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反転攻勢

 ジャンヌは夢の世界にいた。

(どこなの? 私、どうしちゃったの?)

 ジャンヌはギャザリー・ワケマクの指図で、常人の数倍の睡眠薬を投与され、半ば昏睡状態にされていた。普通の人間であれば、呼吸が停止して、死に至る状況だが、ジャンヌはビリオンスヒューマンなので、只深い眠りに就いているだけですんでいる。

(え?)

 その時、不意に誰かが前に現れた。

(誰?)

 ジャンヌはその人物を見定めようと目を凝らした。

『何をしている、ジャンヌ! 早く起きろ! お前を心配して、母上がご出陣されたぞ!』

 それはアメアだった。

(ええ?)

 ジャンヌは母であるカタリーナが「出陣」と聞き、驚愕した。

(それはダメ! 母さんを危険な目に遭わせられない!)

 ジャンヌはもがいた。

「はああ!」

 ジャンヌは霧を振り払うようにして目を覚ました。

「うわ!」

 周囲にいた医療関係者は、いきなりジャンヌが飛び起きたので、仰天して彼女から離れた。

(拘束具が外されてる。よかった)

 ジャンヌは頭を振ってからベッドから飛び出た。

「ひいい!」

 どのような事を伝えられているのか、医療関係者達はジャンヌを化け物のように恐れ、研究室らしき部屋から逃げて行ってしまった。

「失礼な……。私は魔物じゃないわよ」

 ジャンヌはムッとして彼らが出て行ったドアを見た。

「あ!」

 そして、自分が下着姿なのに気づいた。

「もう!」

 顔を火照ほてらせて、周囲を見渡した。幸い、衣服は部屋の隅のワゴンに畳んで置かれていた。グローヴも一緒だ。

(グローヴの秘密には気づいていないようね)

 ジャンヌは衣服を着て、グローヴをはめた。

(さてと。ここをどうやって脱出しようか?)

 ジャンヌは腕組みをした。その時、開け放たれていたドアが自動的に閉じてしまった。

「ああ!」

 医療関係者がジャンヌの事を伝えたのだろう。警報も鳴り出した。

「ロックされている……」

 ドアは施錠され、開けられない。

「できるかな?」

 ジャンヌはグローヴに意識を集中した。

(頑丈そうだけど、ニューロボテクターよりは脆いでしょ)

 ジャンヌの身体が白く輝き出した。

「はあああ!」

 渾身の正拳突きを見舞った。ドアはひしゃげ、廊下に倒れた。

「よし!」

 ジャンヌは研究室を出て、廊下を走った。前方から武装した大男達が走って来るのが見えた。

(敵じゃない!)

 ジャンヌは躊躇う事なく突進すると、風のように舞い、十人はいた大男達を全員気絶させた。


(おいおい、何て事だ!)

 ギャザリーの側近の大男は汗まみれだった。ギャザリーの留守にジャンヌを取り逃したとなれば、どんな目に遭わされるかわからないからだ。

「絶対に逃すな! 必ず捕らえろ!」

 大男は船内中に通信機で怒鳴った。

(畜生、やっぱり姐さんを行かせるんじゃなかった……。総攻撃を喰らっても、ジャンピング航法で逃げれば、何とかなったはず……)

 大男はギャザリーを止めなかった事を後悔した。

「姐さん……」

 大男はギャザリーにキスされた頬をさすった。

「女は警備員を全員倒して、真っ直ぐブリッジに向かっています!」

 通信係が叫んだ。大男はギョッとして、

「何をしている!? 麻酔銃を使え! あの女も所詮人間だ! 眠らせて確保するんだ!」

 大男は汗まみれになって怒鳴り散らした。それ程ギャザリーが怖いのである。


 そのギャザリーは、息子のアトモスを盾に取られて、すっかりおとなしくなっていた。大男達が知れば、消沈するだろう。

「無様だな、ギャザリー。共和国と我が軍を天秤にかけようとでも思ったのか?」

 ギルバート・マクロムは蔑んだ目でギャザリーを見下ろした。ギャザリーは何の反論もできずに床にしゃがみ込んだ。

「連行しろ。この女の船を拿捕するため、人質とする」

 ギルバートは冷徹な目でギャザリーを睨みつけると、部下達に彼女を取り押さえさせた。息子の安全を怠っていた事を悔いているギャザリーはおとなしくそれに従い、艦の中にある独房に監禁された。

「アトモス……」

 只の母親になってしまったギャザリーは、涙を流して俯いた。


「呆気なかったな」

 ジャンヌはわずか一分程でブリッジを制圧し、大男達を拘束した。

「あんたでしょ、私を下着姿にしたのは!? その報い、受けてもらうからね!」

 ギャザリーの側近の大男の髪を掴んで、ジャンヌは怒鳴った。

「ひいい……」

 大男は、ジャンヌの凄まじさを目の当たりにしたので、恐怖しか感じていない。

「おらっ!」

 ジャンヌは大男の服を剥ぎ取り、下着だけにした。

「どう、屈辱でしょ? こんな小さい女にここまでされて。反省しなさい!」

「はい……」

 大男はトランクス一枚にされて、顔を赤らめていた。

「あら?」

 その時、アラームが鳴った。ジャンヌが脱走した時とは種類が違う。

「何、これ?」

 ジャンヌは大男に尋ねた。

「わからない。外で何か起こっているのだと思う……」

 大男は涙目で応じた。ジャンヌはチッと舌打ちして、コントロールパネルを見た。

「戦艦?」

 モニターに映ったのは、ギルバートの乗る戦艦であった。

「戦艦クラスの船が近づいているわ。何が起こっているの?」

 ジャンヌは無駄と思いながらも、大男に尋ねた。

「え? じゃあ、姐さんは失敗したって事か?」

 大男は明らかに慌てていた。

「どういう事? あの赤毛のおばさんはどうなったの!?」

 ジャンヌが声を荒らげた。大男は尊敬しているギャザリーをおばさん呼ばわりしたジャンヌに一瞬カチンと来たが、

「わからない。だが、まずい状況なのは確かだ」

 ジャンヌは再びモニターを見た。

(この機に乗じて、脱出できそうね)

 ジャンヌはチャンスだと考えた。


「所属不明の戦艦クラスの艦船がゲルマン星公転軌道上にジャンピングアウトしました!」

 クラークはその知らせを聞き、ギョッとした。

(もう来たのか、アメア・カリング? しかも大胆不敵な……)

 ゲルマン星の公転軌道上には、無数の防衛拠点がある。普通ならそんなところにジャンピングアウトなどしない。

「その戦艦はアメア・カリングが乗っている。全力で叩き落とせ! 絶対にゲルマン星に突入させるな!」

 クラークは通信機に怒鳴った。

(私が直接叩き落としてやる!)

 クラークは寝室を出て、廊下を大股で歩いた。

(アメア・カリングめ! もっと早く潰しておくべきだったか?)

 クラークは総統領を辞任したアメアがその後全く表舞台に出て来ないので、危険性なしと判断して、放置していた事を悔やんだ。

「所属不明艦は公転軌道上の防衛ラインを突破して、ゲルマン星に降下を始めました!」

 携帯端末から悲痛な叫び声が聞こえた。

「おのれ!」

 クラークは遂に廊下を走り出した。


(凄い……)

 カタリーナは唖然としていた。アメアとカタリーナが乗る戦艦は、アメアの夫であるミハロフ・カークがアメア専用に改造させた戦艦である。しかも、天の川銀河よりも進んでいるアンドロメダ銀河連邦の技術を結集したものなのだ。全てのシステムがアメアの意思によってコントロールされ、隙なく守り、攻撃するようにできている。神聖銀河帝国が誇る絶対防衛線などものの数ではないのだ。星の数程のミサイル攻撃をレーザーと弾幕で防ぎ切ると、反撃をして防衛線を壊滅させてしまった。

「私の言った通りでしょう、母上? 全く心配要らないのです」

 アメアは誇らしそうにカタリーナを見た。

「そうね……」

 カタリーナは顔を引きつらせて笑うしかなかった。

(アメアが味方で良かった……)

 心の底からそう思うカタリーナであった。

「では、このままゲルマン星の大気圏へ突入します」

「ええ!?」

 カタリーナがホッとする間もなく、戦艦はゲルマン星の首府へ効果を開始した。

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