5話 新しい従者とダイエット大作戦
父上に相談した次の日から僕の周りが一変した。
まず、僕の専属だった侍女や護衛の人たちが全員新しい人に変わった。そして従者兼護衛が1人就くことになった。
「アーノルド王子殿下、ウィル・ナイツと申します。本日より、殿下のお側に仕えさせていただきます。何なりとお申し付けください。」
歳は20代後半くらいだろうか。茶色の髪は短く切られていて、少したれ目の新緑を思わせる瞳で人好きのする笑みを浮かべていた。
「うん、よろしくね。早速だけど、剣術指南をしてくれる先生に会いに行きたいのだけど、今日は会えるかな?」
「そのことですが、しばらくは私の方で殿下の体力作りをサポートさせていただくことになりました。」
「体力作り?」
「殿下、今からとても不敬なことを申しますことを先にお詫びいたします。」
「え、うん……。」
「まず、殿下はご自分の体形をどう思われますか?」
いきなり、気になっていることを言われて心臓がドクンと跳ねた。
「ふ、太っている……。」
「そうですね。剣術の鍛錬はかなりの体力と身体の俊敏さを求められます。まずはもう少し動ける体形にし、体力をつけることから始めましょう。」
「う、うん…。」
ズバズバと痛いことを言われて涙が勝手に流れてきた。
「あ! も、申し訳ございません!! ……その、自分は思ったことをストレートに言ってしまう癖がございして、よく仲間に口が悪いとか言われていて、すみません!!」
ウィルは焦ったように僕の前に屈んで言い訳を始めた。その真剣な様子に本当に悪気があって言ったわけじゃないことが伝わってきた。何よりもウィルが言ったことは全部合っている。
「ウィル。いきなり泣いてごめん、ウィルの言うとおりだよ。僕は痩せたいんだ。協力してくれる?」
「も、もちろんです!!」
それから僕たちは痩せるための計画を立てた。まずは、毎朝のランニングとその後は軽いストレッチをする。栄養バランスのいい食事。食事についてはウィルが料理長に頼んで特別メニューで作ってくれることになった。そして、夕方に体力をつけるために腕立て伏せや腹筋、木刀を持って素振りを繰り返し行った。それ以外の時間は勉強の時間に割り当てた。
最初の頃は、筋肉痛でかなりきつかったけど慣れてくれば体を動かすのが楽しくなっていった。
そうして、1年をかけて少しずつ痩せていき、当初の目標だった体重になった。身長も1年前より高くなった気がする。
最初は誰もが続かないと思っていたらしく、僕が諦めずにやっているのを見て段々と応援してくれる人が増えていった。
「アーノルド、よくここまでがんばりましたね。母はとても感動いたしましたわ。」
久しぶりに母の宮に呼ばれて行ってみると、お褒めの言葉を頂いた。
「いえ、これもウィルや他の者達が協力してくれたおかげです。僕一人ではとてもできませんでした。」
「そうですね。その方々達にも感謝しなければなりませんね。しかし、紛れもなく一番に頑張ったのはアーノルドですよ。そんなあなたに母から贈り物をいたします。受け取りなさい。」
母が差し出したのは手鏡ほどの大きさの絵姿だった。そこに描かれた人物に僕は思わず息をのんだ。
「っ!! 母上これは!?」
「あなたの初恋の方の絵姿です。ただ、これをあなたが持っていることは秘密にしなさい。彼女は婚約者がいる身です。あらぬ疑いをかけられてはいけませんからね。」
「母上、ありがとうございます!! 一生大事にします!!」
「……一生は大事にしなくてもいいわよ……。」
そんな母上の言葉を僕は聞いていなかった。
部屋に戻ってじっくりと絵姿を見る。実物の方が何倍も可愛いがあの日のように笑っている彼女が描かれていた。
このまま何時間でも見ていられる……。
でも
「もう少し、大きい方がよかったな……。」