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交錯する悪意

「待て、このやろう!」

 軍服姿の大男は、すでに見失ったにも関わらず、バレルを追いかけようとした。

「もう追う必要はありません。殿下はすでにカサンドラ様の虜です」

 そこへ現れた女官の一人が告げた。

「はあ?」

 何の事かわからない大男は眉をひそめて女官を見下ろした。

「まあ、いいけどね」

 大男は肩をすくめて、持ち場に戻って行った。女官達は目配せし合って、四方に分かれて歩き出した。


(畜生、どうなってるんだ?)

 バレルはグローヴの在処ありかを探りながら進んでいたが、一向に近づけないでいた。

(グローヴのある場所はわかるのに、どうして近づけないんだ?)

 バレルは回廊を走り回って息が上がっていた。いくら進んでも、グローヴの気配はある一定の距離を保ったままなのだ。バレルはカサンドラに誘導されているのに気づいていなかった。回廊は絶妙のタイミングで移動して、進路を変えているのだ。バレルは同じところをぐるぐる回らされていた。

「くそっ!」

 疲労したバレルは回廊に寝転がった。

(ジャンヌ、助けてくれ……)

 バレルは心の底からそう思った。


「え?」

 ジャンヌはバレルの救いを求める声を聴いた。

「面白くないな」

 小型艇を錐揉み状に進めているパトリシアが呟いた。

「え、何?」

 ジャンヌはシートベルトで身体を固定しながらパトリシアを見た。

「別に」

 パトリシアはすました顔で応じた。ジャンヌに心の中を知られたくないのだ。

(何故、バレルはジャンヌに助けを求めた?)

 パトリシアもバレルの声を聴いていた。自分ではなく、ジャンヌの名を呼んだのが気に食わないのである。

「反撃するぞ」

 パトリシアは小型艇に装備されている機銃と多弾頭ミサイルを展開して、迫り来る砲火をかわしながら地対空ミサイルを破壊した。

「ジャンヌ、敵の攻撃の死角を探ってくれ。機銃とミサイルは無限ではない」

 パトリシアが告げると、

「了解!」

 ジャンヌはパネルを操作して、ゲルマン星の防御システムを調べた。

「よし、わかった! 今、そっちに送ったよ」

 ジャンヌはニコッとしてパトリシアを見たが、

「そうか」

 素っ気ない反応のパトリシアを妙に思った。

(何か怒ってる?)

 ジャンヌはバレルが自分の名を呼んだのをパトリシアも聴いていたのを知らない。

「行くぞ」

 パトリシアは小型艇を更に加速させ、弾幕をくぐり抜けると、砲塔とミサイル発射孔を機銃と多弾頭ミサイルで破壊した。

「確か、こっちから聴こえた」

 パトリシアはバレルの声がした方向へと低空飛行で進んだ。

(あれ、もしかして?)

 パトリシアのその言葉にジャンヌはハッとし、

(バレルの声、パットにも聴こえていたんだ……)

 バツが悪くなった。


「敵機が防衛ラインを突破しました」

 カサンドラの持つ携帯端末から伝令兵の声がした。

「そう来なくてはな」

 カサンドラはフッと笑い、回廊を走り出した。

『カサンドラ、ネズミが動き出した。そちらを先に始末しろ』

 父親のクラークの声が聞こえた。

「わかりました、父上」 

 カサンドラは舌打ちをして、方向転換をした。

(ネズミなど、放っておけばよいのに、何故私に始末を命ずるのだ、父上は?)

 カサンドラは苛つきながら、クラークが指示した場所へ急いだ。


(クラーク・ガイルは確か、ビリオンスヒューマンとかいう異能者だったはず。だとすると、私らの動きは気づかれているって事かい?)

 クラークにギャザリー・ワケマクと呼ばれた赤い髪の女は、ブリッジのキャプテンシートから立ち上がった。

「これより先、内通者との一切の連絡を禁ずる。内通者が成功したら救出はするが、失敗した場合は、すぐにこの宙域を離脱するよ」

 ギャザリーはジャンヌ拉致を決行しようとしているゲルマン星の内通者を切り捨てる準備をしていた。

(容赦ねえな、姐さんは)

 それを横で聞いている巨漢の大男は身震いしていた。

「私が怖いかい?」

 ギャザリーは大男を見た。大男はギクッとして、

「いえ、その……」

 しどろもどろになった。ギャザリーはニヤリとして、

「私は味方でも躊躇いなく切り捨てて、この戦乱の時代を生きて来たんだよ。そうしなきゃ、とうの昔に死んでいたさ」

 前を向いた。大男は全身から汗を噴き出して、顔を引きつらせた。


 ジャンヌとパトリシアは周囲の兵器を破壊し尽くして着陸すると、小型艇を飛び出して、バレルがいると思われる方へと走り出した。するとそこへ四方からバレルの世話をしていた女官が走って来た。

「む?」

 ジャンヌはごく普通の体格をした女官達を見て眉をひそめた。

(何だ、この女達は? カサンドラのような悪意も敵意も感じない)

 ジャンヌは女官達が敵か味方かわからないのでどうすればいいか迷った。

「ジャンヌ、甘いぞ!」

 ところが、パトリシアは躊躇なく女官達に突進すると、殴り倒した。

「え?」

 ジャンヌは女官達が火花を散らして倒れるのを見た。

「こいつらはアンドロイドだ。容赦するな」

 パトリシアはもぎ取った女官の首を見せた。千切られた首から、金属製のコードが幾本も垂れ下がっていた。

「ならば!」

 ジャンヌは襲いかかって来た女官達をグローヴを輝かせて殴り倒した。

「こっちね!」

 ジャンヌはバレルの叫び声を感じ、走り出した。

「あ、抜け駆けはダメだぞ、ジャンヌ!」

 バレルの気持ちがジャンヌにあるのを知ったパトリシアは焦って追いかけた。


「待っていたぞ、ジャンヌ」

 鉄製の扉をグローヴでぶち抜いて中に飛び込むと、カサンドラが立っているのが見えた。

「カサンドラ、バレルはどこ?」

 ジャンヌはキッとして尋ねた。カサンドラは不敵な笑みを浮かべて、

「皇太子殿下は即位式のためにお着替えをなさっている。お前などとはもう会わぬ」

「コウタイシデンカ? 何だ、それは?」

 ジャンヌは聞いた事がない言葉を言われ、首を傾げた。

「神聖銀河帝国の皇帝の後継という意味だ」

 追いついたパトリシアが言った。カサンドラはパトリシアを見て、

「お前はやはり、あのアメア・カリングの娘か?」

 パトリシアはカサンドラをせせら笑って、

「教えない。お前のような薄汚い女にはな」

 挑発した。

(この二人、性格が似ているのかも知れない)

 ジャンヌは顔を引きつらせた。

「私を挑発しているつもりか、アメア・カリングの娘?」

 カサンドラが挑発し返した。

「バレルはどこ!? 答えろ、カサンドラ!」

 ジャンヌはカサンドラとパトリシアのバカげた挑発合戦を遮り、再び問いかけた。

「私を勝手に娘認定するな、ぽっちゃり女。バレルは返してもらうぞ」

 パトリシアは更にカサンドラを挑発した。

「ぽっちゃりはお前だろう、アメアの娘が」

 カサンドラは鼻で笑った。

「黙れ、デブ女!」

 パトリシアが切れた。そして、カサンドラに突進した。

「あ、パット!」

 先を越されたジャンヌが叫んだ。

「デブはお前だ!」

 カサンドラもパトリシアに向かって駆け出した。


(カサンドラめ、私の命令に背いて、ジャンヌのところへ行ったのか?)

 クラークはムッとしていた。

(ジャンヌと接触させ過ぎたな。カサンドラが歪み始めている。しかも、ジャンヌと一緒に来たのは、アメア・カリングの娘か? どちらかというと、父親のミハロフ・カークに似ているな)

 クラークは二人がカサンドラに向かえば、カサンドラは勝てないと予測した。

『カサンドラ、退くのだ。その二人を同時に相手にするな』

 クラークは強い思念をカサンドラに送って語りかけた。

『父上、邪魔だて無用です』

 カサンドラはクラークの呼びかけをはねつけて来た。

「カサンドラ……」

 クラークは娘の反抗に唖然とした。そして、

(まあ、よい。また造ればいいだけだ)

 フッと笑った。

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