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第二九話 タッチ・アンド・ゴー 一


 私と葦舟さんが召喚契約を結んだあとは、他にこれといった進展もないまま、その日は解散となった。

 葦舟さんに乗り込んで満足したプチガミ様たちが、今度は大二郎に目をつけ、キャイキャイと遊んだためである……。

 まあ、サブちゃんも楽しそうだったから、別にいいんだけどね。のじゃっ子たちが大二郎にみっちり詰まっている様は、保育園のお出かけみたいで可愛かったし。

 そういうわけで、家に帰った私はさっそく仁志おじさんに報告し――。


『絶対にダメ!』


 現在、全力で反対されているところだ……。


「むー、おじさんだって、最初は大喜びだったじゃないですかー」

『いやいや、それは〈奪還チーム〉を送り込めると思ったからだよ。花ちゃんひとりで異世界へ乗り込むなんて、いったい誰が思うと思う?』


 まあね~、思わないよね~。

 どうでもいいけど、その〈奪還チーム〉ってやつ、学者やら戦闘のプロで編成した特殊部隊だよね、絶対。なんかの映画で見たことあるよ。


「思う思うって続けすぎじゃ……」

『いや、そういうのはいいから。とにかく、危険な魔物がウヨウヨしている異世界にちっちゃい女の子がひとりで行くなんて、私は絶対に反対だ』

「誰がちっちゃいだ!」

『スマン! ……まあ、とにかく、真綾のために花ちゃんが危険な目に遭うなんて許容できないよ。他の手段を考えよう、何かあるはずだ、きっと、たぶん……』


 私の抗議に全力で謝ったあと、仁志おじさんは徐々にトーンダウンしていった。

 私のことを心から気遣ってくれているのは嬉しいけど、おじさん、他の手段なんてないんだよ。


「おじさん、たぶん現代科学の力じゃ、異世界に行くどころかその存在証明すらできません。それにさっきも言ったように、私が乗ってないと葦舟さんは異世界へ渡れないんですよ? 私が行くしかないじゃないですか」

『うーむ…………そうだ! たしか、かんなぎとやらの才能を持っていれば、その葦舟に同乗できるんだったね? それなら神様にお願いして、羅城門グループの息がかかった組織の中から、才能のある者をピックアップしてもらおう。花ちゃんをフル装備の特殊部隊で護衛すれば――』


 あ、仁志おじさん今、特殊部隊って言ったぞ。もう隠す気ゼロだね。


「あのー、おじさんは勘違いしてるようですけど、葦舟さんってかなり小さいんですよ。だから私の他に乗れるのは、せいぜい大人ふたりが限度なんで、とてもじゃないけど部隊なんて乗れません。それと、コレ一番重要なことなんですけど、かんなぎの才能って、〈清らかな乙女〉だけが持っているらしいんですよね。……おじさんの知ってる特殊部隊にいます? かんなぎの才能を持ってる〈清らかな乙女〉」

『…………いない、イカツイ野郎しか……』

「デスヨネー……。創作の世界でしか見たことないわ! そんな特殊部隊員!」

『…………』


 あらあらイケナイ、この私としたことが、また口に出てたみたいだね。なんか仁志おじさんが黙っちゃったぞ。

 今、私の脳裏には、衛星電話の向こうでションボリしている仁志おじさんの顔が、ありありと浮かんでいる……。

 うーん、かわいそうだなー。……よし、ここは少しでも仁志おじさんを安心させてあげよう。


「おじさん、クラリッサさんの話って本当なんですよね? それならたぶん、私は異世界に行っても大丈夫だと思います。毒、細菌、ウィルスなんかは結界が弾いてくれるし、それに、真綾ちゃんには遠く及ばないけど、防御力だけなら私も結構なモンなんですよ。それこそ――」


 そうなのだ。【強化】の加護により、私には葦舟さんの防御力相当の結界が張られているから、おそらく剣や弓矢くらいの物理攻撃なら防いでくれるだろう。

 それに私の予想だと、魔法による直接攻撃は無効化してくれるはず……。


 ――クラリッサさんの話を仁志おじさんから聞いた時、彼女が異世界人だったことと同じくらい、いやそれ以上に、私へ大きな衝撃を与えた事実がある。

 なんと! 真綾ちゃんのひいおばあちゃん、クラリッサさんこそが、私の敬愛する鴉ヶ森くらら大先生、その人だったんだよ!

 そして、冷静になった私は考えた。

 ひょっとしたら彼女は、いずれ異世界転移させられてしまう真綾ちゃんに、転移先の情報を少しでも伝えようと、あの小説を書いたんじゃなかろうか? 〈制約〉に引っかからないよう、異世界情報をそこに記したとは誰にも言わず、ひとりで一生懸命、何作も何作も……。

 だとすれば、彼女の全作品を何度も何度も読み返した私の頭には、真綾ちゃんが転移した異世界の知識がパンパンに詰まっている。頭脳明晰だったというクラリッサさんが考察した諸々も含めて――。


 今年の春におじいちゃんと交わした会話を、ちょっと切なく思い出しながら、私は言葉を締めくくる。


「――ドラゴンブレスも効かないくらいに」

『ううむ、……しかし……』


 自信に満ちた私の声を聞いて、衛星電話の向こうにいる仁志おじさんの心が揺れているようだ。……よし、あとひと押し。


「仁志おじさん、……私はおじいちゃんや真綾ちゃんから、たくさんのものを貰いました。おじいちゃんには何も返せなかったけど……真綾ちゃんは今も異世界で生きているんです」


 仁志おじさんになら、わかってもらえるよね、受けた恩を返せないまま、大切な人と永別する虚しさを。


「――だから、私は今こそ返そうと思います、おじいちゃんに返せなかったぶんも含めて。それにね、おじさん、親友を救えるのが世界中で自分だけなんですよ? それを放って家に引きこもってたら、――斎藤花の女が廃るってモンでぃ!」


 私が精一杯の啖呵を切ると、仁志おじさんは黙り込んでしまった。

 でも、しばらくすると、衛星電話の向こうから深く息を吐いた音が聞こえ、なんだかサッパリした感じの仁志おじさんが静かにしゃべり始めた。


「……負けた、花ちゃんには敵わないよ。きみの心の在りようは、羅城門の者には刺さりすぎる。――よし! そうと決まれば、我が羅城門グループが総力を挙げて支援しよう! 花ちゃん――」

「はい」

「――真綾を頼む!」

「はい!」


 仁志おじさんに力強く頼まれた私は、思いっきり元気に返事した。

 こうして、羅城門グループという超強力なスポンサーも得たことで、真綾ちゃん奪還へ向け、わずか一日で一気に前進したのだった。

 よーし、真綾ちゃん、私が迎えに行くからね! 〈伊勢海老尽くしコース〉用意して待ってろよ~!


      ◇      ◇      ◇


「花よ、ちゃんと供物を持ってきたであろうの?」

「和菓子は普段から捧げられておるから、毛色の違う物がよいぞ」

「なんかちょーだい」


 葦舟さんと召喚契約した翌日の放課後、私は神社でカツアゲされていた……。


「……まあ、持ってきたんだけどね。――ほい」


 私が駄菓子屋さんで買い込んできた諸々を、【船内空間】から緋毛氈の上にザラザラッとぶち撒けると、プチガミ様たちはピラニアのごとく群がった。


「うむ! よい心がけじゃ! 花よ、褒めてつかわすぞ」

「おお、これはなんじゃ? これも初めて見るぞ、非常に興味深い」

「甘いのどれ?」


 うむ、なかなかの反応だ。ちっちゃいヨーグルトっぽいお菓子や粉末ジュース、インスタントラーメン風スナック菓子なんかは、おそらく供物として貰ったことなかろう。

 駄菓子にして正解だった、財政面でも……ふはははは!


「よし、明日からもこの調子で持ってまいれ」

「財政破綻するわ!」


 調子に乗ったタゴリちゃんに、私は火野さん仕込みの鋭いツッコミを入れた。

 一介の中学生をなんだと思っとるんだこのプチガミ様は! こんなこと毎日してたらすぐにスッカラカンだよ、私の貧弱な経済力をナメるなよ!


「花はみみっちいのう……」

「しょっぱいのう……」

「小さい……」

「うるさいわ!」


 胡乱な目を揃って向けてくるプチガミ様たちに、ふたたび私が突っ込んでいると、そんな私たちの様子をニコニコして見ていたサブちゃんが、私に向かって話しかけてきた。


「花ちゃん、おじさんには話したの?」

「うん、最初は反対されたけど、ちゃんとわかってもらえたよ。羅城門グループの総力を挙げて支援してくれるって」

「何!? それならば供物代をたんまりと請求するのじゃ!」


 私たちの会話を耳ざとく聞きつけると、口の周りをチョコでベトベトにしたタゴリちゃんが、目をランランと輝かせてムチャなことを要求してきた。

 ……いや、イケるか?

 なんせ相手は世界の羅城門グループなんだから、子供数人ぶんのお菓子代くらいどうということはなかろう。

 よく考えたら、これもプロジェクト成功のための立派な必要経費だと言えなくもないし、私もお菓子食べたいし……フム。


「承認!」

「わーい!」


 私が承認したとたん、みんな揃って短い両手でバンザイしてるよ。

 あ~、癒やされるな~。


      ◇      ◇      ◇


 作戦会議という名のおやつタイムを終えた私は、サブちゃんが開いてくれた異世界への門の前で、召喚した葦舟さんに乗っていた。

 ピンポンダッシュじゃないけど、一度チラッと異世界の様子だけ見て、速攻で帰ってきたらいいんじゃない? という話になったのだ、ノリで。タッチ・アンド・ゴーってやつだね。

 もちろん、言い出しっぺはタゴリちゃんだ……。


「花ちゃん、無理はせず、すぐ帰るようにの」

「うん、ありがとね、サブちゃん」

「行け花! すぐ行け! 早う異世界とやらの様子を見たいのじゃ!」

「鬼かっ!」

「花よ、魔法とやらはともかく、物理的な力には気をつけよ、結界には葦舟並みの強度しかないのじゃろ?」

「うん、わかったよタギツちゃん」

「帰ってきて……」

「うん、ありがと、イッちゃん」


 のじゃっ子たちの心配そうな(タゴリちゃんを除く)声に言葉を返してから、私は葦舟さんの正面へ向いた。

 そこにはサブちゃんの開いた異世界への門……といっても鳥居なんだけど、その鳥居が立っていて、墨汁で塗り潰したような真っ黒い口を開けている。

 うう、ちょっぴり怖いな……。でも、これは真綾ちゃん奪還のための大事な一歩なんだ、頑張れ私!


(葦舟さん、頼んだよ、私を異世界へ連れていってね)


 そう念じる私の心に、葦舟さんの気持ちが流れ込んできた。

 温かい……。葦舟さんが心配しないでって言ってくれてるみたいだ。


「よし、オールグリーン、バッチコイ! 花、行きま~す!」


 私の元気な声と同時に、葦舟さんが鳥居の中へ向かって、まるで吸い込まれるように動き出した。


「おー」


 などと、プチガミ様たちと声を揃えて感心していたのも束の間……。

 まずは、舳先を呑み込んだ漆黒の闇が徐々に私へ接近してくる。いや、もちろん接近してるのは私のほうなんだけど……そんなのどーでもいーんだよ! ヤバい、結構怖いよコレ!

 恐怖のあまり、私はギュッと目をつぶった!





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