行かない選択肢があると思ってたの?」

 ジャンヌは半目でバレルを見た。

「そうだね……」

 バレルは顔を引きつらせた。

「無茶はダメよ、ジャンヌ」

 ずっと黙って聞いていたカタリーナが口を挟んだ。

「もちろん。慎重に確実に迅速にやるわ」

 ジャンヌはカタリーナを見た。カタリーナは黙って頷いた。


「面白くなって来たね」

 カール達の動きを掴んだアテナ・ルビルは自船のブリッジのキャプテンシートに座ってほくそ笑んだ。

「まず、問題なくジャンヌ達が勝つ。それを口実にクラークが大艦隊で押し寄せ、制圧する。そんなところだろうよ」

 アテナはシートに身を沈めた。

「だけど、あそこにはアメア・カリングっていうとんでもない人間がいる。一人で一国の戦力になるくらいのね。只、彼女は気まぐれ。どこまで本気になるかが鍵だね」

 すると側近が、

「それで、我々はこれからどうすればいいんですか?」

 アテナは側近を見て、

「高みの見物だよ。但し、タミルおばさんが動くなら、話は別だよ」

 目を閉じた。側近は溜息を吐いて窓の外を見た。


 アテナにおばさん呼ばわりされたタミル・エレスも、カールの動きを察知していた。

(クラーク・ガイルめ、何を企んでいる? アメア・カリングを刺激すれば、厄介な事になるぞ)

 タミルはクラークの意図を測り兼ねていた。

(神聖銀河帝国がタトゥーク星に手を出さなかったのは、アメア・カリングがいるからだ。そして、銀河共和国も、アメアに遠慮してタトゥーク星を攻撃していない。だが、カサンドラが侵攻した時、アメアは積極的には動かなかった)

 タミルは眉間にしわを寄せた。

(一方で、カサンドラがタトゥーク星にいるとの情報もある。それか?)

 タミルはカサンドラがクラークの呪縛を逃れたのを知らない。

(カサンドラがタトゥーク星の中からカール・ハイマンを手引きするつもりか?)

 タミルは間違った推論をした。

「ゲルマン星にいる斥候せっこうはどうした? クラーク・ガイルは何をしている?」

 通信係に問いかけた。通信係は、

「ここ数日、連絡が取れません。正体がバレて始末されたのであれば、その通信が入るはずですが、それもないので、クラーク・ガイルが姿を消していると思われます」

 タミルは歯軋りをして、

「役に立たない斥候だね。クラークは何を考えているんだろう?」

 腕組みをした。


「私も行く」

 エミーがジャンヌに告げた。ジャンヌはパトリシアと顔を見合わせてから、

「わかった。一緒に行きましょう」

 エミーの申し出を受け入れた。

「エミー、ジャンヌやパットは特別だから、ついて行こうとしないでね」

 カタリーナがエミーに耳打ちした。

「わかってる。私もそれくらいのわきまえはあるわ、カタリーナ」

 エミーはカタリーナにウィンクをした。

(エミーさんて、可愛いな。いくつだっけ?)

 またバカな事を考えているバレルである。それに気づいたジャンヌが、

「バレル」

 静かに怒りを伝えた。

「はい!」

 バレルはビクッとして直立不動になった。

「じゃあ、行って来るね、母さん」

 ジャンヌは微笑んで母を見た。

「気をつけてね、ジャンヌ」

 カタリーナは微笑み返した。

「行くぞ、ジャンヌ」

 パトリシアは先に司令室を出て行った。

「待ってよ、パット。エミーさん、行きましょう」

「ええ」

 ジャンヌとエミーがパトリシアを追いかけた。

「おい、待てよ!」

 バレルはそれを追いかけた。

(何だか、カールの悪意を感じる。考え過ぎかしら?)

 カタリーナはスクリーンに映る艦隊の映像を見上げた。


「地上より、一隻、小型艇が発進しました。こちらに向かっています」

 レーダー兵が伝えた。

「一隻? 何のつもりだ? 投降か?」

 カールは眉をひそめたが、

「む?」

 疑似とはいえ、ビリオンスヒューマンになったおかげで、ジャンヌ達の存在を感じる事ができた。

「そういう事か。戦力が少ない銀河の狼が戦うとすれば、こちらに突っ込むしかないという事だな」

 カールは不敵な笑みを浮かべた。

「願ってもない。エミーもいるようだ。エミーを捕縛して、ゲルマン星に帰還し、我が子を産ませる」

 カールが下卑た笑みを浮かべた。カールにとって、タトゥーク星などどうでもいい存在である。エミーが手に入れば、後はどうでもよかった。

「攻撃はするな。連中の目的は俺だ。そのまま旗艦に招待しろ。その上でまとめて始末してやる」

 カールはキャプテンシートに座ると、窓の外を睨んだ。

(エミー、お前には俺の子を何人も産んでもらう。そして、クラーク閣下にお願いして、全員ゲノム編集を施してもらい、天の川銀河の統一に貢献させる)

 カールは舌なめずりをした。


「く……」

 エミーは小型艇の中でカールの悪意を感じていた。彼女はビリオンスヒューマンではないが、それでもわかってしまう程、カールの悪意は凄まじかった。

「大丈夫、エミー?」

 ジャンヌが気遣った。エミーは苦笑いをして、

「何だか、カールの気持ち悪い顔が浮かんだの」

「カールの? それ、あいつの悪意だよ。さっきからとめどなく押し寄せて来ているわ」

 ジャンヌが告げると、エミーはギョッとして、

「そうなの?」

 バレルが、

「意識をしっかり持っていないと、奴の悪意に呑み込まれるよ、エミー」

「そうなの?」

 エミーは目を見開いた。

「心配ない。私が護っている」

 パトリシアが前を向いたままで言った。

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