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各々、動き出す

「何!?」

 銀河共和国の中枢、惑星マティスの総統領府のワンフロアの三十階にある総統領補佐官室で、銀髪碧眼の長身で筋骨隆々とした黒いスーツ姿の五十代くらいの男が叫んだ。彼は大型スクリーンで、ある人物と会話中だった。

「ゲルマン星にいた女を拉致しただと?」

 男は目を見開いた。会話の相手は、赤髪のギャザリー・ワケマクである。

「そうだよ。その女は、あのジョー・ウルフの娘で、ニューロボテクター隊を素手で倒したと言われているのさ」

 ギャザリーはって応じた。

「ジョー・ウルフの娘!?」

 男の目が更に見開かれた。

「何という事をしでかしてくれたのだ! そんな事をすれば、神聖銀河帝国からも、ジョー・ウルフからも敵視され、共和国は潰されてしまうぞ!」

 男はオロオロし始めた。ギャザリーはそれを鼻で笑い、

「心配要らないよ。女はマインドコントロールで私の忠実な部下にする。それにあんたとの繋がりはバレないさ」

 しかし、男は、

「無理だ! 神聖銀河帝国の軍司令長官のクラーク・ガイルは、ビリオンスヒューマンだぞ! お前の行動など、全て把握しており、お前が私と繋がりがあるのも見通しているはずだ。すぐにその女を解放して、ゲルマン星に送り返せ!」

 半狂乱のようになって怒鳴り散らした。

「え?」

 ギャザリーは、クラークがビリオンスヒューマンだと知っており、作戦も見抜かれていると思っていたが、共和国とのつながりまでは知られていないと思っていた。

「今、共和国は戦争などする資金も力もない。反共和国同盟軍とも戦う事ができないのだ。今は帝国軍に平伏ひれふすふりをして、帝国と同盟軍が潰し合ってくれるように画策しているところなのだ。余計な真似をしおって!」

 男はギャザリーを責め立てた。

「はっ、とんだ腑抜けだね。情けない男だよ」

 ギャザリーは肩をすくめた。

「何!?」

 愚弄されたので、男はギャザリーをめつけた。

「だったら、私がジョー・ウルフの娘を使って、共和国を滅ぼしてやるよ。真っ先にあんたの首を獲ってね」

 ギャザリーはフッと笑って男を見た。

「首を洗って待ってな、メケトレス・ザギマ!」

 ギャザリーはそれだけ言うと、通信を切ってしまった。

「何、だと……」

 メケトレス・ザギマと呼ばれた男は、呆然としてしまった。


「何だい?」

 ギャザリーは通信を横で聞いていた大男を睨みつけた。

「いえ、別に」

 大男は激怒しているギャザリーは手がつけられないのを知っているので、後退あとずさりした。

「まあいいけどさ。ジャンヌはどうしているんだい?」

 ギャザリーはキャプテンシートに座って尋ねた。大男はホッとした表情になり、

「今はまだ、医務室で眠っています。ちょっと麻酔が強過ぎたみたいで」

「ジョー・ウルフの娘だから、強過ぎるくらいがいいんだよ。取り敢えず、拘束具を着させて、抵抗できないようにしておきな」

「わかりました」

 大男はそそくさとブリッジを出て行った。ギャザリーはそれを確認してから、

(メケトレスはダメだな。そろそろ、反共和国同盟軍に乗り換え時かね)

 ニヤリとした。


「はっ!」

 クラークの縛りが緩んだので、バレルが我に返った。

「え?」

 そして、カサンドラとパトリシアが激しく争っているのに気づいた。

「おお!」

 しかも、パトリシアは軍服を割かれているので、胸が半分見えていた。

(パット、何があったんだ? でも……)

 バレルの悪い癖が発動していた。彼は揺れるパトリシアの巨乳に釘付けになっていた。

「あ、バレル、気がついたか?」

 パトリシアはカサンドラを蹴倒してバレルに駆け寄った。

「待て、アメアの娘!」

 カサンドラはパトリシアを後ろから羽交い締めにした。

「放せ、デブ女!」

 パトリシアは振り解こうともがいた。

(これは絶対にパットに味方するべきだ!)

 パトリシアの巨乳に魅入られたバレルは、加勢に向かった。

「パットを放せ!」

 バレルはカサンドラの右腕を掴んだ。

「邪魔するな!」

 しかし、あっさりと跳ね除けられた。

「くそ、グローヴがあれば……」

 バレルは受け身を取って立ち上がった。するとその時、光り輝く何かが廊下の向こうから飛翔して来た。

「何だ?」

 それに気づいたバレルは眉をひそめたが、

「グローヴ?」

 すぐにその正体に気づいた。

(ケントのおじさんが言っていたのは、この事だったのか? 強く念じればグローヴは見つかるって……)

 バレルは飛んで来たグローヴを掴むと両手にはめた。途端にグローヴがより強く輝き出した。

「む?」

 異変に気づいたカサンドラがパトリシアから離れて、バレルに向かった。

「バレル、それを捨てろ! お前のためにならない!」

 カサンドラはバレルに掴みかかった。

「おっぱいお姉さん、あんたは俺の敵だ。ジャンヌを殺そうとしただろ? 許さねえぜ」

 バレルは身構えてカサンドラの突撃をかわした。

「お前にバレルは渡さない! バレルは私のものだ!」

 パトリシアがカサンドラを逆に羽交い締めにした。

「え?」

 パトリシアの衝撃の言葉に、バレルは顔を赤らめた。

(俺ってモテモテなの?)

 バレルにはジャンヌが叫んでいた事も聴こえていたのだ。

(ジャンヌとパット、これは困ったな……)

 緊急時にも関わらず、バレルのスケベは治っていなかった。

「うるさい! バレルは私と子をなすのだ!」

 カサンドラまでもが、熱い思いを言い放ったので、

(俺、すごいじゃん!)

 バレルは感動に打ち震えていた。


 ジャンヌは暗闇の中、愛しいバレルを探していた。

(バレル、どこなの?)

 涙ぐんで走り続けたが、暗闇はどこまでも続いていた。

「バレルーッ!」

 ジャンヌは叫んだ。そして、目を覚ました。

「はっ!」

 ジャンヌは鉄製の寝台に拘束具で固定されていた。動くのは顔と手足の先だけで、腰は太い金属製のベルトで固定されており、肘と膝は関節部分をしっかり金属製の枷で固定されていた。

「目が覚めたかい、カタリーナ・パンサーの娘?」

 寝台の横にはギャザリーと大男が立っていた。

「あんた達、誰!?」

 ジャンヌは下着だけにされているのに気づき、顔を赤らめた。

「調べさせてもらったよ。どこにも外科手術の痕はない。純度の高いビリオンスヒューマンのようだね」

 ギャザリーが言った。隣の大男が下卑た顔でにやついている。

(こいつに見られた?)

 ジャンヌは屈辱で顔が更に赤くなった。

「血液検査もした。遺伝子レベルで通常の人間と違っていたよ。さすが、ジョー・ウルフの娘だね」

 ギャザリーはジャンヌの顔を舐めるように見て呟いた。

「私をどうするつもり!?」 

 ジャンヌはギャザリーに噛みつかんばかりに怒鳴った。ギャザリーはうるさそうに耳を塞ぎ、

「そんな大声を出さなくても聞こえてるよ。あんたに共和国を滅ぼしてほしいのさ。もちろん、神聖銀河帝国とか名乗っている、イカれた組織もね」

「何ですって!?」

 ジャンヌはギャザリーを睨みつけた。


「ギャザリー・ワケマクは、共和国ではなく、反共和国同盟軍の中枢へ向かったようです」

 クラークは部下からの報告を受けていた。クラークは、

「ギャザリーなど捨て置け。今はアメアの娘とバレルの方が重要だ。それと、バッハに連絡を取れ。補佐官が謀反を起こそうとしている、とな」

 ニヤリとした。

「畏まりました」

 携帯端末のモニターの向こうの部下は敬礼して消えた。クラークは回転椅子から立ち上がると、

「さて、ラグルーノ・バッハ、どうする?」

 共和国の総統領の名を呟き、フッと笑った。


「何事だ?」

 黒い髪をオールバックにして、鳶色の瞳の男が尋ねた。男はサイズが合っていないのかと思われる程せり出した腹を無理やり収めているアイボリーホワイトのダブルのスーツを着ている。ボタンははめられず、上着ははち切れそうである。

「その、神聖銀河帝国のクラーク司令長官から、超空間通信でメールが届きました」

 秘書の男が恐る恐る告げた。

「何!?」

 その名を聞き、男はギョッとした顔になった。

「内容は?」

 のそのそと歩き、自席の回転椅子に腰を下ろした男は秘書を見た。

「その、メケトレス・ザギマ補佐官が、謀反を起こそうとしているとの事です」

 秘書は後退りながら、メールの内容を伝えた。

「な、何ーっ!?」

 男が勢いよく立ち上がったせいで、来ていたシャツのボタンが弾け飛んだ。

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