三味線女
こちらは百物語七十四話になります。
山ン本怪談百物語↓
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いきなりですが、私の仕事先である老人ホームには「妖怪」が出ます。
その名も「三味線女」です。
私はまだ見たことがないのですが、先輩たちは夜勤中によくこの妖怪に出くわすそうです。
三味線女を最初に見たのは、先輩のBさんでした。
Bさんが夜勤中に書類を整理していた時のことです。
「巡回までまだ時間があるわね。夜食でも食べちゃおうかしら」
いつも通り夜勤の作業を進めていると、廊下の方から奇妙な音が聞こえてくることに気がつきました。
ベン…ベン…ベベベン…♪
あまり聞いたことがない音でした。何か楽器のような…
「こんな夜中に誰が…別のエリアの入居者さんが何かやっているのかしら…?」
Bさんは担当エリアから廊下へ出ると、音の正体を見つけるために辺りを確認しました。
「休憩室から聞こえてくる?こんな時間に何しているのよ…」
音は2階の職員たちが利用する休憩室から聞こえてくるのです。Bさんは内線で他のスタッフに連絡すると、単身で休憩所へ向かうことにしました。
「すみません、誰かいるんですか?」
Bさんは休憩室のドアの前に立つと、小声で声をかけた。ドアを確認してみるが、しっかりと鍵がかかっている。Bさんは事務所から鍵を持ってくると、ゆっくりとドアを開いた。
「あの…誰かいるんですか…?」
恐る恐る休憩室の中を覗いてみたBさん。中は真っ暗で何もわからない。しかし…
ベン…ベベベン…♪
休憩室の奥から突然あの音が聞こえてきた。
慌てたBさんは急いで休憩室の明かりを点けた。そこでBさんが見たものは…
「ああっ!?」
休憩室に置かれている机に乗って「三味線」を弾いている着物姿の女性でした。
予想外の人物に声を出して驚いてしまったBさん。そりゃあ深夜の老人ホームに着物を着た女性がいたら誰だって驚きますよ。
「ちょ、ちょっと!誰なんですかあなた?」
Bさんはすぐにその女性へ声をかけました。
三味線を弾いていた女性は演奏を止め、ゆっくりとBさんの方へ顔を向けてきたのです。
その時でした。
(あっ!これヤバい奴だ…!)
Bさんは咄嗟に「女性と目を合わせてはいけない」と思ったそうです。
女性の肌は異常に白く、目の前にいるのに存在感を一切感じないほど透き通った存在だったと聞きました。
(この人、人間じゃない)
Bさんは目の前にいる女性が人間ではないということに気がついたのです。直感というか、本能というか…
女性を近くで見たBさんは何となくそう思ったのです。そして目を合わせてしまった場合、何かが起こるということも…
Bさんは女性と目が合う前に休憩室を出ると、すぐに近くのエリアにいた別の職員さんに声をかけたそうです。
その職員さんと一緒に休憩室へ戻ったBさんでしたが、休憩室の中に着物を着た女性はもういなかったそうです。
Bさんは一応会社へ不審者として報告したらしいのですが、施設へ侵入された形跡などが一切なかったため、当時はあまり相手にされなかったそうです。
しかし、状況は数週間で激変してしまいます。
夜勤職員の間で、休憩室で三味線を弾くを女を見たという話をよく聞くようになったのです。
休憩室から三味線の音が聞こえており、中を確認してみると着物を着た女性が机の上で三味線を弾いていた。Bさんと同じような報告が続出したそうです。
この話は段々と大きくなり、今では休憩室に現れる三味線女としてほとんどの職員が知ることになってしまいました。
三味線女は基本無害であり、三味線を弾く以外の行動はしないそうです。放っておけば勝手に消えるし、音も騒音というレベルではないので気にしないことが一番の対策でした。
しかし、唯一怖いことがあります。
三味線女を見たほとんどの人が「目を合わせてはいけない」と感じたこと。
よくわかりませんが、三味線女に出くわした人は心の中でそう感じるそうです。
なぜ目を合わせてはいけないのか。
三味線女と目を合わせてしまった人は、もうこの世にはいません。
この三味線女と目を合わせた人は、数日以内に亡くなってしまったからです。
自殺や事故死だと聞きましたが、詳しいことはわかりません。
今日も先輩たちから言われました。
「夜勤の時は三味線女に気をつけなさい。三味線の音が聞こえたら、音が消える夜明け前までエリアを出てはダメよ」
ちなみに私は来週から夜勤デビューです。
あぁ、めんどくさい…
お久しぶりです。
作者の山ン本です。
またちょいちょい最新話を出していきます!
今年も夏のホラー2022に参加予定なので、そちらもよろしくお願いします!