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二人の武器商人

 天の川銀河は、一気にきな臭い状況になっていた。


 ジャンヌ達は無事にタトゥーク星に帰還した。クラーク・ガイルはジャンヌに負わされた骨折の回復が思った以上に進まず、動きをひそめていた。


(ジャンヌの攻撃に何か秘密があるのか? いつもより回復が遅れている。特に頭の骨の治りが遅い)

 クラークは毎日酷い頭痛に襲われ、ジャンヌとジョー・ウルフに滅多打ちにされる悪夢を見続けていた。しかも、皇太子として拉致したバレル・ローリンとカサンドラの関係もうまくいっていなかった。

「あいつ、全然ダメなのです。これでは子作りができません」

 カサンドラは屈辱にまみれていた。バレルを完全に操っているはずなのに、彼がカサンドラに魅力を感じていないのか、行為を行えない日が続いているのだ。

「ならば、強制的に採取して、人工授精により、妊娠すればいい」

 クラークは簡単にそう告げたが、

「嫌です! そんな、機械的なやり方、私のプライドが許しません!」

 カサンドラは人工授精に強い拒否反応を示した。

(どういう事だ? またカサンドラが私の支配を拒むようになっている。ジャンヌとは接触していないのに)

 クラークはカサンドラを「教育」し直さなければならないと考えた。そんな苛つきがあるせいで、傷の回復はより遅れていた。

(こだわり過ぎたのか? 旧帝国の血統など、どうにでも誤魔化せるはずなのに、エリザベート皇帝の縁戚者としてのフランセーズ・ド・ジャーマンの血族を望んだために、ジョー・ウルフの遺伝子を持つ者が関わって来てしまった。ジャンヌ、アメア・カリング、パトリシア・カリング……。そして、カタリーナ・パンサー……)

 ニコラス・グレイをも倒したジョー・ウルフの遺伝子を持つ者は、クラークにとっては、忌まわしき存在である。それを排除するための神聖銀河帝国の創設であったのに、逆にジョー・ウルフの遺伝子を呼び込む事になってしまった。

(ニコラス・グレイをジョー・ウルフが始末してくれたのは歓迎すべき事だった。しかし、ブランデンブルグの遺伝子も受け継いでいるアメア・カリングが総統領を続け、しかもアンドロメダ銀河連邦の軍人であるミハロフ・カークと子を成してしまった。これがまず最初のイレギュラーだった)

 パトリシアの誕生はクラークにとって想定外だった。

(カサンドラの誕生を急がせたのは、そのせいでもあった。だが、急ぐあまり、カサンドラは不完全な状態で誕生してしまった。関わる相手次第で、その感情が大きく揺れ動く。いくら支配を強めても、あいつは逆らう。いっそ、消去するか?)

 カサンドラはクラークの想定とは違った成長をしているのだ。

(カサンドラをリセットして、新たなカサンドラを誕生させるには、ジョー・ウルフとは関わりがない女の身体が必要だ。カタリーナ・パンサーではダメだ。もちろん、ジャンヌでもアメア・カリングでも、パトリシア・カリングでも)

 クラークの頭の中にある女が浮かんだ。

(ギャザリー・ワケマク。年齢的にもちょうどいい。あの女を使うか)

 クラークはニューロボテクター隊を動員して、ギャザリーの消息を探させる事にした。


 タトゥーク星の「銀河の狼」の本部では、一人の男が詰められていた。

「俺がスパイ? 冗談じゃない。証拠でもあるのか?」

 メンバーの一人であるカール・ハイマンは、自分の部屋に押しかけて来たアメア・カリングとジャンヌ、エミー・レイクに囲まれている。

「証拠など要らない。お前はエミーに好意を寄せたが、全く相手にしてもらえず、その腹いせとしてあの下衆の組織に情報を漏洩させていた。これは厳然たる事実だ」

 アメアはカールの襟首を捻じ上げた。

「ぐうう……」

 カールは息ができなくなり、顔色が青ざめていった。

「ダメです、アメアさん!」

 ジャンヌがアメアの手を振り解いた。カールはそのまま床に崩れ落ち、荒く息をした。

(何でこの女、知っているんだ?)

 カールはアメアが自分のしていた事を見ていたのではないかと思い、怯えていた。

「カール、どうなの?」

 エミーがしゃがみ込んで尋ねた。エミーは涙ぐんでいる。長年、仲間として行動を共にして来たカールが組織を裏切っていたとは思いたくないのだ。

「エミー……」

 カールはエミーの潤んだ瞳を見ていられなくて、顔を背けた。

「エミー、今すぐにこいつを追放しろ。こいつは害悪以外の何者でもない」

 アメアはカールを睨みつけた。

「アメアさん、急過ぎます。もう少し、時間をかけて話してからでも……」

 エミーは涙をこぼしてアメアを見上げた。

「わかった。では、こいつが情報を漏洩させていた証拠を掴んでやろう」

 アメアは身を翻すと、部屋を出て行ってしまった。

「ああ、アメアさん!」

 ジャンヌはアメアとエミーを交互に見てから、アメアを追いかけた。

「カール、私には本当の事を言って。情報を流していたの?」

 エミーはもう一度カールを見た。しかし、カールは俯いたままで何も言わなかった。

「わかった。また訊くね」

 エミーは涙を拭って、部屋を出て行った。

「くそ!」

 カールはエミーが出て行ったのを見届けてから、床を右拳で殴りつけた。


「このようなところでお会いするとは、驚きました」

 アンドロメダ銀河の辺縁部の宙域のある惑星で、二人の女が宇宙船ドックの控え室にいた。かつて宇宙を股にかけて莫大な富を気づき、戦争の当事者双方に武器を売っていたヤコイム・エレスの娘、タミル・エレス、そして、もう一人は、同じく武器商人であったジャコブ・バイカーの二番目の妻の娘、アテナ・ルビルである。声をかけたのは、アテナの方である。黒髪で黒目。二十代後半くらい。小柄でややふくよかな巨乳の彼女は、はち切れそうな革製のつなぎを着ている。対して、タミルは銀髪碧眼。長身痩躯で、ローブのような白い服を着ている。

「あら、どちら様?」

 タミルは知っていてとぼけた。アテナは肩をすくめて、

「まあ、まだボケる年でもないでしょうに。お忘れですか、貴女の父上の良き競争相手だったジャコブ・バイカーの娘のアテナ・ルビルです、タミル・エレスさん」

 携帯端末で身分証を表示して見せた。タミルは半目になって、

「そうなの。全然記憶にないくらい影が薄かったのかしらね?」

 仰け反って、上から見下すような眼差しを向けた。アテナはクスッと笑って、

「そうでしたか。では今度はよく覚えていただけるようにしませんとね」

 右手でタミルの襟首を掴んだ。

「くっ!」

 タミルは小柄なアテナの予想外の力に一瞬怯んだ。

「舐めた真似をしないでくださいね。先程、アンドロメダ銀河連邦の通商部と連絡を取りましたら、予約が強引に取り消されたと言われました。ちょっとその係員に握らせましたら、すぐに貴女のお名前を吐きましたよ」

 アテナはタミルを突き飛ばした。タミルは全て筒抜けなのを知り、唖然とした。

「人生の先輩で、この業界の先輩でもある貴女が、随分とつまらない事をなさるのでがっかりです」

 アテナはタミルに詰め寄ると、

「今度は許しませんよ、おば様」

 ニヤリとすると、きびすを返して立ち去った。タミルは言葉を失ったまま、アテナを見ていた。


「さすが、アテナ様。これでタミルおばさんはおとなしくなるでしょう」

 アテナを待っていたかのように立っていた男が言った。

「甘いね。あのヤコイム・エレスの娘だよ? あれくらいで引き下がるはずがないよ。また私を陥れようと躍起になるさ」

 アテナはフッと笑った。

「まあ、何度仕掛けて来ても、全部倍返ししてやるけどね」

 アテナの顔が狡猾に歪んだ。

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