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神聖銀河帝国皇太子即位

 クラーク・ガイルの精神波により、バレルは完全に操られていた。

(この精神波の領域には、あの銀河帝国皇帝だったストラード・マウエルはおろか、トータルビリオンスヒューマンであったナブラスロハ・ブランデンブルグすら辿り着いていない。この力がある限り、ジョー・ウルフも敵ではない)

 クラークは全宇宙を支配しようと企んでいる。ジョーもルイもジャンヌもバレルも、全て自分の配下として操り、手始めにアンドロメダ銀河連邦を滅ぼすつもりでいた。

(不安要素があるとすれば、イレギュラーな存在のアメア・カリングとその娘。あれは操れないかも知れぬ)

 その時、クラークはジャンヌがバレルの潜在意識にコンタクトしているのに気づいた。

(バカな。バレルとジャンヌはそこまで深く繋がっているというのか?)

 クラークは歯軋りして、ジャンヌの呼びかけを阻止しようとした。


「く……」

 廊下を走っていたジャンヌは頭の中を掻き回されるような衝撃波を受けた。

「どうした、ジャンヌ!?」

 カサンドラに羽交い締めをされ、それを振り解こうとしているパトリシアが叫んだ。

「お前の相手は私だ、アメア・カリングの娘!」

 カサンドラは更に力を込めてパトリシアを締め上げた。

「うるさい、デブ女!」

 パトリシアが白く輝いた。

「何?」

 カサンドラはそれにギョッとして、力を抜いてしまった。その瞬間、パトリシアはカサンドラの拘束を抜け、ジャンヌに駆け寄った。

「くうう……」

 ジャンヌは謎の激痛により、廊下に倒れ伏した。

(これは父上の精神波か? 何をなさろうとしているのだ?)

 カサンドラは、クラークが凄まじい念を放っているのを感じた。

(洗脳?)

 カサンドラはクラークがやろうとしている事に気づいた。

「む?」

 パトリシアもクラークの念を感じていた。

「悪意の塊がジャンヌを苦しめているのか?」

 パトリシアはクラークがいる方角を見た。


「何!?」

 クラークはパトリシアの強力な波動を感じた。

(これは、アメア・カリングの娘か? やはり、イレギュラーなのか?)

 クラークは精神波をパトリシアにも向けた。しかし、彼女には届かなかった。

「ぐはっ!」

 それどころか、パトリシアの波動に念をはね返され、自分の脳を鷲掴みされたような激痛を受けた。

「おのれ……」

 クラークはジャンヌへの攻撃をやめて、パトリシアの波動の防御に集中し、何とか防いだ。

(やはり、ブランデンブルグの創り出したアメア・カリングの系統は、ニコラス・グレイの流れを汲んでいないのか? 私の精神波が通じないとは……)

 クラークは、バレルへの念に集中する事にした。パトリシアの波動は、ジャンヌへの攻撃をやめると、収まった。

(今は皇太子殿下即位だけを考えるか)

 クラークはバレルを誘導し、皇太子の椅子を用意した大広間へと導いた。バレルは完全にクラークに支配されており、障害なく大広間へと入場した。


「しっかりしろ、ジャンヌ! バレルが危うい」

 パトリシアはジャンヌを助け起こすと、廊下を走り出した。

「待て、アメア・カリングの娘!」

 カサンドラがそれを追いかける。

(今、父上の精神波がアメア・カリングの娘にはね返されていた。どういう事だ?)

 カサンドラはクラークの力が通用しないパトリシアに脅威を感じていた。

「ありがとう、パット。もう大丈夫だから」

 ジャンヌはパトリシアの助けに礼を言うと、一人で走り始めた。

「バレルは私がもらうのは揺るがない」

 パトリシアは不意にそんな事を言うと、ジャンヌを追い越して廊下を走った。

「あ、ちょっと!」

 変わり身が早いパトリシアに目を見開き、ジャンヌは彼女を追いかけた。

「待てと言っている!」

 カサンドラがジャンヌを追い抜き、パトリシアに迫った。

「しつこい!」

 パトリシアは振り向きもせずに裏拳を放ち、カサンドラの顔面を殴りつけた。

「がはっ!」

 まともにそれを食らってしまったカサンドラはもんどり打って仰向けに倒れた。

「うわ!」

 ジャンヌはかろうじてそれをかわすと、パトリシアを追いかけた。

「許さない!」

 流れ出した鼻血を超回復で止めると、カサンドラは走り出した。


「時間稼ぎにはなるか」

 クラークはニューロボテクター隊を三十人差し向けた。

「皇太子殿下の即位式を妨害する者を排除せよ」

 クラークはニューロボテクター隊に厳命した。


「あ」

 ジャンヌは廊下が四つ角になっているところで、両側からニューロボテクター隊が現れるのを見た。

「雑魚が」

 パトリシアは鼻で笑うと、ニューロボテクター隊に向かった。

「パット、そいつらは……」

 ジャンヌが止めようとしたが、パトリシアはそれよりも早く駆け抜けていた。

「はあ!」

 パトリシアはニューロボテクターの弱点を見抜いていた。彼女はニューロボテクターの懐に飛び込むと、顎下の装甲を掴み、握り潰した。

「げべっ!」

 ニューロボテクターは顔の向きを自在に変えるために顎下の部分だけ伸縮自在の繊維でできている。パトリシアはそれを瞬時に誰にも教えられる事なく、理解したのだった。

「ひっ!」

 ニューロボテクター隊はパトリシアの動きを見てたじろいだ。繊維とは言っても、通常の人間に破壊できる強度ではない。それをいとも簡単に潰したパトリシアの握力に衝撃を受けたのだ。

「あんなところに弱点があったの?」

 ジャンヌはパトリシアの動きに感嘆した。

「お前達は下がれ、手に負える奴らではない!」

 カサンドラはパトリシアがあっさりとニューロボテクターを倒したのを見て叫んだ。ニューロボテクター隊は壊滅的な逃走を始めた。

「お前の相手は私だ!」

 カサンドラが叫び、パトリシアへと疾走した。

「ジャンヌは先に行け。このデブ女は私が始末する」

 パトリシアはカサンドラを睨んだ。

「わかった」

 ジャンヌはパトリシアの強さを目の当たりにして、先へと急いだ。

「こっち!」

 バレルの気を感じ、ジャンヌは廊下を走った。


 バレルは大広間の奥に鎮座している大きくて豪華な椅子に座っていた。目は虚ろで、何も見ていない。

「皇太子殿下の証であるこの冠をお被りください」

 クラークは司祭がうやうやしく持って来た冠を見て告げた。

「うむ」

 バレルはそれだけ言うと、光のない瞳で司祭が掲げている冠を見た。

(これは旧帝国の皇太子が代々戴冠したもの。そして、これを被る事により、バレルは我がしもべとなる)

 クラークは王冠に仕掛けをしていた。彼の精神波を増幅する装置を内蔵させているのだ。

(これを成せば、もう現皇帝なぞ、いつ崩御されても構わぬ)

 クラークはニヤリとした。司祭は何がしかの祝詞のりとを述べ、バレルの頭に冠を載せた。バレルの瞳の闇が更に深くなった。

(これで神聖銀河帝国は盤石となる)

 クラークはバレルにひざまずいた。司祭は儀式の仕草を完了すると、退室した。

「バレル!」

 そこへジャンヌが入れ違いに飛び込んで来た。

「おお、やっと参ったか、ジャンヌよ。すでにお前の恋人は神聖銀河帝国の皇太子殿下におなりあそばされたぞ」

 クラークは右の口角を吊り上げて立ち上がった。

「え?」

 ジャンヌは「お前の恋人」と言われ、赤面したが、

「うるさい! コウタイシデンカなんて、関係ない! バレルは返してもらうぞ!」

 クラークを睨みつけると、突進した。

「無駄だ」

 クラークの精神波が発動された。

「がはっ!」

 ジャンヌは鼻と口からおびただしい量の血を噴き出した。

(こいつがさっきの……)

 膝から崩れ落ちたジャンヌは、それでもクラークを睨みつけた。

「ジャンヌよ、お前はこのまま潰してしまうには惜しい逸材だ。我が配下となり、皇太子殿下に忠誠を尽くせ。さすれば、命だけは助けてやろう」

 クラークはさげすんだ目でジャンヌを見下ろした。

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