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女王制度3

 魔法陣を前にして、フィルリーネはじっとその魔法陣を見つめた。

 これも転移魔法陣だ。けれど、普通の転移魔法陣に比べて複雑で、いくつもの要素が盛り込まれているのに気付く。


 女王の印を持つ者、精霊の血が入っている者、魔導量が多い者。入れる者の選別がなされている。一つでもクリアーできれば、入れるといったところか。


「女王しか入れないって言ってたけど、救済措置があるのかな」


 マリオンネの女王が絶対に急死しないとは言い切れない。だから女王の印がなくとも、魔導量があれば通れるようになっている。例えば女王の子がまだ幼くて、印は得られないが、精霊の血を得ていれば問題ない。その子供がまだ赤ん坊で、なにもできないような状態であれば、魔導量が高い者が行える。

 それを考慮しているのだろうか。


 本来ならば、女王しか入れない。けれど、もしもの時に入れるようにしてある。

 アンリカーダは、この場所でシエラフィアとジルミーユをラータニアの王族から外した。精霊の血を持ち、魔導量も多いため、印がなくても認識してくれたのだ。

 そうなると、ここにはルヴィアーレも入れるはずだ。


 ルヴィアーレが一番、マリオンネの女王を継げる立場。だが、あの顔色を見る限り、二つ返事などしないだろう。もし、シエラフィアに何かあったら、ラータニア王となれるのはルヴィアーレしかいない。

 考えたくないが、その雰囲気がルヴィアーレから感じた。


「早く終わらせて、ルヴィアーレをラータニアに帰してあげないと」

 王と王妃がラータニアの王族に戻れたからと、安心して良いと、伝えられるように。

 王族に戻れば精霊たちが力を貸してくれる。精霊の魔導を得られるのだから、少しは違うだろうか。気持ちだけでも楽になるといいのだが。


 フィルリーネはそっと、その魔法陣に触れた。すると、一瞬で大量の魔導が奪われた。体が重くなったように感じるほどで、膝から崩れ落ちそうになるのをグッと堪える。

 その魔導で色をつけたかのように、色のない魔法陣が金色に変化する。淡い光。魔導を得て発動するのだ。魔法陣なのだから当然か。気付かなかったが、先ほど扉を開けた時も魔力を奪われていたのかもしれない。

 そこを抜けると、不思議な空間が広がっていた。


「うわ、すごいわ。たくさんの色の魔鉱石ね」

 結界の先はさらに別空間で、洞窟のような場所だった。

 冬の館にある、芽吹きの儀式を行う洞窟のようで、丸みを帯びた天井をしている。中心に台があり、壁には魔鉱石がいくつもはまっている。それらは、同じ色でまとめられていた。


「これ、色で国が分けられてる?」

 どれだけ王族がいるのか、一目で分かる。

 グングナルドから遠い国に位置する王族などは、女王が亡くなった時に挨拶をしたくらい。王と王妃の顔はその時に覚えるしかなかった。挨拶をしなければ、誰が誰かも分からない。


 大国グングナルドとキグリアヌンは、他国をまとめる役目がある。前王もその立場を使いオルデバルトと繋がったのだから、他国と繋がりを持つための何かはしていたのだろう。他国に援助などはしていないと思うが、前王は王族関係の葬式などには出席していた。


 まあ、大国としての役目なんて、機能してないよね。

 マリオンネから、支援してね。と連絡がない限り動かない。とはいえ、大国の精霊の数が土地の大きさに比例していないので、何を援助するというのかというところだが。


 女王は、これら王族全員を把握するのだろうか。

 ムスタファ・ブレインに国の担当が割り当てられているため、彼らに任せているのだろうか。現在グングナルドの担当が誰なのかは知らない。ちなみに前はベリエルである。


「さて、これからどうすればいいのかしら?」

 人型の精霊が現れるかと思えば、姿が見えない。


 婚約の儀式は別の場所に転移された。そこには当人たちしか入れない。

 ここも同じで、この密閉された空間に、ムスタファ・ブレインは入ってこない。魔導量があれば入れるはずだが。

 それとも、試したことがないのだろうか。精霊の命を持っているか、女王の印を持っていなければならないと思い込んでいるのだろうか。


「魔導量だけなら、なんでもできちゃう気がするんだけれど」

『女王の印がある者が現れれば、その者しか入れません』

「うわっ!?」


 誰もいなかったのに、いきなり背後に精霊が現れた。

 人型の精霊。こちらも女性だ。まとっているのは飾り気のない白の布で、肩と腕を出している。布は長いスカートのようになっており、それがふわふわ浮いていた。エレディナと同じで足元が薄い。

 栗色の真っ直ぐな長い髪。褐色の肌。土の精霊みたいだ。領土関係だから、土系なのだろうか。


『モネークと申します。新女王』

 印があるから、女王呼ばわりか。

 しかし、納得した。やはり、女王の印がない時の救済措置のために、女王の印がなくとも入れるようになっているのだ

 それをラクレインやムスタファ・ブレインは知っているということか。ならば、フィルリーネの女王の印を消してしまえば良いのではないか?


『許可を得られない者が行うには荷が勝ちすぎています。印のない者は相当の魔導量が必要になるでしょう』

 心の声、聞かれてた!


 口には出していないのに、モネークがフィルリーネの心の中の質問に答えてくれる。

 これは、女王の印を持てばば、考えていることが筒抜けなのでは? エレディナやヨシュアのように、精霊たちと契約したことになるのではなかろうか。


 精霊は誰とでも契約するため、彼らの中の優先順位にもよるが、契約した精霊には否応なく考えが筒抜けだ。

 マリオンネの精霊たちは、女王の印で契約したのも同然なのだ。

 女王がいない弊害は計り知れない。 


『血のついた布と魔鉱石を、一つにしてください』

「一つ? 魔鉱石に巻き付ければいいかな?」

 モネークがうなずく。


 ハンカチで魔鉱石を包む。そして、それを手のひらに乗せ、女王の印を合わせながら魔導を流す。

 モネークがその手に触れた。瞬間、一気に魔導が吸われた。その魔導によって手の中にあった魔鉱石が形作られる。丸いつるんとした魔鉱石になったのだ。色は薄いピンク色になり、艶やかさがあった。そして、包んでいたハンカチから血痕が消えていた。


『国はどちらですか?』

「ラータニアよ」

『では、こちらにその魔鉱石をはめてください』


 促されたのは、若葉のような色をした魔鉱石が三つまとまっている壁だ。壁も魔鉱石だろう。芽吹きの儀式の洞窟と同じような、緑と青が混じったような色をしている。少し違うのは、その魔鉱石が波打っているところだった。


「はめるってどうやってはめるの?」

 思いつつ、ハンカチから取り出した丸い魔鉱石を壁の魔鉱石に近付けると、その色の場所にはめることができた。勝手に吸い込まれて壁に潜ると、浮かび上がった時には若葉色に変わっていたのだ。

 だが、他の魔鉱石に比べて壁から浮いている。色も若干薄く、他の魔鉱石と同じ色になっていない。


「色、変ね。失敗しちゃった?」

『触れてください』


 言われたまま、フィルリーネがその浮いた魔鉱石に手を乗せると、再び魔導が奪われた。

 芽吹きの儀式の時と同じ感覚だ。吸われる量が多い。あの時のように手を離す真似はせず、魔鉱石を押し付けていると、魔導の吸い込みがなくなった。


「結構、取られるわね」

『王族と認定するには、精霊たちに知らせなければなりませんから』


 なるほどと納得したいが、それって、数によって変わらないの? ラータニアなんてたくさん精霊いるんだから、その分たくさん取られちゃうってこと?


 手を離した魔鉱石は再び沈むと、他の魔鉱石と同じ高さにはまり、同じ若葉色へと変化した。

『これで、この魔鉱石の者が王族と認められました』

 フィルリーネはもう一つの魔鉱石も登録する。二回行っただけで、少々疲労を感じた。


 魔導、めちゃくちゃ取られました。

「それにしても、この壁面白いねえ。液体みたい」


 芽吹きの洞窟と違い、壁が硬くない。触れると波打つが、中に入ることはできない。魔導が液体になったような、魔鉱石は沈むが、フィルリーネが手を触れてもその液体の中には沈まない。指が沈む程度だ。魔鉱石は水の中に入れたかのように、深く沈んだのに。


 不思議な魔鉱石。

 若葉色に光る魔鉱石を見つめて、フィルリーネはふと考える。


「王族の登録の抹消って、どうやって行うの?」

『そのまま取れば良いのです』


 誰が誰か分かるのか? そう思ったが、触れると魔鉱石に、いびつな形だが精霊文字が浮かぶ。名前である。どういう仕組みになってるの、これ??

 だが、同じような魔鉱石でも、しっかり識別されているのだ。


 アンリカーダは、これには触れられたのか。

『魔鉱石を形作ることは、女王にしか行えません。どれだけ魔導量が多くとも、耐えきれずに失神するでしょう。抹消に関しては、精霊の血か、多くの魔導量を持っていれば、簡単に外せます。取れれば魔鉱石は砕け、登録の抹消となります』


 女王の印がない場合、その都度、大変な魔導量を奪われることになる。フィルリーネが感じた量よりもさらに多くなるならば、確かに女王の印は必要だ。

 それにしても、ハンカチについた血で登録できるのならば、不正ができるのではなかろうか? 邪な考えを持つわけではないが、これを知っていれば前王ならば誰でも連れてきそうな気がする。


『本来は、本人を連れてきます。そこで血を採り、女王だけが登録を行います』

 王族は婚姻がマリオンネで行われるので、その際行うのだろう。子供ができれば、マリオンネに連れてくる。ルヴィアーレはハンカチを使って登録をした。

 だとしても、申告制だ。その時にチェック機能はないのだろうか。


 今行った登録も、本当にシエラフィアとジルミーユのものか分からない。魔鉱石を見れば名が写るので、間違いないと分かるが、王が王族でもない者を登録しても気付かないだろう。名前しか分からないのだから。


『女王は特別な方であり、ここはマリオンネです』

「マリオンネが神聖な場所だから、そんなことしないって前提ってこと? 性善説崩壊したら、終了のような」

 いや、これはおそらく見せるものではないから、そんな考えを持たないのか。

 行って気付かれたら、その国終わりだもんね。


 女王を欺いたらどうなるかなど、聞かされたことはないが、女王を怒らせれば精霊に直結する。それこそ食べ物はなくなり、魔鉱石が増えることはなくなるだろう。

 恩恵がなくなるということは、そういうこと。ご飯がなくなってしまう。精霊がいなくなれば。魔獣が増える。


 モネークは行うことは終わりだと、姿を消した。これで登録は完了である。


「また、ここに来ることになるんだろうな」

 精霊の王からマリオンネの女王にその役目が受け継がれた際、その時は精霊の王と繋がっていたため、多くのことが決められて稼働していた。


 それがずっと受け継がれてきた今、新しいルールを作れる女王はいない。

 儀式的で言われたまま、なすがまま。


 女王とは、ただ魔導を渡すだけの存在でしかないのかもしれない。

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