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二人の女

「私が出る! 攻撃中止。当たらないのでは邪魔なだけだ」

 クラークは小型艇の格納庫へ赴き、自分専用の小型邸に乗り込んだ。

「長官、危険です!」

 格納庫にいた記述員の一人が言うと、

「私がやられると思っているのか?」 

 クラークに睨みつけられ、腰が抜けいてしまった。クラークはそのまま小型艇に乗り込むと、格納庫を飛び立った。

(アメア・カリングめ。ほとんど年を取らない理由を調べさせてもらう)

 クラークは、アメアを生け捕り、パトリシア共々、自分の子を産ませるつもりでいた。

(カタリーナ・パンサーはジョー・ウルフと戦う時の格好の盾になる。流石にもう子は産めんだろう)

 クラークはカタリーナを年寄り扱いしていた。カタリーナが知れば、激怒するだろう。

(すぐにけりをつける)

 クラークは小型艇を急速上昇させ、アメアの戦艦へ向かった。


「む?」

 アメアはクラークの接近を感じた。

「来るか、クラーク・ガイル!」

 アメアは怒りを爆発させ、戦艦を急降下させた。

「アメア、どうしたの!?」

 カタリーナは副操縦席にしがみつきながら尋ねた。

「クラーク・ガイルが来ます。叩き潰します」

 アメアは白く輝き出した。

(大丈夫なの、私達?)

 カタリーナは不安になった。

(ジョー、どこにいるの? 助けて。ジャンヌが連れ去られたのよ!)

 カタリーナは訳あって行方をくらませている夫に祈った。

「藻屑と消えよ、クラーク・ガイル!」

 アメアは戦艦に装備されている全ての武器を展開させて、クラークの小型艇に向けて攻撃を開始した。

『いいのか、アメア・カリング? 私を殺せば、貴様の娘の命はないぞ?』

 クラークがアメアの頭の中に直接語りかけて来た。普通の母親であれば、怖気づいてしまうところであるが、

「そんな事はできないのはわかっているぞ、クラーク・ガイル! お前はパットに子を産ませたいのだろう? 下衆め!」

 アメアは言い返した。カタリーナはその言葉にギョッとした。

(パットに子を産ませる? 何を考えているの、クラークという男は!?)

 アメアはフッと笑って、

「しかも、おぞましい事にお前は私にも子を産ませるつもりのようだな。下衆の極みだ!」

 カタリーナは呆気に取られた。

(狂ってるわ、クラーク・ガイルは……。アメアにまでそんな事を……)


 クラークはアメアにすっかり心の内を見抜かれているのを知り、目を見開いた。

(いつの間にそんな事まで読み取ったのだ? やはり、侮れぬ、アメア・カリング……)

 クラークはアメアの戦艦の攻撃を掻い潜り、更に接近をした。

「あの時か?」

 クラークはパトリシアを守るように現れたアメアの幻影の事を思い出した。

(あれは精神波とは違う。何だ、一体?)

 アメアの力の謎にクラークは恐ろしさを感じた。

(戦艦を落とすのは無理だ。直接艦内へ乗り込み、カタリーナ・パンサーを人質にして、アメア・カリングを屈服させるしかないか)

 クラークは攻撃をやめて、接近に集中した。ミサイルとレーザーの猛攻が激しさを増す中、小型艇は確実にアメアの戦艦に近づいて行った。


「くそ、ここどこだ?」

 バレルは迷子になっていた。カサンドラが命じて、袋小路を造らせ、バレルの逃げ道を封じているのだ。

「殿下、お戻りください」

 突然、カサンドラが壁の向こうから現れた。

「うわっ!」

 バレルは驚いて後退あとずさった。

「私は殿下のお子を産みとうございます。どうか、お情けを頂戴ください」

 カサンドラは微笑んで跪いた。

「え?」

 バレルはカサンドラの妖艶な笑みに心を鷲掴みにされた気がした。根がスケベなバレルには、カサンドラの魅力は凄まじいものであった。

(これ、もしかして、操られてる?)

 一瞬、そう思ったバレルであったが、そこまでだった。

「可愛い奴だ、カサンドラ」

 バレルはカサンドラに近づくと、その右手を取り、立ち上がらせた。そして、肩を抱き寄せた。

「嬉しゅうございます」

 カサンドラは頭をバレルの肩にもたれさせた。そして、バレルに見えないようにニヤリとした。


「バレル、何やってるのよォッ!?」

 ギャザリーの船のブリッジで、ジャンヌはバレルの不貞を感じ、絶叫した。

「ひいい!」

 いきなりジャンヌが叫んだので、大男達は悲鳴をあげた。

(一刻も早くこの船を脱出しないと、バレルがカサンドラに……)

 そこまで想像して、ジャンヌは赤面した。男とキスすらした事がないジャンヌにとって、バレルから感じた事は想像を絶していたからだ。

「ああ!」

 ジャンヌはブリッジの窓からもギルバートの戦艦が見えるのに気づき、

「じゃあね」

 大男にウィンクすると、ブリッジを飛び出して行った。

「か、可愛い……」

 誰かが呟いた。それに頷く者もいた。ジャンヌに身包み剥がれた大男も頷いていた。


「うおおお!」

 パトリシアもバレルの不貞を感じて、目を覚ました。

「どこだ、ここは?」

 パトリシアはベッドに寝かされているのを知り、

「あのクソジジイ、何をするつもりだったのだ!?」

 激怒して、寝室を飛び出した。

「あ、こら、ここから先は……」

 寝室の警備に立っていたニューロボテクター五名がパトリシアの行く手を阻んだが、

「邪魔だ!」

 一瞬のうちに叩きのめされた。パトリシアは風を巻いて廊下を走った。

「あのデブ女、私のバレルに何をするつもりだ!?」

 パトリシアは目を血走らせて、バレルとカサンドラがいる場所へ向かった。

「バレルは私のものだぞ!」

 パトリシアは大きな独り言を言った。


 ギルバートの戦艦は、ギャザリーの船をアンカーを使って拿捕すると、武装兵を乗せた小型艇を三隻発進させた。ギャザリーにハッチを開かせ、小型艇ごと乗り込むと、ギルバート自ら陣頭指揮を執り、ブリッジへ通じる通路を進んだ。

「はあ!」

 そこへいきなりジャンヌが現れ、ギルバート以下二十名以上を瞬時になぎ倒すと、呆気に取られているギャザリーをビンタして、小型艇を奪うと船を脱出した。

「あのガキ!」

 意気消沈していたギャザリーだったが、ジャンヌのビンタで息を吹き返した。

「な、何だ、一体?」

 眩暈めまいを感じながら、ギルバートは起き上がった。

「あれがジャンヌだよ。ジョー・ウルフの娘さ」 

 ギャザリーは部下達を呼び寄せて、ギルバートを縛り上げた。

「今度は私の番だよ、大佐殿」

 ギャザリーはギルバートの顔を踏みつけた。

「くそ!」

 ギルバートは恨みがましい顔でギャザリーを睨んだ。

「ジャンヌは追わなくていい。反共和国同盟軍が攻撃すれば、あのガキはミンドナに攻め込んでくれるさ」

 ギャザリーはジャンヌと反共和国同盟軍の衝突を望んでいた。

「私の目論見通りになったよ、大佐殿。アトモスは無事が確認された。あんたのハッタリ、見事だったね。でも、詰めが甘いよ、マクロム」

 ギャザリーは靴のかかとをギルバートの頬に食い込ませた。

「ぐう……」

 ギルバートは苦痛に顔を歪めた。

「アトモスを利用した報い、きっちり受けてもらうよ、大佐殿」

 ギャザリーは狡猾な笑みを浮かべ、ギルバートの前歯を靴の踵でへし折った。

「がはっ!」

 ギルバートは血反吐を吐いてもがいたが、ギャザリーは彼の顔を強く踏みつけて押さえ込んだ。

「たかがギャングだと思ったんだろうが、私も修羅場を数多くくぐり抜けてるんでね」

 ギャザリーは部下を見て、

「このお方を貴賓室にお連れしろ。最高のおもてなしをするんだよ」

 今度は靴の爪先で腹を蹴った。

「グホッ……」

 ギルバートは血と胃液を吐き出して、のたうち回った。大男達はギルバートを取り押さえると、通路を引きずって連行した。ギャザリーはそれを愉快そうに見ていた。

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