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クラーク・ガイルの謀略

「貴公はここで待つのだ、マーカム・キシドム」

 回廊の途中で、マーカムはクラークに告げられ、脇にある部屋に押し込めれた。そこは窓もなく、照明も薄暗い場所だった。

「え、どういう事だ?」

 マーカムはクラークに問いかけたが、クラークはフッと笑って部屋のドアを閉じさせた。施錠させる音が聞こえ、マーカムがドアノブを回したが、ドアは開かなかった。

「くそ、謀ったな、クラーク・ガイル!」 

 マーカムは歯軋りしたが、すでに遅かった。

「さあ、エレクトラ様、こちらです」

 クラークはすでに支配下に置いているエレクトラを伴い、先へと進んで行った。

(この女にゲノム編集を加えれば、三十代くらいまで若返りそうだな。今のカサンドラよりも強いカサンドラを産んでくれそうだ)

 クラークはエレクトラの腰をジッと見つめた。

「エレクトラ様を浴室へ。隅々までお磨きしろ」

 クラークはアンドロイドの女官達に命じると、自室へと向かった。エレクトラはアンドロイド達に連れられ、浴室へと行った。


 ジャンヌ達の乗る小型艇は、ジャンピング航法でタトゥーク星の公転軌道に到達した。

「カサンドラ、起きて。もうすぐ着くから」

 ジャンヌはカサンドラの方を揺すった。

「え?」

 カサンドラはうっすらと目を開いた。

「アメアさんと話せば、貴女の不安はなくなるから。アメアさんはきっと貴女を導いてくれるはず」

 ジャンヌは大気圏突入の準備を進めながら、カサンドラに告げた。

「わかった」

 カサンドラはクラークの支配から脱したせいで、激しい性格が消えていた。

「バレル!」

 ジャンヌはバレルがカサンドラをヘラヘラして見ているのに気づき、怒鳴った。

「はい!」

 バレルは背筋を伸ばして応じた。そして、

「あのさ、アメアさんはともかく、パットは大丈夫か? かなりカサンドラとやり合ったからさ」

 ジャンヌはバレルの言葉にギクッとした。

「ああ、そうね……」

 パトリシアの性格を考えると、カサンドラにいきなり襲いかかる可能性は考えられた。

「その時は、バレルが止めてね。パットは貴方の言う事は聞くと思うから」

 ジャンヌは微笑んでバレルを見た。

「え? そうなの?」

 バレルは」目を見開いた。

(呆れた。パットの気持ち、全然気づいていないの?)

 ジャンヌは溜息を吐いた。

「アメア・カリングの娘の事か? 私は別に彼女に殴られても構わない。それで気がすむのであれば」

 カサンドラが意外な事を言ったので、

「ええ?」

 ジャンヌとバレルは異口同音に声を発した。


 入浴を終えたエレクトラは実験室に通されていた。白衣を着た医師団が彼女をベッドに寝かせて、あらゆる検査を始めた。血液を採取され、身体の中を調べられた。

「特に持病はないようです。ゲノム編集を開始します」

 それを隣の司令室で見ていた医師団のリーダーがクラークに携帯端末で告げた。

「わかった。カサンドラを産ませるのだ。慎重にやれよ」

 クラークが命じた。

「はい」

 リーダーはそれに応じると、医師団に指示を出した。医師団はエレクトラの首の大動脈に医療用の銃で何かを打ち込んだ。すると、エレクトラの身体が首から次第に若返っていった。しわが立ちどころに消え、髪が黒々とし、胸は張りが戻り、弛んでいた腰回りの肉が引き締まった。

「出産に必要な部位は若返って復活しましたが、卵母細胞の復活はなりませんでした。すでに年月が経ちすぎたせいで、無理でした」

 医師団の一人が報告した。

「それは想定内だ。エレクトラには子宮だけ貸してもらう。そこで受精卵を着床させ、カサンドラを産んでもらう」

 クラークは携帯端末を通じて命じた。

「わかりました」

 医師団は作業を続けた。

「理由はまだ解明されていませんが、培養液の中で成長させると死亡率が急速に上昇してしまいます。長官のご選択は正しいです」

 医師団のリーダーが割り込んで告げた。

「できるだけ自然に近い状態で産むのが最適なのだよ」

 クラークはフッと笑い、

(できれば、エレクトラを味見してみたかったがな)

 下卑た顔になった。


(この空気、耐え難い……)

 ジャンヌは思っていた通りの事が起こり、顔を引きつらせていた。「銀河の狼」の本部に着いたジャンヌとバレルは大歓迎されたが、カサンドラが一緒なので、本部のメンバー達に緊張が走り、パトリシアに至っては、アメアが止めなければ、確実にカサンドラを殴っていた。パトリシアはアメアが怖いので、おとなしくなったが、エミー達「銀河の狼」の所属員達は、カサンドラを憎しみの目で見ていた。

「カサンドラ、私の部屋へ来い。話を聞いてやるぞ」

 アメアはまるでジャンヌの心を見透かしたかのように告げると、エミー達の視線をものともせずにカサンドラの肩を抱いて本部の中へと入って行った。アメアには恩があるエミー達は何も言わずにそれを見ていたが、アメアとカサンドラの姿が見えなくなると、

「一体どういう事、ジャンヌ? 敵を連れて来るなんて」

 エミーが代表して問いかけて来た。ジャンヌは溜息を吐いて、

「カサンドラはクラーク・ガイルに操られていたの。もうその呪縛は解けたから、何も心配要らないわ」

「でも……」

 エミーはそれでも不満そうな顔でジャンヌに言い返そうとした。すると、

「エミーさん、そんな怖い顔しないでよ。美人が台無しだよ」

 バレルがエミーの肩を抱いた。ジャンヌはムッとしたが、

「ああ、うん……」

 エミーが顔を赤らめておとなしく引き下がったので、何も言わなかった。

(バレルって、本当に女性を手玉に取るのがうまいのよね。心配)

 これから先、いろいろ揉めそうだと思ったジャンヌは肩をすくめて、

「とにかく、カサンドラの事はアメアさんに任せてください、エミーさん。何かあったら、私が責任を取りますから」

 バレルの腕をエミーから払い除けて、微笑んだ。バレルはジャンヌが怒っていると感じて、ビクッとした。

「わかった」

 エミーは顔を赤らめたままで、他のメンバー達と本部へ入って行った。

「母さんはどう?」

 ジャンヌはパトリシアに尋ねた。

「お祖母様、じゃなくて、カタリーナさんはベッドから起き上がれるようになったよ。会話も問題なくできるし」

 パトリシアはバレルを気にしながらジャンヌに答えた。

「本人の前でその言葉は厳禁よ、パット。それから、私の事も叔母様って呼ばないでね」

 ジャンヌは笑いながら告げた。

「もちろんよ、ジャンヌ」

 パトリシアはバレルをチラッと見てから、

「先に行っているね」

 本部の中へ走って行った。

「気を利かせてくれたのかな?」

 バレルがジャンヌの肩を抱いて呟くと、

「さあね」

 ジャンヌはバレルの腕を撥ねつけて、本部へ入って行った。

「つれねえなあ」

 バレルは口を尖らせて、ジャンヌを追いかけた。


「は……」

 エレクトラはベッドの中で目を覚ました。

「お目覚めですか、エレクトラ様」

 ベッドの脇にクラークが立っていた。その背後には、医師団のリーダーが携帯端末を抱えて立っている。

「私は……?」

 エレクトラは自分の声に驚いた。

(え? 今の、私の声? 私の声はもっと低かったはずなのに……)

 戸惑っているエレクトラに、

『貴女は我が娘カサンドラを産むのです、エレクトラ様』

 クラークが精神波でエレクトラを再び強く縛った。

(ゲノム編集の影響で、縛りが弱まったようだ。定期的に支配をし直さないとならないか)

 クラークはエレクトラがゲノム編集により、擬似的なビリオンスヒューマンになりかけているのを感じた。

(編集前に比べて、細胞の活性化が激しくなっている。すでに予想の三十代を超え、二十代になった。これはカサンドラだけではもったいないな)

 クラークは目を細めてエレクトラを見た。

皇帝陛下フランセーズの精子を冷凍保存したのは正解だった。ルイとバレルの子を望めないのであれば、皇帝陛下の御子をエレクトラに産んでもらえばよい)

 クラークはリーダーを見た。

「全く予想外です。卵母細胞ができ始めています。今までの治験者ではあり得なかった事です。原因を究明しています」

 リーダーの言葉にクラークはニヤリとした。

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