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02 剣術大会

02 剣術大会


 マッドの子供たちへの指導は、他のクラスの教師と大きく異なっていた。

 今までは校長の計らいで大目に見られていたのだが、新しい校長になってからはそれが問題となってしまう。


 マッドは校長室に呼び出されていた。


「ハリアップ! 10秒の遅刻だよ、マッド君。時は金なりという言葉を知らんのかね。

 私の1秒は、キミの時給に相当するんだ。

 ということはキミは10時間、すなわちキミの日給分の損失を、この私に与えたのだよ」


 マッドはこの、ネチネチとしたしゃべり方をする校長が苦手であった。


「す……すみませんイソギン校長。で、いったい何の用なんでしょうか?」


 イソギンと呼ばれた若き校長は、父っちゃん坊やのような丸顔をテカらせながら、キリリと言った。


「時は金なりというから、ハリアップにいこう。キミはなぜ、私の指導要綱を守らないのかね?

 私は実戦教育を重んじ、子供たちにはまずゴブリンを殺させよと言っているではないか」


「いくら最弱のモンスターといっても、まだ6歳の子供にゴブリンは早すぎます!

 それに、教師が麻痺させたゴブリンを一方的に惨殺させるだなんて、実戦教育でもなんでもありません!」


「それでいいのだよ! 手段はともかく、6歳でゴブリンを倒したという実績こそが必要なのだ!

 この世はすべて結果! ハリアップなる結果こそが、なによりも重要なのだ!」


「た……たしかに結果も大切ですが、それは大人になってからでもいいですよね?

 子供のうちは試行錯誤をたくさんさせて、失敗を重ねた過程こそを大事にすべきです!

 失敗が許されるのは、子供のうちだけなんですから!」


「ハリアップ! なにを甘いことを言っているのかねキミは。

 過程なんてゴミでしかないものを求めるだなんて、それこそ時という名の金の無駄だ。

 子供のうちから結果を求めずして、立派な大人になどなれるはずもないだろう。

 他人を蹴落とし、手柄を横取りしてでも自分の成果にする子供を育てることが、保護者の方々にも喜ばれるのだよ」


「ほ……保護者の方々を喜ばせるために、子供たちを教えているわけではありません!

 短期的な結果よりも、僕は子供たちの将来のことを考えて……!」


「ハリアップ! 保護者の方々からも、キミのクラスはなんの実績もあげていないと苦情が届いているのだ。

 なんでもいいから、明日までに実績を作るのだ、でないとキミはクビだ」


「ええっ、明日!? そんなムチャな……!」


 この時、外の廊下には1年B組の男子たちがいて、校長室の扉にくっついて聞き耳を立てていた。


「おい、聞いたか今の!? 先生がクビになるってよ!」


「そんなのいやだ! 先生がいなくなっちゃうだなんて!」


「なんとかして僕たちで、先生の手柄になるようなことをしないと……」


「でも明日までって、時間が無さ過ぎるぞ!」


 ヒソヒソ話をする男子たちの前に、3人の女子が現われた。


「はぁ、またあなたたちですか」


「うわぁ、立ち聞きなんて趣味悪ぅ」


「あ、あの……悪いことは、その……」


「あっ、クララとウィンクとピュリア!? また俺たちポメラ団の邪魔しに来たのかよ!? 女のクセに出しゃばりやがって!」


「そうだそうだ! お前は先生がクビになってもいいってのかよ!?」


 ポメラ団の男子たちに責められ、気の弱いピュリアはおろおろしていたが、クララとウィンクは堂々と受けて立つ。


「そうは言っていません。それに手をこまねいているあなたたちと違って、わたしたちにはすでに考えがあります」


「聞きたい? なら特別に教えてあげる! 他のクラスに挑戦状を叩きつけて、剣術大会を開催するんだよ!」


「挑戦状だって!? でもたしかに、それならすぐに実行できそうだな!

 それに勝てば、手っ取り早く先生の手柄にできるぜ!」


「うん! 他のクラスのヤツら、紙で遊んでばっかりだって僕らのことをバカにしてたから、挑戦なら受けてくれるよ!」


「あ、あの……でも、大丈夫でしょうか? わたくしたちは他のクラスの方々と違って、まだ一度も実戦をしたことがないのですが……」


 不安がるピュリアに、クララはメガネを白く光らせながら、ニヤリと笑いかけた。


「ドラゴンを倒したわたしたちが、負けるはずもありません……!」


 マッドはそれから小一時間後、時は金なりと言いながらネチネチと説教を垂れるイソギン校長にようやく解放される。

 はぁ、とため息とともに肩を落としながら渡り廊下を歩いていた。


「実戦は少なくとも中学校に入ってからするべき事だし、それにインチキをしてまで実績を残すだなんて、子供たちのためにならないし……。

 いったい、どうすればいいのかなぁ……」


 どこからともなく「ちぇすとー!」と気合いの入った声が飛びこんでくる。

 窓の外には体育館があって、その中には多くの人だかりでごった返しているのが見えた。


 マッドは何かあったのかと思い、急ぎ足で体育館のほうに向かう。

 するとそこには手作り感満載の看板と対戦表、そして大勢の生徒たちがいた。


 看板には『1年生対抗剣術大会』とあって、周囲は上級生の観客たちでいっぱい。

 試合会場である体育館の真ん中では、今回の主役であろう1年生たちがウォーミングアップをしている。


 「いったい何を……!?」と目を見張るマッド。

 同じように騒ぎを聞きつけたのであろう、その後ろからどやどやと他の先生方もやってくる。

 中にはイソギン校長の姿もあった。


 イソギン校長は体育館を見渡しただけですべてを理解したようで、油のしたたりそうなアゴをつるりと撫でていた。


「ほほう。誰が考えたのかは知りませんが、なかなか面白い試みであるな」


 どう見てもいま駆けつけたばかりのはずなのに、マッド以外の教師陣は我先にと手を挙げる。


「はい、イソギン校長! 私が考えたことです!」


「おい待て、私の発案を横取りするな!

 校長、こうやって他のクラスと切磋琢磨することも重要かと思いまして!」


「なにを言うか、これは私のアイデアだ!

 ほら校長、こうすれば保護者の方々に、私のクラスがいちばん優秀だってアピールできますから!」


「なるほど、優劣をてっとり早く示せるのは、まさに時は金なりのアイデアだな。

 よぉし、これはまたとないチャンスだ。

 誰か、我が『フィロソファーズ・レイヴ』の広報担当を呼ぶのだ。

 このアイデアを私の発案ということにして、ギルドの広報誌に載せれば、さらなる実績になるのは間違いない」


 イソギンは満足そうに頷いたあと、「それに……」と蚊帳の外にいるようなマッドを見た。


「この大会で1年B組が早々と敗退すれば、その担当教師の指導がいかに間違っていたかも証明できる……。

 もう何のためらいもなく大ナタを振りかざし、クビを切れるというものだ」


 そしてマッドの肩をポンと叩く。


「キミの教師生命は明日どころか、今日には断たれしまうことになってしまったな。

 いささか残念ではあるが、時は金なりというから、それも止むなしであろう」


「そ、そんな……!?」


 マッドには言い返すヒマすら与えられず、とうとう剣術大会の幕は切って落とされる。

 大会はクラス全員が入り乱れたバトルロイヤル形式で、試合には真剣ではなく模造刀が使われていた。


 初戦は1年A組と1年B組の対戦となったのだが、1年A組の生徒たちは手柄を焦り、バラバラの個人剣技を繰り出してくる。

 それに対し1年B組は剣技こそないものの、息のあった連携攻撃で迎え撃つ。


 正面で敵の注意を引きつける者、回り込んで側面や背後から斬り掛かる者、疲れたら交代する者、声援で鼓舞する者……。

 その戦法はまさに、紙の大冒険で培ったものであった。


 1年A組の子供たちは次々と倒れていき、結局、1年B組はひとりの脱落者を出すこともなく完全勝利。

 誰もが予想だにしなかった結果に、イソギン校長は「マネーっ!?」とへんな悲鳴をあげていた。

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