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囚われの二人

 アメアとカタリーナはクラークの部下によって拘束された。アメアの専用艦はアメアにしか操縦できないので、クラークはゲルマン星から戦艦を呼び寄せ、アメアとカタリーナをそれに移すと、ゲルマン星へと降下した。

「カタリーナ・パンサー、驚いたよ。貴女の年齢ならもっと老化が進んでいるはずなのに、貴女はかつての美貌を保っている。ジョー・ウルフの子を身籠もり、ビリオンスヒューマンの遺伝子の影響を受けた結果だな」

 クラークはブリッジの補助席に拘束具で固定したカタリーナを見て言った。その目はよこしまな感情が溢れている。

「貴様、母上には何もするな! 私がいくらでも相手をしてやる!」

 すでに殴られた傷は跡形もなく治癒しているアメアが叫んだ。彼女もカタリーナ同様、補助席に拘束具で固定されているが、カタリーナよりも頑丈なものが使用されていた。

「老化だなんて、随分と私を愚弄しているわね、クラーク・ガイル。ジョーのおかげで、私は実年齢よりもずっと若いのよ。あんたなんか、一瞬で叩きのめせるわ」

 カタリーナはクラークの邪な目を睨みつけた。クラークはカタリーナの挑発を鼻で笑うと、

「いくらでも強がっていろ。親子まとめて、我が側室にしてやる。そして、最強のビリオンスヒューマンを産んでもらう」

 カタリーナの顎を掴み、強制的に上を向かせた。

「母上に触るな、下衆が! 八つ裂きにしてやるぞ!」

 アメアが目を血走らせて怒鳴り散らした。クラークはフッと笑ってアメアを見ると、

「心配しなくても、お前も愛でてやるよ、アメア・カリング」

 カタリーナの右頬を舐め上げた。カタリーナは寒気を感じて、身震いした。

「貴様!」

 アメアは激昂し、今にも拘束具を破壊してしまいそうな勢いで暴れた。しかし、拘束具は軋むだけで、壊れはしなかった。

「あ!」

 近くにいたニューロボテクター隊の一人が、アメアが座らされている補助席自体が床から引き剥がれそうになっているのに気づいた。

「長官、席が破壊されそうです」

 退院が告げると、クラークは右眉を吊り上げて、

「ほお。ならば、カタリーナの脳を潰してしまおうか」

 ニヤリとしてアメアを見た。

「くっ……」

 アメアは暴れるのをやめた。クラークはアメアに近づくと、

「今度暴れたら、お前の母親は二度とお前を認識する事ができなくなるぞ、アメア・カリング」

「やめてくれ。母上には何もしないでくれ……」

 アメアは俯いて言った。クラークは高笑いをして、

「そうか。わかった。素直でよろしい。もうすぐ、お前の娘と対面させてやろう」

 アメアの髪を掴むと、首を後ろに強く引いた。

「ぐ……」

 アメアは歯を食いしばってクラークを睨みつけた。


「バレル!」

 パトリシアは確実にカサンドラとバレルの行方を追っていた。

(あのデブ女、私のバレルに何をするつもりだ!?)

 ジャンヌよりは耐性があるパトリシアだったが、カサンドラが何をするつもりなのかまではわかっていない。

「でも、バレルは……」

 パトリシアはバレルの本心を知ってしまったので、弱気になってしまった。

(バレルを助けても、あいつは……)

 その時、パトリシアは母アメアが近づいているのを感じた。

「お母さん?」

 パトリシアは天井を見上げた。

「む?」

 パトリシアはアメアとカタリーナがクラークに拘束されているのを見た。

「お母さん、お祖母様!」

 決して口にしてはいけないとアメアから言われている言葉を叫んでしまった。しかし、カタリーナには聞こえていない。パトリシアはバレルを探すのをやめて、建物の外へ向かって走り出した。


「わあ!」

 ジャンヌはゲルマン星の衛星軌道上にジャンピングアウトしたので、叫んでしまった。しかも、クラークとカタリーナとアメアが乗っている戦艦のすぐ近くであった。

「あの中?」

 ジャンヌはその戦艦の中に母と姉がいるのを感じた。

「母さん、アメアさん!」

 ジャンヌは警報が鳴り響くコクピットで叫び、小型艇を戦艦に向かわせた。クラークの戦艦から、無数の小型艇が発進して、ジャンヌの小型艇を攻撃して来た。ミサイルと砲弾の嵐である。

「当たるか!」

 ジャンヌは小型艇を錐揉み旋回させながら、戦艦へと接近した。

「オートパイロットにしてと」

 ジャンヌは宇宙服を着込むと、ブースターを背負って、小型艇を離脱した。攻撃は小型艇へと集中し、ジャンヌは難なくその宙域を離れ、クラークの戦艦へと向かった。

(母さん、アメアさん、すぐに助けるからね!)

 ジャンヌは戦艦の装甲に飛びついた。

(宇宙服越しでも使える?)

 ジャンヌはグローヴに集中して、装甲を殴りつけた。装甲は飴細工のようにひしゃげ、穴が開いた。

「よし!」

 ジャンヌは中から噴き出す空気をものともせずに潜入した。


「第五十八番装甲に亀裂が入ったようです」

 モニター係が報告した。

「何?」

 クラークはその時、ジャンヌを感じた。

(もう現れたのか、ジャンヌ。側室候補が続々と増えるな)

 クラークはまた邪な目になった。

「ジャンヌ?」

 カタリーナもジャンヌの気配を感じていた。

(来てはダメよ、ジャンヌ。この男は手強いわ……)

 カタリーナはアメアを黙らせたクラークの狡猾さに恐れを抱いていた。

(また私が盾にされる。ジャンヌはこいつに屈服してしまう)

 カタリーナは自分の不甲斐なさを思い、涙を流した。

「母上……」

 アメアはカタリーナが泣いているのに気づいた。

「ジャンヌ、我らはブリッジだ! 早くここまで来て、この下衆を叩きのめしてくれ!」

 アメアはカタリーナと違っていた。

(ジャンヌはこいつに勝てる。母上を助けてくれる!)

 アメアはクラークを見てフッと笑った。

(何だ? アメア・カリングの反応はどういう意味があるのだ?)

 クラークなアメアの笑みに眉をひそめた。


「うひゃあ!」

 廊下でパトリシアに出会ったニューロボテクター隊は皆悲鳴をあげて逃走した。

「失礼な! 私を化け物と勘違いしている」

 パトリシアは憤然として先へと走り、遂に建物の外に出た。

ゲルマン星(ここ)へ来た時の小型艇がある。あれで脱出しよう)

 パトリシアは小型艇へと走った。

「ジャンヌ?」

 彼女もまた、ジャンヌの存在を感じた。

(ジャンヌもあの戦艦にいるのか? どういう事だ?)

 パトリシアは小型艇に乗り込むと、ゲルマン星を飛び立った。

(無事ならそれでいい。お母さんとお祖母様を助け出したら、バレルを取り戻しに行く。あいつの気持ちがジャンヌにあろうと、そんな事は関係ない)

 パトリシアは決意して、クラークの戦艦へと向かった。


 ギャザリー・ワケマクに乗っ取られた反共和国同盟軍の戦艦は、それを知らない管制塔の指示のより、何の障害もなく着陸態勢を取っていた。

(ぶっ壊しちまうのもいいけど、制圧して、共和国を攻めさせるのもいいねえ)

 ギャザリーの野望は果てしなく膨らんでいた。程なく、戦艦は着陸を完了した。

「抜かるんじゃないよ、ヤロウ共!」 

 ギャザリーは部下達を叱咤した。

「おお!」

 部下達はそれぞれたくさんの武器弾薬を抱えて、飛び出して行った。反共和国同盟軍側は、よもやギルバート・マクロムが拉致されたとは思っていなかったため、易々とギャザリーの配下に管制塔を占拠され、次々に防衛部隊を殲滅されてしまった。しかも、主力の多くをジャンヌ掃討に振り分けてしまったため、戦力が圧倒的に足りていなかった。

「大将は殺すな。生け捕って、共和国への土産にするか、先鋒にするか、相手の出方次第で判断する」

 ギャザリーは次に、

「ミンドナから遠方に展開している艦隊に連絡されたら厄介だ。通信を押さえろ」

 こうして、反共和国同盟軍の本拠である惑星ミンドナはギャザリーの一派に落とされようとしていた。

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