7話 S級冒険者のファーガス
翌日、アーノルドは謁見の間の近くで冒険者のファーガスが出てくるのを待ち構えていた。
暫くすると、扉が開かれ中から図体のでかい、いかにも冒険者といった格好の男が出てきた。歳は20代後半といったところか、燃えるような赤い髪は短く切られて、鋭い瞳は髪と同じような茜色をしている。そして頬には獣の爪で引き裂かれたような傷跡があった。見るからに強者といった風体だ。
アーノルドは思い切ってその冒険者の前へと飛び出した。
「ん?なんだ小僧。」
ファーガスは廊下の角から突然、目の前に飛び出してきた子供に気づいて足を止めた。
「冒険者のファーガス様でお間違いないですか?」
「ああ、俺がファーガスだがお前は誰だ? どこかの貴族の子供か?」
「名乗るのが遅れて申し訳ございません。私はこの国の第二王子のアーノルドと申します。」
王子という言葉にファーガスが一瞬、驚いた表情を浮かべたがすぐにいつもの仏頂面に戻った。
「で、王子様が俺の前に飛び出してきたのは何か訳があるのか?」
「はい! ぜひともお願いしたいことがございます!! お話を聞いては頂けないでしょうか。」
「ほう、依頼という事か。悪いが俺はS級だからその分、報酬も高いぞ。」
「依頼…ですか。まあ、依頼であっているのかなあ…。でも報酬となると……。まあ、とりあえず私の話を聞いてください。」
「ん? ああ、わかった。話を聞こう。」
アーノルドの私室へと案内すると、ウィルがやってきた。
「アーノルド様、どこほっつき歩いていたのですか……って!! そちらにいらっしゃるのは冒険者のファーガス様では!?」
「うん、俺の話を聞いて頂こうとお連れした。何か飲み物を用意してくれないか。」
「は、はい! すぐにご用意いたします!!」
ウィルはそう言うと足早に部屋を出ていった。
「では、こちらにお座りください。」
部屋にある長椅子へと案内した。それぞれ向かい合わせに座る。
「それで話というのは、私をファーガス様のパーティに入れていただきたいのです。」
「はあっ!!?」
アーノルドの突拍子のない話に普段は何事にも動じないファーガスが思わず大声を上げた。
「私は腕に覚えがありますし、最初は雑用係でもかまいません。お願いします!!」
そう言って、アーノルドは勢いよくファーガスに頭を下げた。
「おいおい、ちょっと待て。そう簡単に入れるわけねーだろ。こちとら魔物を相手にしているんだ、命の危険だってあるんだぞ。はい、いいですよってなるわけねーだろ。それとも冒険者を馬鹿にしているのか? ああ!?」
ファーガスは馬鹿にされたと思ったのか怒りをあらわにした。
「いえ!! 決して馬鹿にしてなどおりません、俺の今後の人生がかかっているのです!!」
「人生だと?」
アーノルドの真剣な表情に、からかい目的で言ったのではないと気づいてファーガスは少し落ち着きを取り戻した。
「んー、よくわからんのだが、なぜパーティに入りたいんだ? 何か訳があるんだろう?」
「はい! おれの……あ、いや私の話を聞いてください。」
「ああ、その前に敬語はなしだ。堅苦しい話は苦手だしな。」
「わかり…わかった。俺にはすぐに金が必要なんだ。それもかなりでかい金額だ。」
「はあ? この国はそんなにヤバいのか? 報酬が良いからやって来たんだが。」
「国自体は潤っている方だと思う。そうじゃなくて、個人的に必要だってこと。実は………。」
そこで俺は好きな女の子のために護衛(『影』の存在はトップシークレットなので護衛でごまかした)を付けるためにその護衛の報酬を私財で払うと国王と約束したということを話した。
「好きな女の為にだと……?」
「魔物狩りが危険なのは承知している。それでも彼女を守れるのなら俺はどんなことだってやってやる!!」
暫くの間、互いにここで負けては駄目だとにらみ合いを続けていたが、やがてファーガスが大きく息を吐いた。
「……はあ~、わかった、わかったよ!! とりあえずお前がどれだけできるか力を試させてくれ。それで俺が認めたら入れてやってもいい。だが、この話。お前の親父は知らねーだろ。後でお前に何かあって俺の首が飛ぶのは勘弁なんだわ。まずは国王様の許可を取ってきてくれ。話はそれからだ。」
「はい!今すぐに!!」
そう言うとアーノルドは本当にすぐに部屋を飛び出していった。
十中八九、駄目だろうなと思っていたのだが、半時もしないうちに国王の許可を得て、満面の笑みを浮かべながらアーノルドが部屋に戻って来るとは、この時は夢にも思わないファーガスなのであった。