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提案2

 ルヴィアーレがおかしなことを言った。

 コニアサスが婚姻で、某系を連れてくる?


「理解が及んでいないようだから、グングナルドに戻って、ガルネーゼたちと相談してくれ」

 なぜ理解できていないとわかるのか。実際わかっていないが。


「婚姻、しちゃ、ダメじゃない?」

「そうか?」

「あ、側室を持つっていう」


 それなら納得だ。王が第二夫人を持とうと、なんの問題もない。王宮に王の妻と第二夫人がいちどきにいたことを経験していないため、どのような問題が起きるかは想像でしかないが、フィルリーネからすれば、コニアサスがしっかり一人で立てるまで、影響を与えられる立場にいたいだけのこと。その後は引退して、のんびりゆっくりしたい。

 そのため、職人に関われれば、立場などはそこまで問題ではない。

 今までのように引き籠もって、物が作れる。が、


「ラータニアで引き籠もるわけには」


 その場合、フィルリーネはとても邪魔ではないだろうか。ルヴィアーレに愛する人ができても、第二夫人であり、その立場は覆らない。フィルリーネの身分では第二夫人にはなれないからだ。

 その第二夫人は、フィルリーネの席には座れない。その時、ルヴィアーレはひどく後悔するだろう。


「うん?」

 今、なにか、すごく胃が気持ち悪くなった。さすっていると、ルヴィアーレが目をすがめて、何かを我慢するかのように、眉を顰めている。


「うん?」

「なにを考えた。私は、某系を連れていくればいいと言ったのだが?」

「え、ああ。うん? 第二夫人がいるでしょう?」

「フィルリーネ、君はこういったことになると、妄想が激しいな」


 ルヴィアーレは、前もそうだった。と呟きながら、ものすごい大きな溜め息を吐いた。

 久し振りに見た気がする。呆れの溜め息。昨今稀に見ぬ、大きな溜め息だ。正体がばれた辺りではよく見た溜め息である。それ以上の溜め息を吐いてから、ルヴィアーレは額を押さえて、顔を隠すかのように横に首を向けた。何か気に食わなかったようだ。

 妄想ではなく、その可能性を考えただけなのだが。


「まあいい。それについてはまた話そう。シエラフィアの一周忌にまたこちらに来るだろう。それまでに、話はまとめておく」

 そうですか。納得する前に、エレディナとヨシュアが天蓋の窓から戻ってきた。どこまで追いかけっこをしていたのか。


 無理にフィリィを連れてきてしまったので、そこまで時間は取れないと、ルヴィアーレとはその場で離れた。ヨシュアはついてきたが、エレディナはルヴィアーレの側で偉そうに腕を組んで見ているだけ。エレディナも相変わらずだ。






「フィリィ、大丈夫だった!?」

「何かの間違いだったみたいで」


 聖堂に戻れば、デリが急いで駆け寄ってきた。もう説明なども終えて、フィリィがいつ帰ってくるのか、ずっと待っていたようだ。


「大変だったんじゃないの!? 顔赤いよ!? なんで額押さえてるのよ。熱でもあるの!?」

「へ? いえ、大丈夫ですよ?」


 額に当てていた手を払い、服に擦り付ける。別に何もないと首を振ってから、アシュタルが眉を顰めたままずっと我慢していたような顔を見て、フィリィは背筋を伸ばす。


「なんでもなかったです。こちらはどうでしたか?」

「また来ることになったの。作るものとか、共同で行う計画よ!」

 その話は帰り際に教えてもらうことにして、帰路に着くことにした。もう時間も遅かったからだ。


「ねえ、本当に大丈夫? また額押さえて」

「だ、いじょうぶです!」

 いつの間にか額を押さえていたらしい。すぐにその手を拭う。馬車に乗り込んで、何事もなかったかのように、背筋を伸ばして乗っていれば、アシュタルが隣で、じっとりに睨んできた。その目はやめてほしい。

 あの顔は、あとでしっかり教えろという顔である。


「あつ……」

「やはり、熱があるのでは? こちらに来てから、やけに顔が赤いですよ」

「大丈夫。大丈夫なのよ」


 笑ってごまかして、アシュタルのじっとりした視線を見ぬふりをして、精霊に別れを告げる。

 また、訪れるからと。

 シエラフィアの一周忌はすぐだ。ルヴィアーレは浮島に来てほしいと言っていた。


 帰り際、ルヴィアーレは、前のように額に口付けてきた。

 国を跨ぐため、遠く離れるような気持ちになっているのではないだろうか。

 今生の別れでもないのに。

 それを思い出すと、どこかくすぐったいような気持ちになる。それでつい、額を押さえてしまうのだ。


「そうだ、フィリィ。これ、いただいたものよ。フィリィは気になってるでしょ」

「精霊についての教科書ですか?」

「王の命令で作られたものらしいぞ。精霊について、国民は学ぶべきだとか。ドナーロさんが説明をくれた」


 ドナーロが言うには、前から精霊は身近だったが、精霊のおかげで、どれだけ助けられているのか。今まで以上に知るべきだと、国民へルヴィアーレからお達しがあったそうだ。

 教科書は子供用だ。精霊の色や役目などが書いてあるが、絵などはない。説明書のような単調さで読みにくいが、しっかり読み込めば、わかりやすい。ルヴィアーレらしい作りだ。


 この手の絵本を考えていたので、ありがたい。ラータニアの精霊も網羅したい。

 ぺらぺらめくっているだけで、作りたい物が溢れてくる。


「やる気が湧き出ているな」

「やっぱり、フィリィはそういう顔が似合うわ」

「絵本でしょ。それは絶対作って、そうだ、精霊のぬいぐるみ作ろう! 精霊の色を使って」

「構想がダダ漏れなのよ! それはグングナルドに戻ってから口にして!」


 口に出していたか。とりあえず頷いて、構想を練る。

 それを考えているだけで幸せだ。額のことはすぐに忘れてしまったが、城に戻って思い出したのは、後の話だ。






「それで、何て答えたんだ」

 帰るなり、ガルネーゼとイムレスが人の執務室を陣取っていた。


「なんで知ってんのよ。いや、何を知ってるのよ」

「再婚約の打診についてだ。お前が出発する前に連絡が来ていた」

「どういうこと!? なんで教えてくれないのよ! おかしいでしょう!?」

「用意周到な男なんだよ」

「なにそれ。帰ったら相談しろとは言われたけれど」

「はー。わかっていないのか」

「そうみたいだねえ」


 ガルネーゼは大きく息をつき、イムレスがお茶をすすって、すでに知っていたとでも言わんばかりの顔をする。

「わかっていないのならそれでいい。話としては、良いと思う。キグリアヌンが出てくるのならば、ラータニア王の方が良いだろう。ただ、すぐには困るから、婚姻となっても、とう、っぶん、先だな」

 ガルネーゼが何故かふんぞり返った。隣でイムレスが大人気ないと、再びお茶をすする。


「婚姻……」

「そのつもりだと聞いている。聞かなかったのか?」

「聞いていても、よくわかっていない顔だねえ」

「後継者は某系でもいいって言うんですけど、やっぱり、女王の子供ということがあって、子供作りたくないんでしょうか」

「お前、それ、ラータニア王の前で言ったか?」

「言ってないわよ。さすがに」

「さすがにな」

「さすがにねえ。けれど、ラータニア王が君の反応を見て、頭を抱えたことは想像できたよ」


 ガルネーゼとイムレスが横目で見合わせて、お互い肩をすくめる。感じが悪いのだが。


「そこまで考えて、君を妃に迎えたいと言っているんだよ。コニアサス王子のこともあるから、婚姻してもかなり後になることも承知して提案してくれている。ラータニアにとっては問題だろうけれど、それでもと言っているんだ」

「そうなんです。だから、聞かなかったけど、やっぱり事情を知っている人の方がいいのかなって」


 貴族令嬢たちを迎えて、子供を作りたくないとは言えない。ルヴィアーレにとって、フィルリーネとの婚姻に利益があるのは、理解があるということだけだ。


「お前の無神経は今に始まったことじゃないが、それを言わなかったことは評価する」

「なんでよ! 無神経って、何よ!」

「お前はいつでも無神経だ!」


「まあまあ、二人とも。君は、少し冷静になって考えるといいよ。猶予は貰えたのだろうけれど、キグリアヌンのこともあるから、早めに答えを出すようにね。グングナルドの家臣としては、ルヴィアーレ王に嫁ぐは、良いと思うよ」

「ふん。マリオンネの奴らがなんと言うか知らんがな」

「マリオンネ? 何か言われるかなあ」


 そういえば、ラクレインはルヴィアーレとの婚約破棄を、やたら喜んでいたのを思い出す。

 女王の血を引いていながら、マリオンネに来ることがなかったのを、恨んでいるのだろうか。


「君は色々おかしなことを考えすぎるだろうから、マリオンネで話を聞いてみた方がいいかもしれないよ」

「色々ってなんですか……」

「今考えているようなことだよ」

「間違いなく、関係ないことを考えていただろう」

「そんなことないよ。失礼な!」


 二人とも失礼ではなかろうか。こちらは真剣に考えているのだ。

 ルヴィアーレの申し入れはありがたいが、ルヴィアーレの利益を考えると。


「うーん」


 頭がぐるぐるしてくる。

 ただそれだけなのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうね。 ルヴィアーレ、額に印を付けたげて。 口付けとともに、ルヴィアーレの名前をデザインした印。 暗闇に行ったら、浮かび上がるとか(笑) フィルリーネには見えない……とか… ふふっ、妄想が…
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