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拉致

「ジャンヌ拉致作戦が決行されるようです」

 大男が告げた。ギャザリーはフッと笑って、

「過度な期待をせずに待とうかね」

 キャプテンシートに寄りかかった。

(カタリーナの娘と一緒にいるのは誰だ? 情報が少な過ぎる)

 ギャザリーはビリオンスヒューマンではないので、パトリシアの事はわかっていない。

(ジャンヌと同行しているという事は、それなりの戦闘力があるという事だな。そいつも拉致できれば、この上ない)

 ギャザリーは狡猾な顔になった。それに気づいた大男はギョッとした。

(不安があるとすれば、ジャンヌとその同行者をどうやって従わせるかだね)

 ギャザリーはそこまで考えると、

(ジャンヌだけの方が不安要素が少ない。同行者は放置でいいか)

 あっさり諦めた。


「はっ!」

 クラークはアメアの幻影が消えたので、我に返った。

(ジャンヌは逃げたのか?)

 クラークはジャンヌの気配を探ったが、辺りに漂っているアメアの強烈な気配により、撹乱されていた。

「アメア・カリングめ、邪魔するのか!?」

 クラークは精神波を放ち、アメアの気配を薙ぎ払った。そのおかげなのか、アメアの気配は消滅した。

「おのれ……」

 アメアの気配は消えたが、ジャンヌの気配も消えてしまった。

「どこへ行った!?」

 クラークはカサンドラの気配を探った。

『カサンドラ、ジャンヌを捕らえよ。一刻も早く!』

 クラークはジャンヌを使って、最強のビリオンスヒューマンを産ませるつもりである。

『承知しました』

 カサンドラが応じた。

(だが、アメア・カリングの娘はジャンヌより利用価値がありそうだな。あの女を先に何とかするか?)

 クラークは思案した。しかし、パトリシアはクラークの精神波を跳ね除けている。そこが難儀だった。

(カサンドラをぶつけるか)

 だが、カサンドラではパトリシアに勝てないかも知れないと思ったクラークは、

(今はジャンヌが先だ)

 またジャンヌを探し始めて、

「カサンドラを追っているのか?」

 ジャンヌの動きを掴んだ。


「あれ?」

 廊下の先で、倒れている金髪の女性を見つけたジャンヌは、足を止めた。

「何をしている、ジャンヌ? 急がないと、バレルがあの女としてしまうぞ!」

 パトリシアの直接的な物言いにジャンヌは苦笑いをして、

「先に行って、パット」

「ならば、バレルは私のものだ」

 パトリシアは勝ち誇った顔で駆け去った。

「酷い怪我をしている」

 ジャンヌは倒れている女性が頭から血を流しているのに気づいた。

「大丈夫ですか?」

 ジャンヌは女性がカサンドラに殴られたと考えた。

「た、助けて……」

 女性は苦しそうに顔を上げた。

「動かないで。今、応急処置をします」

 ジャンヌはジャケットの内ポケットから救急用具の入ったポシェットを取り出した。

「ちょっと染みますけど、我慢してください」

 ジャンヌは止血スプレーを女性に使おうとした。

「え?」 

 その時、女性がスッと動き、ジャンヌの首筋に銃を当てて撃った。それは麻酔銃だった。ジャンヌは意識を失って、女性にもたれかかった。

「ターゲットを捕獲した。これより、脱出する」

 金髪の女性はジャンヌを軽々と抱えて立ち上がると、パトリシアとは逆の方向へ走り出した。


「何だ?」

 クラークはジャンヌの気配が急速に弱まるのを感じ、眉をひそめた。

(何が起こった?)

 ジャンヌは意識を失っているので、クラークにもジャンヌの様子がわからない。しかも、ジャンヌを拉致した女は、対ビリオンスヒューマン用のスーツを着ているので、クラークには把握できない。ギャザリーの組織はそこまで手を尽くして、ゲルマン星に工作員を潜り込ませているのだ。

「私だ。ジャンヌが気配を消した。総員、全棟を捜索しろ」

 クラークは携帯端末でニューロボテクター隊に命令した。

(何が起こっているのだ?)

 クラークは歯軋りした。


「む?」

 バレルを背負ったままで、ジャンヌを探していたカサンドラは、不意にジャンヌの気配が消えかかったのを感じ、立ち止まった。

(どういう事だ?)

 完全に消えてしまったのではないので、ジャンヌが死亡したのではないのはわかった。

『父上、ジャンヌの気配が弱まりました』

 カサンドラはクラークに指示を仰ごうと思い、呼びかけた。

『私にもわからん。ジャンヌの事は部下に任せた。お前はバレルと世継ぎを作る支度をしろ』

『はい』

 カサンドラはバレルを背負い直すと、また走り出した。すると、

「見つけたぞ、デブ女!」

 そこへパトリシアが鬼の形相で走って来た。

「デブはお前だろう!?」

 カサンドラはバレルを廊下の壁に寄りかからせると、パトリシアに向き直った。

「バレルを返せ!」

 パトリシアは白く輝き、カサンドラに迫った。

「うるさい!」 

 カサンドラは怯む事なく、パトリシアを待ち受けた。

「はあ!」

 パトリシアの右ストレートがカサンドラの顔面に向かった。

「だあ!」

 カサンドラはその右腕を両手で掴むと、一本背負いの要領でパトリシアを投げ飛ばした。しかし、パトリシアは一回転して着地すると、

「もらった!」

 そこ先にいたバレルを担ぎ、走り出した。

「あ、待て、卑怯者!」

 カサンドラは焦り、パトリシアを追いかけた。

 

 ジャンヌを拉致した女は、地下通路を巧みに使い、ニューロボテクター隊の検問を掻い潜って、司令長官棟を脱出していた。

(後は手配しておいた小型艇に乗り込み、この星を離脱するだけだ)

 金髪の女はジャンヌを担ぎ直して、司令長官棟から離れた。

「いたぞ!」

 しかし、さすがにそれは目立ち過ぎた。たちまち女はニューロボテクター隊に追跡された。だが、ジャンヌを傷つける事ができないので、銃器は使用できない。女はそれを頼みに走り続け、倉庫の陰に隠されていた小型艇に辿り着いた。

「あばよ」

 女は追いかけて来るニューロボテクター隊を尻目に小型艇を発進させると、ゲルマン星を飛び立った。

「ゲルマン星を離脱する。ランデブーを求める」

 女はギャザリーの船に通信した。


「ジャンヌは何者かに拉致され、連れ去られました」

 ニューロボテクター隊からの報告に、

「すぐに追いかけろ! あの女狐にジャンヌを渡すな!」

 ギャザリーの思惑に気づいたクラークは激怒していた。しかし、時すでに遅く、小型艇はジャンピング航法でギャザリーの船の近くまで飛び、合流していた。

(ギャザリー・ワケマクめ……。この借り、何倍にもして返してやるぞ!)

 クラークは折れるくらい歯噛みした。

(カサンドラを行かせるべきだった)

 クラークは自分の失策を悔いた。

(ならば、バレルとアメアの娘は何としても手に入れねばならぬ)

 クラークは、

『カサンドラ、バレルを奪還しろ。ジャンヌがギャザリーに拉致された』

 カサンドラに呼びかけた。

『承知しました』

 カサンドラが応じた。


(アメアの娘、必ず殺す!)

 幾度も苦杯を舐めさせられたので、カサンドラは憎悪をたぎらせ、走るパトリシアを追いかけていた。

「私だ。アメアの娘を追い詰める。隔壁を操作し、誘導しろ」

 カサンドラは携帯端末に命じた。

(バレルは私のものだ。そして、アメアの娘には死を与えてやる)

 カサンドラの目が血走った。カサンドラはいつしか、本気でバレルを自分のものにしたくなっていた。美形のバレルの罪深いごうである。

「デブ女、私と勝負しろ! バレルを賭けて! 勝てはしないだろうがな!」

 カサンドラはパトリシアを挑発した。

「何!?」

 パトリシアは立ち止まってカサンドラを睨んだ。

「お前はつくづく自分の力がわからないのだな。私に勝てる訳がないだろう?」

 パトリシアはその挑発を鼻で笑った。

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