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渦巻く策謀

 ギャザリー・ワケマクの鋭い勘で、部隊は撤収を開始した。しかし、マーカム・キシドムの仕掛けた罠の方が早く発動した。ギャザリーの部下の多くは脱出に成功したが、幾人かは基地のあちこちに仕掛けられた爆弾の餌食になってしまった。

(マーカム・キシドムめ、えげつない事をする奴だ。この借りは必ず返すよ)

 燃え盛るミンドナの基地を飛び立ちながら、ギャザリーは復讐を誓っていた。

「姐さん、連中の艦が離脱して行くのを捉えました。ぶっ放しますか?」

 側近の大男が告げたが、ギャザリーは、

「いや、白兵戦ならともかく、艦隊戦は不利だよ。この宙域を離れるんだ」

「わかりました」

 大男は不満そうに応じた。

「何だい、何か言いたそうだね?」

 ギャザリーはそれを感じて詰め寄った。

「いいえ、そんな事はありません」

 大男は顔を引きつらせた。

「それより、あの大佐殿にはきちんとお帰り願ったのかい?」

 ギャザリーはニヤリとした。大男もニヤリとして、

「もちろんです、姐さん」

 反共和国同盟軍情報部のギルバート・マクロム大佐は、爆発炎上するミンドナの本部の建物に置き去りにされていた。そして、炎に包まれ、その生涯を閉じた。


 マーカム・キシドムは、ギャザリー達が脱出に成功した事を知ったが、

「今はギャングに戦力を割いている場合ではない。あの女の背後に共和国政府がいるのであれば、そちらに備える必要がある。放っておけ。直ちにジャンピング航法でこの宙域を離脱しろ」

 マーカムは旗艦のキャプテンシートに座ると、操舵士に命じた。

「畏まりました」

 操舵士はすぐにジャンピング航法の準備を始めた。

(痛み分けか。それにしても、忌々しい女だ)

 マーカムもまた、ギャザリーに復讐を誓った。

(アンドロメダ銀河連邦が供与してくれた武器で、手始めに共和国を滅ぼし、次に神聖銀河帝国を名乗るならず者国家を殲滅する。そして、我が同盟軍は、銀河連邦を創設するのだ)

 マーカムは果てしない野望を思い描いていた。


「クラーク・ガイル!」

 途中で合流したジャンヌとパトリシアは、同時にブリッジに飛び込んだ。

「ようこそ、ジャンヌ、パトリシア」

 クラークは不敵な笑みを浮かべ、恭しくこうべを垂れた。

「母さん、アメアさん!」

 ジャンヌは叫んで、二人に駆け寄った。

「お母さん! お祖母様!」

 パトリシアも叫んで駆け寄った。

(お祖母様?)

 カタリーナの顔がひくついたが、今はそんな事を咎めている場合ではないと思った。

「それ以上近づくと、カタリーナの脳が潰れるぞ」

 クラークはチラッとカタリーナを見た。

「え?」

 ジャンヌはビクッとしてた立ち止まった。

「ぼざくな!」

 しかし、パトリシアはそのままクラークに突進した。

「何!?」

 クラークはパトリシアの予期せぬ行動に一瞬怯んだ。

「くらえ!」

 パトリシアの渾身の右ストレートがクラークの顔面を捉えた。

「ぐはっ!」

 クラークはそのまま吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。

「長官!」

 周囲にいた部下達が駆け寄ったが、パトリシアは止まらない。

「どけ!」

 一瞬で蹴散らすと、クラークに馬乗りになり、顔面を連打した。血飛沫が上がり、クラークの顔が次第に腫れ上がっていった。

「やめて、パット! 母さんが……」

 ジャンヌはパトリシアを羽交締めにした。

「邪魔するな、ジャンヌ! こいつはこのままぶち殺す!」

 パトリシアはアメアから受け継いだ凶暴性を発揮し、ジャンヌを振り払った。

「ダメ、やめて、母さんが耳と鼻から血を流しているのよ!」

 ジャンヌが泣きながらパトリシアに叫んだ。

「え?」

 ようやく何が起こっているのかわかったパトリシアはクラークを殴るのをやめて、カタリーナを見た。カタリーナは鼻と耳から血を流して意識を失っていた。

「お祖母様!」

 パトリシアは驚いてカタリーナに駆け寄った。

「パット、母上は大丈夫だ。あの下衆に止めを刺せ!」

 アメアは怒りに震えて怒鳴った。

「精神波には集中が必要だ。クラーク・ガイルに集中させるな!」

 アメアは更に叫んだ。

「はっ!」

 ジャンヌはクラークが回復しているのに気づいた。

「ダメェッ!」

 ジャンヌはクラークがカタリーナに精神波を放つのを見て、それを止めようと立ちはだかった。

「むっ!?」

 クラークはジャンヌの前に何かが立つのを見た。

「ジョー・ウルフ!?」

 クラークは目を見開いた。それはジョーの幻影であったが、クラークの精神波を粉微塵に打ち砕いていた。

「父さん?」

 ジャンヌは初めて本当の父親を見た。ジョー・ウルフの幻影はチラッとジャンヌを見ると、微笑み、スウッと消えてしまった。

「クラーク・ガイルゥッ!」

 ジャンヌは発光し、右手のグローヴに集中すると、クラークの顔面を殴った。

「ぶべっ!」

 クラークの鼻骨が折れ、頬骨が砕け、頭蓋骨にヒビが入った。クラークは吹っ飛び、また仰向けに倒れた。

「よし!」

 それを見たアメアが言い、力任せに拘束具を破壊すると、立ち上がった。

「母さん!」

 ジャンヌは気を失っているカタリーナに駆け寄った。

「母上は心配ない、ジャンヌ。脱出するぞ」

 アメアはカタリーナを抱きかかえると、ブリッジを飛び出して行った。

「えええ!? アメアさん!」

 気絶しているカタリーナをそんなふうに扱ってしまうアメアに驚きながらも、ジャンヌは追いかけた。

「お母さん!」

 パトリシアもすぐにそれに続いた。

「おのれ、ジョー・ウルフめェッ!」

 クラークは傷を回復させながら起き上がった。

(この傷のせいで、すぐには精神波を使えない。逃げられてしまう)

 クラークは怒りに任せて床を殴りつけた。


「母上はジョー・ウルフが護ってくれた。やっと来てくれたのだ」

 アメアは通路を走りながら、カタリーナを見て告げた。

(アメアさんはどうして父さんの事を父上って言わないんだろう?)

 ジャンヌはふと思った。アメアの中のブランデンブルグの遺伝子がそれを阻んでいるのだとカタリーナが説明しても、ジャンヌには恐らく理解はできないだろう。

「これを使おう」

 ジャンヌ達は格納庫に着くと、小型艇を奪取して、クラークの戦艦を脱出した。

「ここは……?」

 カタリーナは小型艇の後方にあるベッドで意識を取り戻した。

「母さん!」

 ジャンヌは涙を流してカタリーナに抱きついた。

「あれ? ジョーは? ジョーはどこへ行ったの?」

 カタリーナはまだ焦点が定まらない目で尋ねた。

「父さんはいないよ」

 ジャンヌは涙を拭った。

「そう、なんだ……」

 カタリーナは微笑むと、また意識を失った。

「母上はお疲れなのだ。そっとしておいてやれ、ジャンヌ」

 操縦をしているアメアが、前を向いたままで言った。

「あ、はい」

 ジャンヌはカタリーナから離れ、副操縦席に座った。

「追いかけては来ないようです」

 レーダーを見ていたパトリシアが告げた。

「そうか。ジャンピング航法に入るぞ」

 アメアが言い、小型艇はその宙域から消えた。


「そうか」

 共和国の中枢である惑星マティスの総統領府の一室の総統領補佐官室で、メケトレス・ザギマは部下からの報告を受けていた。

(ミンドナが崩壊したか。ギャザリーめ、しくじったようだが、我が国にとっては朗報だ)

 メケトレスは反共和国同盟軍を滅ぼす絶好の機会が巡って来たと思った。

(これからどう動くつもりだ、ギャザリー?)

 メケトレスは、ギャザリーには何の未練もない。しかし、アトモスには情がある。

息子アトモスさえ手に入れられれば、あの女はどうでもよくなる)

 メケトレスは配下を使って、アトモスを奪う事を考えた。

「残念だったわね、貴方」

 そこへ長い金髪で青い目の女性が現れた。黒のワンピースを着て、アクセサリーをたくさん着けている。

「何の用だ、マーシャ?」

 メケトレスは鬱陶しそうにマーシャと呼んだ女性を見た。マーシャはフッと笑って、

「用なしのギャザリー・ワケマクは無事だったんでしょ? 死んでくれれば手間が省けたのにね」

 白い革張りのソファに座り、脚を組んだ。

「何の事だ?」

 メケトレスは訊き返した。マーシャは肩をすくめて、

「この期に及んで、まだシラを切るつもり? ギャザリーが貴方の長年の愛人で、男の子を産んでいる事くらい、調べはついているのよ? 今となっては、貴方にとってギャザリーは邪魔以外の何者でもないでしょ?」

 メケトレスを睨みつけた。

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