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神聖銀河帝国

 天の川銀河をほぼ統治していた銀河共和国は、第二代総統領であるアメア・カリングの為政が及んでいた時には、反乱軍である反共和国同盟も勢いを失い、壊滅寸前まで追い込まれた。しかし、元来気まぐれであったアメアは、任期満了を迎えるとあっさりと総統領の地位を降りた。第三代総統領は共和国の有権者によって法に則り、選ばれたのであるが、アメアのいない共和国政府を見下した反共和国同盟が力を盛り返し、天の川銀河の六分の一を占領されてしまった。その情勢になったのを見ていた他の反乱分子達も次々に戦乱を巻き起こし、天の川銀河は旧帝国末期のような混乱状態に陥った。天の川銀河の中枢までも攻め込まれ、逃げ出そうとした総統領の専用艦は撃沈された。そのため、共和国政府は機能不全になり、天の川銀河はますます無法状態になっていった。

 それから数年の歳月が流れ、共和国政府はようやく総統領を選び直し、現在の第四代であるラグルーノ・バッハが当選した。ラグルーノは反共和国同盟と和睦して、宥和政策を推し進めた。反共和国同盟の最高司令官であるマーカム・キシドムはラグルーノと密約を交わし、互いの領域に攻め込まない取り決めをした。そのおかげで、天の川銀河の治安は良くなり、上辺だけの平和が訪れた。

 しかし、ラグルーノ政権が三期目になると、政府内部は汚職が横行し、財力のあるものが幅を利かせる社会になっていた。政府に反感を持つ者達は、かつて旧帝国を滅ぼし、天の川銀河を再生させた伝説の男であるジョー・ウルフの再来を期待した。しかし、ジョーの代わりに現れたのは、神聖銀河帝国を名乗る、強力な軍事力を持った一団であった。神聖銀河帝国の軍隊は、その圧倒的な戦力で、反共和国同盟の正規軍をほぼ壊滅させ、共和国軍もほとんどの兵器を破壊された。共和国も反共和国同盟も神聖銀河帝国の前に屈服し、属国となる事でその存在を認められるという屈辱的な条約を結ばされた。反共和国のマーカムはそれを良しとせず、密かに反旗を翻そうと考えていたが、ラグルーノは自分の総統領としての地位が保証されるのであれば、属国だろうが屈辱だろうが、どうでもいいというスタンスをとった。


「あれから神聖銀河時間で三日も経つというのに、何故、あの少女の居場所がわからんのだ!?」

 赤い瞳の巨躯の男は激怒していた。

「申し訳ありません。あの少女が現れた付近の住民を事情聴取したのですが、誰も知らないと申しまして……」

 先日、行方不明になった神聖銀河帝国陸軍の詰所の所長に代わり、ジャンヌと呼ばれた少女を探している所長代理は震えながら、超空間通信の大型モニターで弁明していた。

手緩てぬるい。拷問をしてでも吐かせろ。あまり時間がかかるようなら、お前も同じ目に合わせる事になるぞ」

 赤い瞳の男はモニター越しに怒鳴った。

「わ、わかりました! すぐに取りかかります!」

 所長代理はその言葉と共にモニターから消えた。

「まさかとは思うが、BHの力を使って、隠れているのではあるまいな? もしそうなら、カサンドラを行かせるしかない」

 赤い瞳の男は眉間にしわを寄せた。その時、モニターが鳴った。

「何だ?」

 思索を破られ、赤い瞳の男は不機嫌を剥き出しにしてモニターを見た。

「はい、その、カサンドラ様が先程突然お出かけになりました」

 モニターに映ったのは、メイド服を着た若い女だった。

「何?」

 赤い瞳の男は眉をひそめたが、不意にニヤリとして、

「そうか、わかった。構わん。放っておけ」

「畏まりました」

 メイドはお辞儀をしてモニターから消えた。

(カサンドラめ、感じたようだな。これであの少女はここに来る)

 赤い瞳の男はミニターに背を向けると、その部屋を出て行った。

(一つ気ががりな事があるとすれば、カサンドラが少女を生かして連れて来るかわからないという事か)

 赤い瞳の男は目を細くした。


「はっ!」

 ジャンヌ達がいる街は元々共和国と対立していた銀河の狼という反政府組織のアジトだったところである。そのため、複雑に入り組んだ迷路のような回廊がある要塞のような建物である。その中の一室で、長い黒髪を後ろで束ねている女性が弾かれたように顔を上げた。

「母さん、どうしたの?」

 その女性に声をかけたのは、ジャンヌだった。母さんと言われた女性はジャンヌとよく似た顔立ちで、母と娘である事がよくわかった。

「何かが迫っている」

 女性はジャンヌを見て告げた。

「何かが?」

 ジャンヌは首を傾げた。

(母さんは時々妙な事を言う。何の事だろう?)

 ジャンヌは眉をひそめた。

「貴女を産んでから、私は貴女の父さんと同じような力を身につけたのよ。危険が迫ったり、誰かが近づいて来たりすると、わかるの」

「父さんて、サンドの父さん?」

 ジャンヌが尋ねると、

「サンドの父さんではないの。貴女の本当の父さん」

 ジャンヌの母は悲しそうな目をした。

「本当の父さん?」

 ジャンヌは母から初めてそれを聞き、目を見開いた。

「そろそろ本当の事を伝える時が来たのね。だから、貴女はバレルの制止を振り切って、神聖銀河帝国の部隊に戦いを挑んだのよ」

 ジャンヌの母は微笑んでジャンヌを見た。

「あれは、あいつらが子供達を痛めつけていたから、許せなかっただけで……」

 ジャンヌは自分が暴走したせいで、ニューロボテクター隊が増員され、街がその監視下に置かれてしまったのを悔やんでいた。

「じゃあ、あいつらが来るの?」

 ジャンヌは身構えた。母は首を横に振り、

「違う。もっと強烈な何かよ。それが何者なのかまでは、母さんの力じゃわからないけど」

「もしかして、サンドの父さんを殺した奴なの?」

 ジャンヌの目が吊り上がった。母は目を潤ませて、

「そうかも知れない。あの時と同じような嫌な感じがするから……」

「許さない!」

 ジャンヌはそれだけ叫ぶと、部屋を飛び出して行った。母は呼び止める事もできず、

(貴方、ジャンヌを護って……)

 手を合わせて祈った。


「おい」

 建物の外で遊んでいた子供達に声をかけた女がいた。黒髪を腰まで伸ばし、黒の軍服の胸にたくさんの勲章を付けている。その勲章を持ち上げるように膨らんだ胸に男の子達はギョッとしている。中にはデレッとした顔をしているませた子もいた。ボトムスはタイトな革製で、やはり黒。スタイルの良さはそんな服装でもわかる程、女は肉感的な身体である。

「この中にジャンヌという女はいるか?」

 女の物言いは横柄で、声をかけられた女の子はビクッとして固まってしまった。

「答えろ」

 女は女の子の頭を掴み、無理矢理上を向かせた。

「小さな子に乱暴はよしなよ、お嬢さん」

 そこに現れたのは、ジャンヌが「宇宙一のスケベ」と断じたバレルという少年だった。

「誰だ、お前は?」

 女は鋭い目でバレルを睨んだ。バレルは肩をすくめて微笑み、

「美人が台無しだよ、お嬢さん。そんな怖い顔をしないでよ」

 女は女の子を突き飛ばして転ばすと、バレルに大股で歩み寄って来た。

「おい、乱暴はよせって」

 バレルは真顔になって女に近づいた。

「ならば、お前に訊く。ジャンヌという女はこの中にいるのか?」

 女は歩行速度を上げて尋ねた。

「ジャンヌ? さあね。いるかどうかなんて、あんたに答える義務あるのか?」 

 バレルは女の軍服が神聖銀河帝国のものだとわかると、怒気を含んだ声で言い返した。

「お兄ちゃん!」

 女に突き飛ばされた女の子は自分は大丈夫だとアピールした。バレルに命の危機が迫っているのを感じたのだ。

(このお姉ちゃん、怖い)

 女の子は震えていた。

「素直に従わないと、痛い目を見るぞ」

 女は無表情な顔で近づいて来る。

「痛い目? 君みたいな美人にそんな事できるの? やってみてよ!」

 バレルは女を挑発して走り出した。

「愚かな」

 女はフッと笑うと、バレルの視界から消えた。

「何?」

 バレルは突然女がいなくなったので、立ち止まった。

「バレル、上!」

 ジャンヌの声が轟いた。

「くっ!」

 バレルはいきなり上空から蹴りを見舞って来た女をかろうじて交わすと、距離を取った。女はバレルではなく、ジャンヌを見て、

「お前がジャンヌか?」

「だったら?」

 ジャンヌは身構えて女を見た。

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