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討伐2

「武器は持ってない、んだな」

「一応使えますけど、ここで出すような剣じゃなくて」


 つまり、結構いい剣しかないんだよね。

 王女の、装飾過多な、飾り物のような剣。実用性はあるけれど、重くて相当目立つ。


 今度、武器屋で買おうかなあ。そんな内心の声が聞こえたかどうか、バルノルジは遠目を見るように、目を細めてとりあえず頷いた。

 どんな意味で言ったかは、詳しく聞かないようだ。


「とにかく、無茶はしてくれるなよ」

「はあい」

 無茶はしないが、ちょっとお試しをしてみたい。

 うきうきしながら、フィリィは前に魔術書で学んだ魔法陣を思い浮かべる。さっとやって、ぱっと出さなければ間に合わないので、頭の中で思い描くのだ。


 草茂る森を歩く中、水が腐ったような匂いがしてきた。沼地が近いようだ。足元がぬかるんでくるので、水を弾くブーツは購入済みである。チュニックも短いものにしているので、そこまで汚れないだろう。

 ルンルン歩いていると、一人の男が片手を横にかざした。

 気配は感じるが、誰がやるのかなあ。と様子を見る。


 かさかさと音を立てて歩いているのは、スパルダだ。姿が見えた瞬間、先ほどフィリィに声を掛けて来た男が、さっと弓を射た。

 長い首にぶすりと刺さると、ふらついたスパルダは鳴くこともできずに、ばたりと地面に倒れ込んだ。


「さすがだな」

 他の男たちが、弓使いの男を口笛で囃し立てる。魔獣は倒すと他の魔獣が寄って来てしまうので、匂いを消すための特殊な液体をかける。他の男が液体を垂らしていた。それを行いながら進むのだ。


 魔導士がいれば、魔獣だけ燃やしてしまうのが一番いい。だが、民間の狩人たちには、香り消しの方が安く済んだ。魔導士は魔導を持つ者の中でも力が強いため、雇うと、高額のお金が掛かるのだ。


 しばらく歩くと、スパルダが何羽か続けて出た。バルノルジは剣を一振りして、スパルダの頭を飛ばしてしまう。ロジェーニが目を掛けるだけあって、さすがに強い。他の狩人も慣れているが、強さの質が違う。


「ダキが逃げた!」

 スパルダを追っていた男が、森の奥で声を上げた。死肉を食らっていたダキがいたのか、草木を踏みながら走り去る音が聞こえたと同時、キイイイッと高音の鳴き声が森に響いた。


「まずいな。フィリィ、俺から離れるな。広い場所へ移動する」

 バルノルジは言うと走り出した。他の者たちも走り出す。その足音を追うように、ダキが数匹現れた。

「くそ。早い!」


 近くに仲間がいたのか、ダキが群れをなして戻るのが早かった。細い足で二足歩行しているのに、頭をこちらに向けて突っ込んでくる。

 弓使いが先頭のダキを射ると、他の男がそのダキを薙ぎ倒す。どこから現れたのか、草陰からダキが走りこんでき、男たちに襲いかかってきた。


「フィリィ、下がってろ!」

 バルノルジは大剣を振り回し、ダキを斬りつけるのではなく、殴り倒す。飛ばされたダキが他のダキにぶつかり、木へと叩きつけられた。


 すごいなあ。と言う感想を持ちつつも、ダキが何匹も現れるのを目端に捉える。確かにこの数は異常だろう。集まっても数匹だろうに、今既にダキは二十匹くらいいる。それが次々に突っ込んでくるのだから、対処も遅れてくる。


「フィリィ!」

 少し離れたバルノルジが、フィリィに向かって叫んだ。後ろから、頭を開いて食いつかんとするダキが突撃してくる。


 その瞬間、ゴン、とダキが透明な何かにぶつかった。勢いよく食いつこうとしていた頭は裂けるように開いていたのに、あまりに勢いよくぶつかったせいで、へにょり、と口を閉じて後方へふらつく。

 それが完全に倒れる前に、ダキの前に描かれた魔法陣は、吹き出すような水をダキへと飛ばした。水は絡むようにダキに包まり、水球から出られなくなったダキは、息苦しさに水球の中で溺れた。


「バルノルジさん、ちょっと大きな魔法陣使ってやっつけていいですか?」

「へ!?」

 戦いながらも、フィリィの前で起こるおかしな現象に目を張りながら、バルノルジは頷いた。好きにしろと言って。


「じゃあ、遠慮なく」

 先ほど描いた魔法陣をいくつも作り、空へと放つ。指を上から下へと線を引くように下ろすと、描いていた魔法陣から、大量の水がダキへと向かった。


「うわっ!?」

「何だっ!?」


 男たちが驚愕する中、水はダキを包んでいく。全てのダキが包まれると、水球が森にいくつもできた。割れるように弾けると、水球の中で溺れたダキが、溢れるように転がった。


「まじかよ……」

「おいおい、勘弁してくれ……」


 男たちは呆然として、転がっているダキを見回す。明らかに眉を顰めて頰をひくつかせる男たちを見て、フィリィはバルノルジの背に近付く。やり過ぎたようだ。

 バルノルジも呆気にとられていた。ぽかんとして転がるダキを目にし、後ろに隠れたフィリィを目にする。


「やり過ぎました?」

「お前が只者じゃないってことは分かってても、分かっていなかった」


 大きな嘆息に嫌悪感はない。やれやれと言って頭を掻くと、うちの魔導士が優秀過ぎたな。と男たちに声を掛けた。


「優秀って話で済むのか!? いくらで雇ったんだ??」

「魔導士ってここまでのものなのか!? 初めて見たぞ!?」


 口々に言われて、フィリィはついバルノルジの背に隠れる。実のところ、討伐に出る魔導士の力の水準を知らない。強力な魔導士が近くにいるので、あの水準で考えると、この程度の魔法陣はそこまでではなかった。これをいかに早く行えるかが勝負なのだ。むしろ、少し遅かったように思える。


「彼女は雇ったんじゃない。手伝いだ」

「手伝い!? タダでやる力じゃないぞ!?」

 バルノルジの返答に、男たちが反論する。やはり、やり過ぎたようである。


「習ったばかりの魔法陣使っただけなので、どれくらいのものか分からなかっただけです。見習いなもので」

「見習いかよ。いや、そんなに強いの使ったら、倒れるんじゃないのか?? 魔導士ってのは、魔導を使いすぎると、気を失うことだってあるんだろう?」

「今の所、平気です」

「すごいな、嬢ちゃん」


 男たちは見習いに納得したのか、殺気立った顔をやめた。余程非常識な力だったのか、恐怖を覚えたらしい。

 あとでバルノルジが教えてくれたが、民間の狩人が一緒に行動する魔導士の力などたかが知れているので、防御を手伝うくらいでほとんど戦わないらしい。後方で援助するのが常だそうだ。知らなかった。


 王騎士団に同行する魔導士なんて、戦いたくてウズウズしている者たちばかりである。あれらと一緒にはできないようだ。

 魔導鍛錬所なんて、ぼこんばこん音してるもんね。燃えたり凍ったり忙しい。


 防御壁を作っている魔導士たちが、よくぼやいているのを聞くくらいだ。広いんだから、端で魔法陣使うな。らしい。しかし、端っこに追いやって魔法陣を使うのは、基本中の基本である。防御壁へ挟み撃ちなどもやるので、防御壁を保つ役目の日は憂鬱だそうだ。


「しかし、聞くより多いな。これが村に流れたら大変なことになるぞ」

 時間のある限り、できるだけ討伐をしないとならない。バルノルジが鼻の上にしわを寄せて言う。


『戻った方がよさそうよ』

 突然、エレディナが脳内で囁いた。


「あ、バルノルジさん、あと一回だけ、それで帰ります」

「は?」

 フィリィは魔法陣を描く、これは少し描くのに時間が掛かるが、ほんの少しの間だ。

 自分の身長より大きな魔法陣を描いて、フィリィは魔法陣に魔導を流し、空へと浮かばせる。


「おいおい、今度は何やるつもりだ」

「こんなでかい魔法陣、初めて見た」


 男たちが見上げた時、フィリィは力を込めた。

 閃光が発せられると、火の槍が四方に降り注ぐ。男たちが驚愕する束の間、地面に突き刺さった炎の矢の先で、魔獣が悲鳴を上げて横倒しになった。


 連打された炎の矢は広がって、発射する発火音を残し、一気に飛び散る。

 ぶわああっ、とい音が森に木霊した。近くにいた鳥たちが羽ばたき、悲鳴のような鳴き声が遠ざかっていく。


「な、何をしたんだ」

「すみません、急用ができたから帰ります。大抵は倒したと思いますけど、避けられてるかもしれません。この後も気を付けて狩りを続けてください。バルノルジさん、また行きますね」

「え、あ、ちょ、待てフィリィ」

「すみません。結構、急用!」


 フィリィは駆け出した。木の陰に隠れた時エレディナが姿を現し、フィリィの手を取る。


「レミアが部屋の外で扉を叩いているわ」


 その言葉に、フィリィはあの男が部屋にいないことを祈った。

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