8話 冒険者ギルド
そして次の日にファーガスに連れてこられたのがこの国の冒険者ギルドだった。
始めは護衛達がついてこようとしたのだが、父上が却下した。
『まずは己で何とかしてみせよ。それが出来ぬならすっぱりと諦めるのだな。』
そう言った父上に俺は力強く頷いた。俺も遊びでこんなことを考えたわけじゃない。今後の俺の未来が関わってくることなのだ。絶対に一人でやり遂げてみせる!!
「え?もちろん私はついて行きますよ。」
俺が固い決意をしたばかりなのにウィルは事も無げに言った。
「はあ?お前、俺の話聞いていたのか?父上が俺一人でやり遂げろと言ったんだぞ!?」
「はい。それは是非ともおひとりでなされて下さい。しかし、私はアーノルド様の従者です。従者は常に主人に仕える者。それが私の仕事なのです。殿下の身に何かあった場合のみ私は動きますがそれ以外は一切の手出しは致しません。そういうことでよろしいでしょうか、ファーガス様。」
ウィルはギルド入口に立っていたファーガスに尋ねる。
「まあ、俺は構わないぞ。ちなみにお前は冒険者の登録はしているのか?」
「はい、今は【Aランク】です。」
「ほう、やるじゃねえか。こっちも子供のお守りなんてしたことねえからな。はっきり言って助かる。」
「はい、任せてください!」
目を輝かせてコクコクと何度もうなずいてウィルを見ていると、俺をダシにして憧れだと言っていたファーガスを近くで見ていたいだけなのではないかと邪推してしまった。
そんなやり取りがあった後、ギルドへと入った。
ギルドの中は朝早い為かそんなに人はいなかったがいかにも冒険者といった風貌の奴らが入ってきたファーガスを見て驚いている。冒険者達にとってファーガスはかなり有名人なのだろう。
ギルドへ来た理由は冒険者の仮登録をするらしい。その前に適性検査と軽く魔力量を調べられるとの事だった。
ファーガスがギルドの受付に何か話をしたら、すぐにギルドマスターが奥の部屋から飛び出してきた。
「これはファーガス様、よくいらしゃいました。……えっと、そ、それではこちらにどうぞ。」
ギルドマスターは俺を見て明らかに動揺しているようだ。ただ、俺の身分を表立って言わずに奥の部屋へと案内した。
「国王陛下から今朝、書簡が届けられた時は驚きましたが…。アーノルド殿下、冒険者登録をされるというのは本当なのでしょうか?」
「はい、本当です。」
「……しかし、低いランクから始められてもモンスターがいる森へと入るのですよ。最悪、命の危険に晒されることもあります。殿下はまだお若い、もう少し年齢を重ねられてからでも……。」
「それでは遅いのです!貴方が心配するのはわかっていますが決して迷惑になるようなことはしないと約束します。無理を言っているのはわかっていますがお願いします!」
俺はそう言って椅子に座ったまま頭を下げた。
「俺からも頼むわ。まあ王子の面倒は俺がちゃんと見るから。まあ、今はまだ仮の冒険者として、とりあえず適正検査をしてもらえないか。あとは俺がクエストを選んでテストをする。それで合格したら俺のパーティメンバーに加える。で、不合格なら諦めてもらうということで話はついてるんだ。これならお前さんも納得するだろう?」
ファーガスからも助け船が入ったことで、ギルドマスターも動揺しながらも頷いた。
「わ、わかりました!アーノルド殿下、どうか頭をお上げください。では適性検査から始めさせていただきますね。」
「はい!お願いします。」
それからギルドマスターの指示で職員が大きな水晶と石板を持ってきて目の前のテーブルの上に置いた。
「それではまず、適性検査をいたします。この水晶に両手を置いてください。」
「わかった。」
「こっこれは!?」
水晶の中に浮かび上がった文字を見てギルドマスターが驚愕の表情を浮かべた。
「ほう…。魔法剣士ときたか、それに闇属性。いや、他の属性も少しずつあるな。こいつはすげーハイスペックだな。この国の王族はみんなそうなのか?」
ファーガスも水晶の文字を見て少し驚いている。
「たしかに、王族の方々は魔力量が多いと聞いておりましたが、これほどとは。いや、私も驚きました。」
ギルドマスターは判定の結果を書類に書き写した。
「では次に魔力量を測りましょう。この石板の手形に合わせて手を置いてみてください。」
言われたとおりに石板に彫られている手形に合わせて手を置いた。すると石板の上に数字が浮かび上がる。
その数字は【9999】となっていた。
「嘘だろ……。」
「…やはりな。俺の見立ては間違いなかったか。」
その結果にギルドマスターは呆けたように呟いた。ファーガスはある程度、予想はできたいたらしい。
「この測定器がカンストしているのを始めて見ました……。」
俺の近くに控えていたウィルもかなり驚いている。
「だから言ったろ?俺が面倒みるって。」
「しかし……。」
ファーガスとギルドマスターのやり取りが何やら不穏だ。ウィルに視線で尋ねてみるが、曖昧に笑い返された。
「あの、この数値では何か問題があるのですか?」
俺は二人に聞いてみた。
「まあ、そのことについては追々、話すわ。とりあえず、仮の冒険者証の発行を頼む。」
ファーガスは俺の質問に言葉を濁した。そして考え込んでいるギルドマスターに冒険者証の発行を促した。
「…わかりました。ファーガス様が適任でしょう。よろしくお願いします。そして初心者ということでランクは【Fランク】です。」
「まあ妥当だな。」
こうして俺は仮の冒険者証は発行してもらった。ランクによってカードの色が変わるらしい。俺は若葉のような黄緑色のカードだった。ウィルのカードを見せてもらったらゴールドだった。ファーガスは【Sクラス】なので虹色をしているらしい。
「お前の頑張り次第ではすぐに【Aクラス】までは行けそうだがな。まあ、せいぜい頑張れや。」
そう言ってファーガスは俺の頭をガシガシと乱暴に撫でた。