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ゲルマン星へ

「わかった」

 ジャンヌは立ち上がった。カタリーナは微笑んで、

「じゃあ、行くわよ」

 ところが、

「ダメ。母さんは足手纏いだから、残って。私一人で行く」

 ジャンヌはカタリーナの同行を拒否した。

「足手纏いなんかにならないわよ! 失礼ね!」

 カタリーナはムッとしたが、

「母上、危険です。行かない方がいいです」

 アメアにまでそう言われてしまった。

「え? アメア、酷いわ」

 カタリーナが涙ぐむとアメアは動揺したが、

「ダメです。代わりにパットを行かせます」

「ええ!?」

 パトリシアとジャンヌが同時に叫んだ。

「お前なら、ジャンヌ以上にできる。そうだな?」

 アメアは有無を言わさない顔でパトリシアに告げた。

「お母さん、そんな……」

 パトリシアは驚き過ぎて言葉がそれ以上出ない。

「あの男を救い出せば、お前を選んでくれるかも知れないぞ」

 アメアは悪魔の囁きとも言える事を娘に告げた。

「行く」

 パトリシアはジャンヌに詰め寄って主張した。

(この子、本気でバレルの事、好きなの?)

 ジャンヌはパトリシアの恋心に恐怖を感じた。

(確かに、アメア・カリングとミハロフ・カークの間に生まれたパットなら、頼もしいかも)

 そう思ったジャンヌだが、

(でも、もし本気でパトリシアがバレルに迫ったりしたら……)

 巨乳大好きなバレルは簡単になびく。それも脅威だった。

「決まりだな」

 アメアはジャンヌを見てニヤリとした。

(性格が悪い姉だ)

 ジャンヌはアメアに苦笑いするしかなかった。

「まあ、それなら、仕方ないわね」

 カタリーナは肩をすくめて引き下がった。


 バレルを乗せた小型艇はオートパイロットで神聖銀河帝国の首府星であるゲルマン星の衛星軌道にジャンピングアウトした。

「ここは?」

 カサンドラの巨乳から解放されたバレルは、キャノピーから見える光り輝く惑星に見入った。

「天の川銀河で一番進んでいるゲルマン星だ。お前がいたタトゥーク星とは比べものにならんだろう?」

 カサンドラはバレルの首に右腕を巻きつけた。

「は、はひ……」

 呼吸が苦しくなったバレルは意識朦朧となりながら応じた。

「お前の愛しのジャンヌは果たして来てくれるか? あまり好かれていないようだが?」

 カサンドラはバレルの顔に自分の顔を接近させた。

「あはは、そうかも。助けに来てくれないかもね……」

 バレルは顔を引きつらせた。カサンドラはフッと笑って、

「その方が良い。お前は次期神聖銀河帝国皇帝に即位する身。そして、私がお前の御子を産む」

「はあ?」

 バレルはどこから突っ込めばいいのか迷う程驚愕していた。

「何だ、私が相手では不服か?」 

 カサンドラの腕に力が入った。

「け、決してそのような事は……」

 バレルは首を絞められているからではなく、本心で言った。

(こんな綺麗なお姉さんに俺の子を産んでもらえるのなら……)

 一瞬、そう思ったのだが、

(跡継ぎができたら、俺は殺されるのか?)

 旧銀河帝国の興亡の歴史をカタリーナに教えられていたバレルは、すぐに思い直した。そして、ジャンヌの顔を思い出した。

(あいつ、珍しく泣きそうな顔をしていた)

 胸に熱いものが込み上げて来るのを感じた。

「心配するな。私が子を産んでも、お前を始末したりしない」

 カサンドラがバレルの心の内を見透かしたかのように囁いた。

(漏らしそう……)

 バレルは涙ぐんでいた。


「えええ!?」

 エミーとカタリーナは、会議室でバレルの養父母であるローリン夫妻にバレルがカサンドラに連れ去られた事を伝えていた。

「ルイに何て言ったら……」

 養母のジュリアは眩暈めまいを起こして椅子にもたれかかった。

「しっかりしろ、ジュリア」

 養父のゴレルは妻を支えた。

「ルイと連絡は取れないんですか?」

 カタリーナが尋ねた。ジュリアはまだ眩暈を起こしたままなので、

「ルイとの連絡は一方通行です。あちらから連絡がないと……」

 ゴレルは俯いて言った。

「ルイは次にいつ連絡をくれますか?」

 カタリーナはゴレルに詰め寄った。

「わかりません。不定期に来るので、次がいつかまでは……」

 ゴレルはカタリーナを見上げた。

「そうですか。わかりました」

 カタリーナは何かを思いついて、会議室を出て行った。

「失礼します」

 エミーがそれを追いかけた。

「どうしたんですか、カタリーナさん?」

 廊下を足速に移動するカタリーナにエミーが呼びかけた。カタリーナは振り返らずに、

「アメアが知っているかも知れないの」

「え? アメアが?」

 エミーは目を見開いた。


 カサンドラはクラークの執務室へ赴いていた。

「ご苦労だった。皇太子殿下は如何している?」

 クラークは椅子から立ち上がって訊いた。カサンドラは頭を下げて、

「只今、沐浴中です」

 クラークはフッと笑って、

「そうか。世俗の穢れたものを洗い流すのが肝要であるからな」

 クラークはカサンドラに近づき、

「お前も、殿下を気に入ったようだな?」

 無表情のままのカサンドラを見下ろした。カサンドラはクラークを見上げて、

「はい。良い子種をお持ちかと存じます」

 クラークはカサンドラに背を向けて、自席に戻りながら、

「結構。お前が世継ぎを産めば、神聖銀河帝国は盤石となる。血統も揺るぎない」

「はい」

 カサンドラはなおも無表情で応じた。

「そして何より、我がガイル家が皇帝陛下の外戚となり、帝国をお支えする。そうなれば、天の川銀河の繁栄は未来永劫続き、アンドロメダ銀河連邦打倒も夢ではなくなる」

 クラークは椅子に身を沈め、娘を見やった。カサンドラもクラークを見て、

「はい」

 一礼して、退室した。

(バレル・クサヴァー。皇帝の座に就ければ、後はルイ・ド・ジャーマンを始末して完結する。銀河帝国の血統は続き、我が血筋も高貴なるものとなる)

 クラークは眉間にしわを寄せた。

(いや、ルイだけではダメだ。ジョー・ウルフも始末せねば、天の川銀河の安寧はない)

 クラークの目が血走った。


 ジャンヌとパトリシアが乗る小型艇はタトゥーク星を飛び立ち、ジャンピング航法で一気に天の川銀河の中心部へ移動した。

「ゲルマン星はここからだと……」

 ジャンヌはナビゲーションシステムを起動させて、ゲルマン星の座標を調べた。

「こっちだ」

 ところがそれを無視して、パトリシアが勝手に小型艇を操縦し始めた。

「え、ちょっと、パット、何してるのよ!?」

 ジャンヌは慌ててパトリシアを止めようとしたが、

「あれ?」

 システムが指し示す方角と一致していたので、引き下がった。

(やっぱり、アメアさんとミハロフの子ね。凄いわ)

 ジャンヌはパトリシアの能力に驚嘆していた。

「譲らないぞ」

 唐突にパトリシアが言った。

「え? 何の事?」

 ジャンヌはわかっていながらもとぼけた。

「バレルの事だ。私が救出して、私のものにする」

 パトリシアは前方を見据えたままで告げた。今までのジャンヌなら、

「どうぞ、ご自由に」

 そう言ったはずだが、

「私だって、譲らないから」

 初めて他人に本心を話した。パトリシアはニヤリとしたが、何も言い返さなかった。ジャンヌもそれに応じて、前を見据えた。


 カタリーナとエミーはアメアの部屋にいた。アメアは二人掛けのソファに一人で、カタリーナとエミーは二人掛けのソファに並んで座っている。

「ルイ・ド・ジャーマンの居場所、ですか、母上?」

 アメアはカタリーナを見た。エミーはアメアの威圧的な態度が気に入らないのだが、カタリーナの手前、それは言えない。

「そう。貴女程の人間なら、簡単よね? どこにいるか、教えて」

 カタリーナはアメアをおだてて聞き出そうとしていた。ところが、

「残念ですが、わかりません。ルイは気配を消す訓練を受けているようです。全くわからないのです」

 アメアはあっさりと言った。

「ええ?」

 カタリーナはそんな返答が来るとは思っていなかったので、仰天した。

「仮にわかったとしても、教える事はできません。あの女に知られてしまいますので」

 アメアはチラッとドアの方を見た。

「え?」

 カタリーナとエミーはハッとしてドアを見た。エミーは素早くドアに駆け寄り、勢いよく開いたが、廊下には誰もいなかった。

「まさか、スパイがいるという事?」

 エミーがアメアを睨んだ。アメアはエミーを見て、

「気づいていなかったのか? 二度も敵襲を受けた理由がそれだ」

 衝撃的な事を告げた。カタリーナとエミーは絶句してしまった。

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