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望まぬ展開

 クラークはジャンヌが崩れるのを待っていた。

(もはや、この女に選択の余地はない。我が配下になる以外、生き残る術はないのだ)

 クラークはフッと笑った。その時だった。

「うおお!」

 ジャンヌは血だらけの口で叫ぶと、クラークの顎に向かって白く輝く右拳を見舞った。

「がはあ!」

 完全に虚を突かれたクラークはそれをまともに喰らい、その巨体を宙に舞わせた。

「ぬお……」

 クラークは頭から地面に落下して、一瞬意識が飛んだ。

「ふざけるな! 私はジョー・ウルフとカタリーナ・パンサーの娘! お前のような邪悪な奴に平伏ひれふす事など断じてない!」

 ジャンヌは鼻と口から滴り落ちる血を拭って叫んだ。

「おのれ……」

 クラークはすぐに回復すると、起き上がってジャンヌを見た。

(やはり、ジョー・ウルフの娘だな。そう簡単には落ちぬか?)

 クラークはまたフッと笑うと、立ち上がった。

「お前のような奴は、叩きのめしてやる!」

 ジャンヌは目を血走らせてクラークを睨みつけると、右の拳を振り上げて突進した。

「二度も不意は突かれぬ!」

 クラークがまた精神波を放った。

「はああ!」

 ところが、ジャンヌはそれを気合いで跳ね返した。

「何!?」

 クラークは我が目を疑った。

(バカな……。私の精神波を跳ね返すとは信じられん……)

 クラークは歯軋りしたが、

「ならば、戦法を変えるまで」

 バレルに向けて、精神波を放った。バレルの生気のない瞳が怪しく輝いた。

「え?」

 ジャンヌもバレルの異変に気づいた。バレルは風を巻いてジャンヌに襲いかかった。

「やめて、バレル! 私よ、ジャンヌよ!」

 ジャンヌはバレルのパンチやキックをかわしながら、必死に叫んだ。


 パトリシアとカサンドラの戦いも熾烈を極めていた。どちらも大量の血を流していたが、すぐに止血し、回復していた。

「いい加減、倒れちまえ、デブ女!」

 パトリシアは血に染まった軍服で手に着いたカサンドラの血を拭った。

「お前こそ、無理をするな、アメアの娘。もはや、バレルは我が神聖銀河帝国の皇太子。お前のような下賤の者と結ばれる事はない」

 カサンドラはパトリシアを嘲笑った。

「うるさい! バレルにふさわしいのは私だ!」

 パトリシアは再びカサンドラに襲いかかった。

「私はすでに皇太子殿下のご寵愛を賜っている。お前が皇太子殿下に見初められる事は断じてない」

 カサンドラはパトリシアの拳を受け止めた。

「何だと!?」

 カサンドラのハッタリにパトリシアは動揺した。

「男を知らぬお前には、皇太子殿下のお相手はできぬ。身の程を知れ!」

 カサンドラはパトリシアの動揺を見抜くと、かさにかかって威圧した。

「う……」

 パトリシアは図星を突かれ、たじろいだ。パトリシアの唯一の弱点はそこだった。彼女は見る見るうちに顔を赤らめた。

(この女、男を知らぬのは当たりだな。勝てる)

 カサンドラはパトリシアの弱点を知り、勢いを増した。

「子供は家に帰れ!」

 カサンドラのパンチをパトリシアはける事ができず、顔面を腫らして倒れた。

『よくやった、カサンドラ。その女は格好の研究対象だ。研究室に連れて行くのだ』

 クラークが頭に直接語りかけて来た。

『承知しました』

 カサンドラは動けなくなったパトリシアを右肩に担ぐと、廊下を走り出した。

(父上はまた新たな側室を手に入れようとしているのか)

 カサンドラはクラークの心の内を見抜いていた。クラークはパトリシアを利用して、自分の子を成そうとしているのだ。

(ジャンヌも恐らく父上の側室にされる。どちらも血統がいい。優れたビリオンしヒューマンを産んでくれよう)

 カサンドラはそれに嫌悪を抱いた。

(ならば私は、バレルの子種を得て、世継ぎを産む。そして……)

 カサンドラの野望はクラークより凄まじかった。


 ジャンヌはバレルの攻撃をかわしていたが、次第に疲れて来ていた。クラークは業を煮やして、

「私だ。バレルの身に着けていた革の手袋を持って来い」

 研究室に携帯端末で命令した。

「畏まりました」

 声が応じた。クラークはニヤリとした。

(バレルはルイ・ド・ジャーマンの子。実力はジャンヌとそれ程変わらないはず。あの手袋を着けさせれば、ジャンヌを倒せる)

 ジャンヌはバレルを攻撃できないと予想したクラークは、バレルにジャンヌを痛めつけさせ、動けなくなったところを精神波で支配し、自分の側室にしようと考えていた。

(アメア・カリングの娘、ジョー・ウルフの娘。どちらも素晴らしい後継ぎを産んでくれよう)

 クラークは下卑た笑みを浮かべた。


「どうだ?」

 ギャザリー・ワケマクはキャプテンシートから立ち上がって、大男に尋ねた。

「カサンドラが優位に立ち、一人を倒しました。ジャンヌではないようです。ジャンヌはクラーク・ガイルと対峙しています」

 大男は携帯端末を操作しながら告げた。ギャザリーは顎に右手を当てて、

「クラーク自らがジャンヌを……。あの男、噂通りの好き者のようだね。気持ち悪いよ」

 身震いをした。そして、

「クラークがジャンヌをモノにする前にいただくよ。私はあいつにけがされたジャンヌは要らないからね」

 キャプテンシートに座った。

「畏まりました」

 大男は一礼すると、ブリッジを出て行った。

(クラーク・ガイル。何を企む?)

 ギャザリーは眉間にしわを寄せた。


 ジャンヌとバレルの戦いはまだ続いていた。ジャンヌはバレルを気絶させて止めようと思ったが、彼を殴る事ができない。

(私、バレルを殴れない……)

 今までだったら、容赦なく金的攻撃をしたジャンヌであったが、一度バレルを意識してしまったため、彼に暴力を振るう事ができなくなっていた。

(ジャンヌは完全にバレルに心を奪われている。絶対にバレルを倒す事はできない)

 ジャンヌの心情を読み取ったクラークは勝利を確信していた。

「ああ!」

 遂にバレルの右のフックがジャンヌの脇腹に決まった。ジャンヌは身体をかわして直撃を免れたのだが、痛みは強かった。

(バレルは強い……)

 その時、ジャンヌはバレルがいつも手加減してくれていた事に気づいた。

(バレル……)

 彼の優しさを知り、ジャンヌはますます攻撃ができなくなってしまった。

「クラーク様、お持ちしました」

 そこへ研究員がバレルのグローヴを持って現れた。

「よこせ」

 クラークはグローヴを受け取ると、バレルを呼び寄せた。

「何?」

 バレルが急に離れたので、ジャンヌは不審に思った。

「皇太子殿下、これをお着けになり、その侵入者を成敗してください」

 クラークの意図がわかったジャンヌは蒼ざめた。

(バレルがグローヴを使って攻撃して来たら……)

 ジャンヌは血反吐を吐いて倒れ、絶命する自分を思い描いた。

(バレルに殺されてしまう……)

 切なくなって、涙が溢れた。バレルはグローヴをクラークから受け取ると、それを両手に着けた。途端にバレルの身体が白く輝き出した。それを見て、クラークはフッと笑った。

(バレルがジャンヌを殺してしまうかも知れんが、まあよい。新たなジャンヌを作ればすむ事)

 クラークは謎めいた事を思っていた。

「さあ、皇太子殿下、帝国にあだなす者を滅してください」

 クラークはバレルに精神波を送った。

「はああ!」

 バレルが気合を入れると、更に強く輝き出した。

(バレル……。貴方に殺されるのなら、本望よ。一撃で殺して……)

 ジャンヌは涙を流してバレルを見つめた。

「うおおお!」

 バレルは雄叫びを上げると、クラークに向き直り、その顎に痛烈なアッパーカットを見舞った。

「ぐわあ!」

 全く予期していなかったクラークはそれによって弾け飛び、床に叩きつけられた。

(どういう事?)

 ジャンヌは何が起こったのかわからず、呆然とした。

 


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