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第一九一話 再チャレンジ 二 地下神殿



 真綾ちゃんのことだから、私のことを待っているに違いない。

 と、いうわけで、私は異世界側へ抜け出るや否や、そこにいるだろう彼女に向かって言ったわけさ――。


「メリークリスマス!」


 ――とね、満面の笑みで元気よく。

 そしたらさあ、なんということでしょう。


「……ぎ……ぎゃあぁぁぁ!」

「魔物が出たあぁぁぁ!」

「アレは……妖精の国に棲むという残虐な魔物、レッドキャップに違いないぞ! みんな逃げるのじゃあああ!」


 そこに真綾ちゃんの姿は無く、いかにも村人って感じの数人の男たちから、なんか、思いっきりビビられてしまったんだよ……。

 ああ、そうか、サンタコスなんかしてるからか。たしかにこの格好じゃ、レッドキャップと間違えられてもしょうがないよね。

 どれどれ、自分のサンタ衣装一式を【船内空間】に収納して、と……。


「あのう、驚かせて――」

「ぎゃあぁぁぁ! しゃべったあぁぁぁ!」

「変身しやがったあぁぁぁ!」

「ラタトスクの上位種に違いないぞ! 逃げるのじゃあぁぁぁ!」


 コイツら……。


「誰がラタトスクだ!」

「ぎゃあぁぁぁ、怒ったあぁぁぁ!」

「逃げろおぉぉぉ!」

「あっ! わしを置いて行かんでくれぇぇぇ!」


 ……もう、いいや。

 脱兎のごとく逃げていった男たちのことは放っておいて、まずは現状確認だ。


「火野さん、ムーちゃん、特に危険もなさそうだし、葦舟さんから降りてちょっと周囲を見てみようか。念のために葦舟さんと鳥居をこのままにしておくから、いざってときは葦舟さんに乗ってね」

「よっしゃ!」

「うん……。これは、腕が鳴る……」


 そんなわけで、葦舟さんを降りた私たちは思い思いに動き出した。


 パシャパシャ。


 私たちが今いる場所は、どうしたことか、緊急転移した時の樹洞内でも燃え尽きた森でもないんだよ。

 サブちゃんの門を抜けたからには異世界のどこかなんだろうけど、ここは白い神殿みたいな建造物の内部……ってか、コレ、岩を削って造ったヤツじゃないか? ペトラ遺跡やインドの岩窟遺跡みたいに……。ともかく、石灰岩っぽいのを削ってできたらしい、十数メートル四方の大空間だ。

 壁面には柱やら装飾やらが丁寧に彫り込まれているし、やっぱり、神殿と呼ぶのがふさわしいだろう。

 逃げた男たちが階段を駆け上がっていったことから察するに、ここは地下にある神殿なのかもしれないけど、壁に設けられた採光用と思われる穴から朝日が差し込んでいるってことは、地上という可能性もある。

 とりあえず、地下かどうかは置いとくとして、ここが異世界の神殿だとすれば、アレをどう説明すれば……。


 パシャパシャパシャ。


「なあ花、ムッチャ仏さんいてはるで、ここ異世界ちゃうん?」

「それな!」


 ……そう、火野さんがサラッと言ってくれたとおり、円空仏みたいに素朴な木彫りの仏像たちが、壁沿いにビッシリと置かれているんだよ。

 私の知る限り、グリューシュヴァンツ帝国やその周辺諸国の文明は、西洋のそれにかなり近いし、現にこの神殿の造りも、ギリシャやローマとはちょっと違うにせよ東洋っぽさは皆無だ。そんな神殿に並ぶ仏像群のミスマッチ感たるやハンパない。


「うーん、なんで仏像が……アレ?」


 いちばん小さくて可愛い仏像を手に取って底を見たら、何やら文字らしきものが刻まれていた。なんて書いてあるんだろ? どれどれ――。


 パシャパシャパシャ――ピタ。


「ねえ、花ちゃん……これが……主祭神みたい……」


 文字を解読しようと私が頑張っていたら、異世界神殿を黙々とカメラに収めまくっていたムーちゃんが手を止め、後ろのほうから声をかけてきたので、私は仏像をそっと戻して振り向いた。

 ああ、さっきからパシャパシャ聞こえてたのはシャッター音だよ。


「だよね~、やっぱムーちゃんもそう思う? それにしてもでっかいなあ、後ろはどうなってんだろ? どれどれ――」


 私も気づいてはいたんだけど、私たちが出てきた鳥居の背後、神殿の奥のほうに、高さ八メートルくらいはあろう神像が立っているんだよね。

 木彫りの仏像たちとは作風も何もかも別物だって一目瞭然だし、体に彫られた装飾は神殿と同じ様式に見える。これだけの大きさや置かれている位置からしても、この神像が主祭神に違いない。

 写実的なギリシャ彫刻なんかと違い、柱みたいに縦長な体の上に頭部があるのはいいとして……。


「――なるほど、四面の神様か」


 ……私がグルッと一周して確認したところ、この神像ってさ、四方を見据えるように顔が四つあるんだよね。で、片手に持っているのは角杯(お酒の角ハイボールじゃなくて、獣の角で作った杯のことだよ)か……。うーん、こんな感じの神様、どっかで聞いたことがあるような……。


「……スヴャトヴィト……スヴァントヴィト……」

「なんやムー、またなんかの呪文か?」


 おや? いきなりムーちゃんがブツブツ言い出したぞ。……それにしても火野さん、ムーちゃんの奇行にも驚かず、サラッと対応したね。……まあ、ムーちゃんの奇行は今に始まったことじゃないし、今さら驚かないか。


「……スヴァントヴィート……スヴェントヴィト」

「あっ!」

「なんやなんや!」


 ムーちゃんが何やらブツブツ言っているうちに、神像が一度だけパアッと輝いたもんだから、私も火野さんも驚きの声を上げた。

 さらに驚くことに――。


「……そう……それが、いちばん……シックリくるのね……」


 ――などとムーちゃんが話しかけるや、なんと、神像は彼女の言葉を肯定するみたいにまた輝いたんだよ。

 ファンタジーっぽいなあ……あ、ムーちゃんの首がグリンッとコッチ向いた。相変わらず心臓に悪い動きするね、怖いなあ……。


「花ちゃん……この神様……スヴェントヴィト……だよ……」

「ああ! 西スラブの!」


 ムーちゃんにその名を聞いて私はポンと手を打った。

 そうそう、呼び方はいろいろあるみたいだけど、この四面の神像は、ミュシャも描いていた西スラブの神様を表したものだ。たしか、豊穣神にして戦の神だっけか?

 さすがはムーちゃん、さすムー! オカルト関係やら伝説やらのことになったら、私なんかよりずっと博識だね!

 そーかー、ハーピーやらゴブリンやらがいるくらいだから、そうだろうとは思ってたけど、コッチの世界には、モト界の神様に相当する存在もいるのかー。

 もちろん、すべて同じとは思っちゃいないよ。


「……おお、スヴェントヴィト、それが神様のお名前じゃと……。神様のお名前を知っておるということは、つまり……。神使様あぁぁっ!」

「おわっ!」


 神様の名前を聞いたとたん、なんか、おじいさんが興奮し始めた。ブワッと涙まで流してムッチャ感激のご様子だけど、いきなり大声出すもんだから、私は危うくチビりそうになってしまったじゃないか。

 ……そう、男たちが逃げていった、なんて言ったけど、実は、腰を抜かしたと思われるおじいさんがひとり、ポツンと置き去りにされていたんだよ、私たちは今までスルーしてたけど。


「……花、チビってへんな?」

「チビるかっ!」


 火野さん、そんな確認いらないから……。


「やめてよ火野さん、私はタゴリちゃんじゃないんだからね」

『なんじゃと! このドングリが!』


 私が引き合いに出したとたん、ムッチャ憤慨しているタゴリちゃんの声が勾玉から聞こえてきた。……そういや、こっちの会話は向こうに筒抜けなんだったね、なんか、サブちゃんの前で恥をかかせちゃってスマン。


「花ちゃん……そろそろ……」


 チビるだのチビらないだの、しょーもない話をしていたら、ムーちゃんが私に訴えかけてきた。もちろん、そろそろ情報収集のお時間だよってことだ。

 火野さんは知識的に、ムーちゃんは対人スキル的にと、ふたりはそれぞれ別の理由により不向きだから、異世界での交渉ごとは私がやるしかないんだよね。ホントは私も人見知りなんだけどな……。


「ああ、うん。――えーと、おじいさん、私たちが魔物じゃないってのは、理解してもらえましたか?」

「へへーっ! 畏れ多くも神様に遣わされた方々のことを、こともあろうか魔物などと間違えてしまい、申しわけなかったですじゃあぁぁ!」

「ああ、もう怒ってないから、そんな全力で泣きながら謝んなくても……。ともかく、いろいろとお話を聞きたいんですが、いいですか?」

「はい神使様! なんなりと!」


 とまあ、こういうわけで、村の長老って感じのおじいさんから、私が情報を聞き出すことになったんだよ。

 この神殿や、あの仏像群のことはもちろん、ここがどこで、どうして転移ポイントが狂ってしまったのか、そこまでわかると助かるんだけど……。



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