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葛藤

「ぬうう……」

 クラークは口から血を吐き出し、起き上がったが、頭がくらついてしまい、立ち上がれなかった。

(一体どういう事なのだ? 何故、バレルは私に攻撃をした?)

 クラークはバレルを睨みつけた。バレルはまだ精神波の縛りを解けた訳ではなく、呆然としていた。

(ジャンヌの声が届いたというのか?)

 クラークはジャンヌを見た。ジャンヌも何が起こったのか理解が追いつかず、唖然としている。

「皇太子殿下、貴方の敵はあの女です。早く成敗してください。神聖銀河帝国の繁栄のために!」

 回復したクラークはバレルに向かって精神波を放ち、縛りを強くした。

「あああ!」

 バレルは精神波を受けてもがき苦しみ出した。それに呼応するかのようにグローヴが輝き出した。

「む?」

 クラークはその輝きに気づき、眉をひそめた。

「あれは……?」

 クラークはグローヴの輝きに不安を覚えた。

(もしや、あの手袋がバレルの縛りを邪魔しているのか?)

 革手袋の秘密が解明されていないのに、バレルにつけさせたのは早計だったと思い、

「殿下、その手袋は邪悪なるものです。お外しください」

 精神波で誘導した。

「ううう!」

 バレルはそれによってグローヴを外してしまった。まだ精神波の縛りの方が強かったのだ。

「うおおお!」

 バレルは雄叫びを上げると、ジャンヌを睨み、突進した。

「バレル……」

 ジャンヌはバレルがグローヴを外してしまった事により、クラークの支配を強く受けたのを見た。

(グローヴの力が、バレルを?)

 ジャンヌはバレルがまだ戻って来られるのを知り、一縷の望みを得た気がした。


 カサンドラはパトリシアを研究室に連れて行っていた。

「この女を我が軍の精鋭にするのだ」

 カサンドラはパトリシアをベッドの上に寝かせた。

「睡眠薬で眠らせてある。薬と外科的手法で改造しろ。元々強力な身体だ。大抵の事には耐えられる」

 カサンドラはそれだけ告げると、研究室を出て行った。研究員達は眠っているパトリシアを見た。

「綺麗な人だな」

 長身の研究員が呟いた。

「改造しがいがあるぞ」

 白髪の研究員が言った。

「始めるぞ」

 小太りの研究員はパトリシアの軍服をメスで切り裂いた。パトリシアの豊満な胸が剥き出しになった。

「おお!」

 長身の研究員と白髪の研究員が感嘆の声を上げた。


「何だ?」

 タトゥーク星にいるアメアがパトリシアの危機を感知していた。

「どうしたの?」

 カタリーナが尋ねた。アメアはカタリーナを見て、

「パットが捕えられました」

「ええ!?」

 カタリーナとエミーは目を見開いた。アメアはフッと笑い、

「大丈夫です、母上。パットは強い子です。必ずバレルを救い出して帰ってきます」

「そうなの?」

 カタリーナは自信満々の顔をしたアメアを信じようと思った。

(ジャンヌ、大丈夫よね?)

 そして、娘の身を案じた。

「ジャンヌも心配要りません、母上。我が妹は強いです」

 アメアが微笑んで言った。

「そ、そうね」

 カタリーナは苦笑いをした。

(そうよね。あの人(ジョー)の娘だもの)

 カタリーナは最愛の夫を思い出した。


「皇太子殿下、その者をご成敗ください」

 ジャンヌにはクラークの精神波がバレルにまとわりつくのが見えた。

(一縷の望みに賭ける!)

 ジャンヌは試そうと思っていた事を実行に移した。

「はああ!」

 心を鬼にして、バレルを殴りつけた。

「ぐわ!」

 バレルはそれをまともに受けてしまい、後方へ吹っ飛んで倒れた。その衝撃でバレルにかぶせられていた王冠が外れた。

「くっ!」

 クラークは舌打ちした。

(バレルにまとわりついていた何かが消えた)

 ジャンヌはクラークの精神波がバレルから離れるのを感じた。

(あの被り物が?)

 王冠の仕組みを知っている訳ではないが、何かの作用があるのを見抜いたジャンヌは、王冠に駆け寄ると、

「はあ!」

 グローヴで破壊した。

「おのれ!」

 クラークはジャンヌに向けて精神波を放った。

「ぐう!」

 王冠に気を取られていたジャンヌは防御できず、精神波を食らってしまった。ジャンヌの口と鼻から血がしたたった。

「殿下、ご成敗を!」

 クラークは再びバレルに精神波を放った。

「がああ!」

 バレルはもがき苦しんだ。王冠の作用がなくなったため、バレルに抗う力が生まれたのだ。

「殿下ァッ!」

 クラークは精神波の力を強めた。

「させない!」

 ジャンヌは血を拭ってバレルに駆け寄り、

「バレル、しっかりして!」

 輝きを増したグローヴでバレルの手を握りしめた。

「邪魔するな、小娘!」

 クラークがジャンヌを精神波で攻撃した。しかし、精神波はジャンヌとバレルの手前で砕け散った。

「何!?」

 クラークは目を見開いた。するとそこへ、

「父上、手ぬるいです。私にお任せを!」

 カサンドラが現れた。

「カサンドラ、殺すなよ。ジャンヌは我が子を産む器なのだからな」 

 クラークはカサンドラに念を押した。

「承知しております」

 カサンドラは不敵な笑みを浮かべた。

(この女に我が地位を脅かされるくらいなら、殺す)

 カサンドラはジャンヌに嫉妬していた。

(バレルの心は未だにジャンヌにある。この女が生きている限り、私はバレルを手に入れられない!)

 カサンドラは殺意を漲みなぎらせてジャンヌに向かった。

(カサンドラ、まさか?)

 クラークはカサンドラの怒濤のような殺気を感じ、焦っていた。

(ジョー・ウルフの娘の血を引く子は貴重だ。殺させる訳にはいかない)

 クラークはカサンドラに向けて精神波を放った。

「ぬう!」

 カサンドラはクラークが自分を縛ろうとしているのを知った。

「父上!」

 カサンドラはクラークを睨んだが、まもなく支配された。

(お前はわが作品なのだ、カサンドラ。逆らえると思うな。今までは私が見逃していただけだ)

 クラークはカサンドラを誘導した。

『お前はバレルを連れ、子をなすのだ。ジャンヌは私が支配する』

 クラークはカサンドラに命じた。

「はい、父上」

 虚ろな目になったカサンドラはジャンヌを殴り倒すと、バレルを抱え上げて連れて行ってしまった。

「バレル!」

 ジャンヌはぼやける視界の向こうに見えるカサンドラとバレルを見て叫んだ。

「お前は我が側室となるのだ、ジャンヌ」

 クラークの精神波がより深くジャンヌにまとわりついて来た。

「む?」

 その時、クラークはジャンヌの背後にアメアの姿が浮かぶのを見た。

「何だと!?」

 アメアはジャンヌを守るように立ち、クラークの精神波を跳ね除けた。

(バカな……。アメア・カリング、これ程とは……)

 クラークは呆然としてしまった。

「くう……」

 ジャンヌは頭をさすってクラークを見た。

(あいつの力が途切れた。何があったの?)

 ジャンヌはクラークが何かを見ているのに気づき、

(今のうちに)

 駆け出して、大広間を脱出した。


「うわあ!」

 パトリシアの軍服を全部脱がそうとした研究員達は、いきなりパトリシアが目を開けたので、腰を抜かした。

「何をしていたのだ、お前達は?」

 パトリシアは起き上がると、はだけた胸を見た。

「おい、これはどういう事だ?」

 パトリシアは一番近くにいた長身の研究員の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「た、助けてくださいい……」

 研究員は息も絶え絶えに懇願した。

「ここに!」

 白髪の研究員が慌ててパトリシアの軍服を差し出した。

「おお、そうか」

 パトリシアは長身の研究員を投げ出すと、軍服を受け取り、羽織った。

「次にあったら、殺すぞ」

 パトリシアは三人を恫喝してから研究室を出て行った。三人の研究員はその場にしゃがみ込んだ。


「あ、パット!」

 廊下を走っていたジャンヌがパトリシアを見つけた。

「ジャンヌ、無事だったか」

 パトリシアが応じたが、ジャンヌはパトリシアの軍服が裂かれているのに気づき、

「何があったの、パット?」

 顔を引きつらせた。パトリシアは半分見えている胸を見て、

「何やらされそうになったらしいが、大丈夫だ」

 微笑んだので、

「そうなの……」

 ジャンヌは苦笑いをした。

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