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プロローグ ジャンヌ

 狂気の科学者ニコラス・グレイが起こした事件から十数年が経過した。天の川銀河のとある惑星の繁華街のはずれにあるスクラップ置き場の一角でそれは起こった。


「そこまでだ。それ以上私の友達に酷い事をするのなら、それなりに痛い目に遭ってもらうぞ」

 黒髪のポニーテールを揺らして、ノースリーブの白の革製のジャケットに同じく白の革製のショートパンツを履いた小柄な少女が立ちはだかったのは、天の川銀河を統治していた銀河共和国を圧倒的な軍事力で侵略し、その半分以上を支配下に収めた自称神聖銀河帝国のニューロボテクター隊の前である。ニューロボテクター隊とは、かつて存在した銀河帝国の最大の敵であったドミニークス反乱軍(通称:新共和国)の精鋭部隊であるロボテクター隊の弱点を改良したリフレクトスーツを装着した強襲歩兵部隊である。

「命知らずな子供だな。我らは無敵だ。死にたくなかったら、そこを退け」

 少女の倍程もある巨体の隊長は特殊合金で造られた漆黒のヘルメットの中の目を鋭くした。しかし、ポニーテールの少女は、

「あんたこそ、怪我をしたくなかったら、さっさと帰りな。さもないと、どっちが命知らずか、教えてやるぞ」

 チラッと後ろに倒れている血まみれの子供達を見た。隊長は少女が隙を見せたと判断し、猛然と襲いかかるという卑怯な行動に出た。

「ほざけ!」

 隊長の拳が少女の頭頂部を目がけて振り下ろされた。周囲でそれを見ていた人々は思わず目を背けた。少女の頭が粉微塵にされると思ったからだ。

「遅い!」

 少女は隊長の拳が振り下ろされる前に隊長の懐に飛び込み、白い手袋をはめた右の拳を隊長の左脇に叩き込んだ。後方でそれを見ていた隊員達は、黒い特殊合金で造られているスーツの頑丈さを知っているので、少女の右手が複雑骨折するのを確信してほくそ笑んだ。

「ぐげえ……」

 ところが、少女の拳はスーツを貫き、隊長の横っ腹がひしゃげる程食い込んでいた。

「がああ……」

 隊長はその巨体を地面に倒し、のたうち回った。隊員達は信じられない光景を見て、呆然としている。周囲の見物人達も絶句していた。

(何だ、今のは? あのガキの拳が、一瞬輝いたような……)

 隊員の一人は、少女の手袋が白く輝いたのを見ていた。

「貴様!」

 隊長が倒されたのを見て、隊員達が激昂し、少女を取り囲んだ。

「我らに楯突くとはとんでもないガキだ! 取り押さえろ!」

 副隊長が号令した。

「おお!」

 多くの隊員達が雄叫びをあげ、少女に突進した。

「やめろ、そいつは……!」

 少女の右拳が輝くのを目撃した隊員だけが動かずに他の隊員達の暴走を止めようとした。しかし、無駄だった。

「今度こそ、ダメだ……」

 少女に助けてもらった子供達は震えていた。自分達のせいで、お姉ちゃんが殺されちゃう! その目から大粒の涙がいくつもこぼれ落ちていた。

「そうかい、手間が省けるよ! まとめて叩きのめしてやる!」

 総勢二十人程の大男達が向かって来るのを見た少女は全く怯んでいなかった。

「お姉ちゃん、逃げてえ!」

 子供達が涙を流しながらあらん限りの声で叫んだ。周囲の見物人達は逃げ出す者もいた。ニューロボテクター隊の残忍さを知っているからだ。目撃者を全員殺すかも知れないのだ。

「遅いんだよ!」

 合金の装甲を着込んだ巨体を次々に少女が拳で叩き潰していく。逃げ始めた人々はその信じられない光景に足を止め、口を開けたまま見入っていた。

「はああ!」

 少女の両手の手袋が輝き、ニューロボテクター隊の分厚い装甲が砕かれる。少女の輝きは装甲を打ち砕くたびに広がり、最後の一人を倒した時には、少女の身体全体が白く輝いていた。

(な、何だ? このガキ、何者なんだ? それにあの輝きは?)

 只一人、少女に襲いかからなかったニューロボテクター隊員は恐怖で立ち尽くしていた。

「お姉ちゃん!」

 子供達が少女に駆け寄った。

「みんな、大丈夫かい?」

 少女は息一つ乱さないで微笑んだ。

「うん!」

 子供の一人が鼻の下をこすって応じた。

「そう」

 少女は真顔になり、一人残った隊員を睨んだ。

「あんたはやらないのかい?」

 少女のドスの効いた声に隊員は後退あとずさった。

「ひいい!」

 隊員は我に返ると、一目散に逃走した。

「みんな、早くここから離れるんだ。あいつが増援を連れて来たら、厄介だから」

 少女は周囲の人々を見渡して告げた。見物人達は顔を見合わせると、散らばって立ち去って行った。

「走れるか?」

 少女は子供達に声をかけた。

「うん!」

「よし、行くよ!」

 少女は子供達を伴って、スクラップ置き場から走り出した。


 スクラップ置き場から逃走した隊員は、一番近い神聖銀河帝国陸軍の詰所へと駆け込み、経緯を報告した。

「バカな。ニューロボテクター隊が一人のガキに壊滅させられただと? 嘘も大概にしておけ」

 隊員の話を全く信用していない詰所の所長は半目になった。

「嘘ではありません! これをご覧ください!」

 隊員は携帯端末で撮影した映像を所長に見せた。そこには白く輝く少女がニューロボテクター隊を次々に倒していくのが映っていた。

「な!?」

 所長はその映像に目を見開いた。

「これは由々しき事態だ。すぐに上申する」

 所長は顔色を変えて奥へと歩いて行った。そして、廊下の角を曲がったところで、

「奴の口を封じろ」

 控えていた黒尽くめの男に命じた。男は軽く頭を下げると、フッと消えた。

(見つけたぞ。遂に見つけた。あの男の最大の弱点をな)

 所長は右の口角を吊り上げると、歩を速めた。


「ジャンヌ!」

 繁華街の反対側にあるスラムまで走って来た少女を上から呼んだ者がいた。少女は溜息を吐いて立ち止まると、声の主を見上げた。

「何の用、バレル?」

 少女の声には怒気が含まれていた。バレルと呼ばれたのは、朽ちかけた建物の屋上から見下ろしている少女と同年代くらいの少年だった。肩まで伸びた金髪をセンター分けにしており、少女と同じく白い革製の半袖のジャケットを着て、白の革製のショートパンツを履いている。そして彼も少女と同じく、白い手袋を着けていた。

「ご挨拶だな」

 バレルは肩をすくめると、ひらりと地上へ飛び降り、前転してジャンヌの目の前に進んだ。

「お姉ちゃん、気をつけて! そいつ、スケベだから」

 一緒に走って来た女の子がバレルを睨みつけた。

「おいおい、聞き捨てならないな。俺のどこがスケベなんだよ、おチビちゃん」

 バレルは金髪を掻き上げて、女の子に顔を近づけた。バレルは青い瞳なので、その目に間近で見つめられた女の子は赤面した。

「あんたがスケベじゃなかったら、宇宙にスケベがいなくなるよ」

 ジャンヌはバレルを半目で見た。

「酷えなあ。幼馴染で恋人の俺に対する言葉とは思えない……」

 バレルがそこまで言った時、ジャンヌの右拳が彼の腹を殴っていた。

「ぐへえ……」

 バレルは膝から崩れ落ちた。

「誰が恋人だよ、勘違い男が! 次にそんな事言ったら、容赦しないからね!」

 ジャンヌは目を吊り上げてうずくまるバレルを見下ろした。

「行くよ」

 ジャンヌは子供達を連れて、そこから立ち去ってしまった。バレルに見つめられて赤面した女の子だけが、

「大丈夫?」

 バレルを気遣ったが、

「大丈夫よ。そいつ、頑丈だから」

 背を向けたまま歩くジャンヌに言われ、

「うん……」

 名残惜しそうに駆け出した。


「そうか。それは確実だな。生きたまま私のところに連れて来い」

 陸軍の詰所の所長からの超空間通信を大型モニターで受けている男が命じた。

「畏まりました」 

 所長は敬礼してモニターから消えた。

「幾年にも渡って探し求めていたものがようやく見つかりそうだな」

 男は漆黒の軍服に数多くの勲章を着けている。髪は黒髪のオールバックで、ニューロボテクター隊の隊員よりも巨躯だ。目は鋭く吊り上がり、その瞳は赤い。

「それにしても、あの輝き、BHに違いない。洗脳して、我が軍の精鋭部隊で使えば、天の川銀河はもちろん、アンドロメダ銀河征服も夢ではない」

 男は低く笑った。

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