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4話 婚約の裏では(side:国王)




国のトップである国王の執務室は、机と椅子に本棚、あとは会談用に設けられたテーブルとソファしか置かれていない、随分と質素な部屋だった。仕事をするのに華美な装飾はいらないとライオネルが国王になったときにすべて排除した。


机の上は処理する書類が山のように積みあがっている。その机に向かって淡々と書類を捌いていると部屋をノックする音がした。



「陛下、失礼します。」


入室を許可すると入ってきたのは、国王の右腕ともいえる宰相だった。


「何かあったか?」


「はい、先日の陛下が申しけられました調査が終わりましたので、ご報告に参りました。」


「……ほう。で、何か分かった?」


「まずは今回のレーナ・オルコットとイーサン・ロドリゲスの婚約ですが、かなり急に決まったようです。そして、婚約の申し出はロドリゲス侯爵から強く希望されたようです。」


「ふむ。オルコットは愛妻家で子煩悩と聞く、よく了承したな。」


アーノルドが一目惚れしたという令嬢を探し、すぐに見つけたが数日間にすでに婚約がなされていた。普通なら運が悪かったと思うが、ライオネルはあまりにもタイミングが良すぎる事が気になり調べさせていた。


「それが、今回の婚約を強く後押しをした者がおります。」


「誰だ?」


「……グリード大臣です。」


「なにっ!? グリードだと?」


思わぬ人物の名に動揺を隠しきれなかった。


グリードは、国の財務を担当する大臣でその役職は代々受け継がれ、前グリード大臣は忠臣でライオネルの父も厚い信頼を得ていたのだが、現グリード大臣は何かと黒い噂の絶えない男である。


ライオネルも影を使って捜査させているが、かなり狡猾でそのしっぽさえも掴むことはできない。

表では慈善者の振りをして孤児院に多額の寄付金や教会では敬虔な信奉者として有名であり、民からの信頼を得ている。下手に突くとこちらが非難を浴びることになりかねないので、現状は悟られないように目を光らせているしかできなかった。


ここにきて、奴の名が出るとは……。何が狙いなのか。


一番考えられるのは、アーノルドとレーナ嬢との婚約を阻止したかったということか。

自分の娘をアーノルドに嫁がせて王族との外戚を結び、あわよくば…… といったところか。


しかし………。


「奴に娘はいなかったはずだが?」


「はい、私もその思ったのですが調べてみますと愛人を数人抱えており、愛人との子に娘が2人いるようです。その内の1人が7歳になるとのこと。」


「まったく元気なことだな。……つまり奴の娘をアーノルドの婚約者にするために、アーノルドがレーナ嬢を探していることをどこかで聞きつけて、早急にレーナ嬢をロドリゲスの息子と婚約させたのだな。」


「ロドリゲス侯爵は、グリード大臣の腰巾着。グリード大臣の命令には逆らえませんでしょう。そして、オルコット侯爵もロドリゲス侯爵の申し出は断れても、グリード大臣が出てきては断ることはできなかったではないでしょうか。」


「ふむ…… 面倒なことになりそうだな。」


「陛下。私からご報告がございます。」


突然、天井のほうから男の声がした。


「影か、いいぞ。」


シュッと風を切るような音と共に宰相の隣に黒ずくめの男が立った。


「まず、アーノルド殿下の周りにいる教師や侍女、護衛に至るまで念入りに調べましたら、奴らはすべてグリードの息がかかっている者達でした。」


「なんだとっ!?」


影の報告にライオネルは信じられないといった様子で目を見開いた。


「はい、私も驚きました。奴は巧妙に何重にも人を介してその痕跡を隠していましたが、どれも行きつく先には奴の名がありました。」


「なんということだ。王宮まで奴の手がかかっていたとは……。」




恐らく、アーノルドを傀儡にしてバーナードと王の座を巡り争わせる気なのかもしれない。

兄弟を争わせるなど、国の乱れの元だ。そんなことは絶対にあってはならない。


これからどうするべきか苦慮していると、執務室の扉を小さく叩く音がした。宰相に開けさせると、アーノルドが立っていた。


「父上、ご相談があります。お時間はよろしいですか?」


「いいぞ、申してみよ。」


アーノルドから話を聞くと教師陣の教え方に不満があるらしい。これは都合がいいな。


「では、兄のバーナードと同じ教師に教わるがいいだろう。しかし、かなり厳しい方々だが覚悟はできているな?」


「もちろんです! 今までの分も取り戻したいのでその方がヤル気が出ます!!」


「うむ! よく言った。さすがは私の子供だ。ではそのように手配させよう。」


アーノルドは、父親に礼を言うと部屋を出ていった。


「……驚きました。今までのアーノルド殿下とは別人のようですね。」


「ははっ、好きな女ができると男は変わるものだ。」


「やれやれ、血は争えませんね。」


訳知り顔で宰相がライオネルを見た。

ライオネルは、そんな宰相に苦笑いで返すのだった。





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