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動き3

「マグダリア領からサマレンテ領へ兵の侵入が報告された」


 怒りを滲ませたガルネーゼの言葉に、皆が神妙な顔をする。

 報告ではマグダリア領とサマレンテ領を結ぶ道へ兵が進軍し、サマレンテ領への砲撃が行われたということだ。


「冬の館に大きな攻撃があったわけじゃないが、マグダリア領の兵がサマレンテ領へ攻撃をしたのは確かだ。マグダリア領主ルカンタラの声明によると、サマレンテ領主に重大な過失があり、それに対する対抗措置であって、他領には関係のない領同士の問題だと言っている」

 領地戦を行う相当の理由があり、領同士の問題のため、王族は関わるなとわざわざ声明を出してきた。


「重大な過失についての詳細はあるのかい?」

「度重なる領地への侵入行為と、違法な魔獣の移動についてだそうだ!」

 イムレスの質問にガルネーゼが鼻息荒く言った。どこかで聞いた話だと皆が思っただろう。


「前王が行っていたことを、今更サマレンテ領の行為だと糾弾するつもりかな?」

「下らん! 協力者だったマグダリア領が何を言っている!」


 机に拳を振り上げて怒りを露わにするガルネーゼの横で、フィルリーネはイムレスの出してきた資料を見遣った。

 魔導院で見付かった魔獣の実験リストだ。ニーガラッツは前王に繋がりの深い領で捕らえた魔獣を実験に使用していた。

 特にサマレンテ領やマグダリア領で取れた魔獣が多い。

 王都やカサダリア領の魔獣などもリストに入っているので一概に前王の麾下にある領とは言えないが、前王の繋がりを考えれば協力していた領土になる。


 確かに、前サマレンテ領主オマノウラは前王の言いなりだったのだから、サマレンテ領からマグダリア領へ魔獣が移動されていても納得の話だ。

 しかしそれについて、領土を侵入してきたやら、魔獣を移動させていたやら、言い掛かりをつけてくるのだから図々しいにも程がある。


「今更とは言うけれども、理由にはなるね。すでに起きたことへの対抗措置にはなるよ。それが的確かはともかくだけれどもね」

「そんな理由を出してくるのだから、反旗を翻すことを隠すつもりはないわけね。マグダリア領はどう動いているの?」

「冬の館からの情報ですと、道を封鎖され領土から出られない状態とのこと。航空艇を使用した際は撃ち落とすと、マグダリア領から脅しを掛けられているそうです」


 ハブテルの言葉に、ガルネーゼがもう一度机に拳を叩きつけた。

 落ち着けと言いたいところだが、冬の館への攻撃はキグリアヌン国への航路を持っているため、領地戦が長引けば別の不都合が出てくることが考えられた。


「領地戦で冬の館を奪い、キグリアヌン国と繋がるつもりでしょうか……」

 アシュタルの呟きに、皆がアシュタルに集中する。

 マグダリア領は冬の館があるサマレンテ領の南に位置する。キグリアヌン国との交易のある大きな港はサマレンテ領にあり、キグリアヌン国から船でグングナルド国に入る場合、北に位置するサマレンテ領の港を通る必要があった。


 キグリアヌン国から航空艇でグングナルド国に入る場合もまた、サマレンテ領の上空を必ず通る必要がある。

 そのサマレンテ領がもしオルデバルト擁するマグダリア領に奪われたとしたら、キグリアヌン国の侵入を許すことになった。


「オルデバルト王子は王位継承権を持ち、兄二人が命を狙われ国を担えるだけの体力がない可能性がある。オルデバルト王子は表向き暗殺者から逃げていると言っているが、本当かどうかは怪しいところだ。キグリアヌン国が戦争を起こそうと考えた場合、良い足掛かりになるのは確かだな」


 ガルネーゼもその可能性はあると頷く。キグリアヌン国王が精霊にまつわる云々を無視し危険を冒してまで進軍するほど好戦的だとは思えないが、可能性がないわけではない。

 現状のマリオンネを知っていれば、グングナルド前王のように欲を出して余計な真似をするかもしれない。

 それはキグリアヌン国王が先導しているのか、それともオルデバルトが先導しているかによって事情が変わるのだが。


「キグリアヌン国王が同意していなければ、キグリアヌン国の状況が最悪の方向に進んでいる可能性があるわね」

「やはり、オルデバルト王子の意志を持つ者がキグリアヌン国に残り、国王暗殺を企てているのだろうか」

「国王が暗殺殺されたという情報は届いていないけれど、冬の館を占拠する頃には暗殺が終わっていることも考えられるね」


 ガルネーゼもイムレスも考えは同じだと頷く。オルデバルトがマグダリア領主ルカンタラと手を組み、冬の館を狙っているとなると、魔獣の動きも納得できる気がした。

 本来領地戦とならば、お互いの話を聞く必要があるわけだが。


「現状では、マグダリア領に航空艇を飛ばすことはできないわね。領地戦と宣言している限り、領地に許可なく入れば撃ち落とされることもある」

 領土の小競り合い中だと声明を出したのだから、領主の許可なく航空艇を飛ばせば撃ち落とされる可能性があった。逆に航空艇から砲撃すれば声明を無視したと騒ぎ立てるだろう。

 そうであれば声明への反応として、王族から話し合いのための使いを航空艇で向かわせるなど、領主へ着陸の許可を得る必要がある。


「ルカンタラがそんな許可を出すとは思わないわ」

「話し合いをするとは思えないけれど、許可を出してきても君が来ることが条件になりそうだよ」

「イムレスの言う通りだ。話し合いの使い程度では許可は出さないだろうな」

「だからこその、魔獣の強化ね……」

 フィルリーネの言葉にアシュタルが顔を上げた。先ほど話していた魔獣の件がここに繋がったわけである。


「マグダリア領へ行き来する道付近に強めの魔獣が増えている。まるで道を封じるように。そして、冬の館があるサマレンテ領周辺にも魔獣が増えた。けれど、マグダリア領とサマレンテ領を繋ぐ道には魔獣は出ていない。地上から領土に侵入しにくくなるよう、強さを上げた魔獣を増やし、防波堤の役目をさせているんだわ」


 マグダリア領に侵入していた魔導士が気付いた魔獣の誘導はこのために行われていたのだろう。

 イムレスもそれに気付いたか、頭を抱えた。魔獣が増えたのはマリオンネが原因だとばかり考えていたが、魔獣を兵士代わりにするとは考えなかった。


「マグダリア領でニーガラッツは楽しく研究をしていることでしょうね」

 嫌味など言っている場合ではないが、言いたくもなる。攻撃をするために魔獣の実験を行なっていると思っていたのに、まさかの防衛とは、恐れ入る。


「自由に魔獣を扱うようなことになれば、大きな危機となります……」

 黙っていたハブテルが静かに呟く。ニーガラッツによってその脅威を増やしている中、ここでアンリカーダが動いているとなれば、脅威にしかならない。

 アンリカーダの動きを知る必要が今以上に出てきた。


「冬の館には兵を増やしていたが、騎士団と魔導院の魔導士を派遣すべきだろう」

 ガルネーゼの意見にハブテルがこちらを強く見つめる。騎士団の一部を出すことはできるが、アンリカーダのことを鑑みれば王都から騎士団を派遣するのも危険な気がした。


 冬の館に騎士団を出せば王都が手薄になる。しかし冬の館を放置することもできない。だが、騎士団を出すか出さないかで、どちらか一方が手薄になる。

 冬の館に騎士団を出している間、アンリカーダに精霊を操られるようなことがあれば、王城は再び混乱の渦に巻き込まれるだろう。


「キグリアヌンが攻めてこないとも限らない。魔導院からも魔導士を出せますよ」

 イムレスもハブテルも冬の館の防衛を高めた方が良いと考えている。

 決断は早い方がいい。既にマグダリア領から攻撃を受けているからだ。


 冬の館へならば航空艇を飛ばすことができる。抵抗するならばサマレンテ領内から抵抗する必要がある。

 外からでは他の領地から攻撃をすることになってしまう。それでは領地戦の声明をこちらが勝手に覆すことになってしまうのだ。マグダリア領に文句をつけられるような真似はしたくない。

 攻撃を行なっている者たちを指示している者から話を聞く必要があり、それを行うにはサマレンテ領内で捕らえるしか方法がなかった。


「領地戦の声明に対し質疑を行う旨の書類をマグダリア領へ届けさせる。領地戦に入っているならば検問所が作られているでしょう。使いを殺す可能性もあるから、逃げられる魔導士を派遣しなさい。声明への対応を行う体裁はとっておきたい。イムレスは魔剣士を選んでちょうだい。ハブテルは王騎士団から数人と、騎士団から冬に強い者を選んで。あちらはもう雪が降り始めている」

「承知しました」

「王都の警備も強化するわ。念のためだけれど、前王とワックボリヌのいる牢の警備も強化してちょうだい。裁くこともなく殺されると面倒になるわ。助ける可能性もある」

「すぐに手配いたします」


 ハブテルはそう言って急いで部屋を出ていった。イムレスも頷くと魔導院へ戻っていく。

 ガルネーゼとアシュタルだけが残り、フィルリーネは座っていた椅子から足を伸ばした。


「前王とワックボリヌを助けて、恩を売るような姑息な真似を、オルデバルトが好むような気がしたのよ。助ける気はなくとも、助けておいて損はない。その後殺せば良い。そんな感じでね」

「お前が言うなら、そんな性格なんだろうな。キグリアヌンの王子は」


 ガルネーゼはオルデバルトと直接話すことが少ないのでそこまでの想像ができないと言いつつ、不安を回避させるためにも警備は妥当だと答えた。

 王の代理をしている状況で、事件の発端である前王とその指示を得ていた直近の部下が死ねば、フィルリーネが殺したと思われるからだ。暗殺者がいても守る気がなかったと思われてしまう。

 ここで世論に負けて王代理を否定されれば、コニアサスを守ることができなくなってしまう。未だフィルリーネを良く思わない者は多い。それこそクーデターでも起こされたら面倒なのだ。


 ガルネーゼもカサダリアの様子を確認すると、部屋を出ていく。アシュタルが残りしんとした部屋の中で、フィルリーネは小さく溜め息をついた。


「エレディナはまだいないのですか?」

「そうね……」

 エレディナは未だ戻ってきていない。精霊に対しラータニアでの出来事を伝えにいっていることもあるが、それでも戻りは遅い。


「心配ですね……」

 言いつつも、アシュタルは、ヨシュアが近くにいるかをフィルリーネに確認する。

 ヨシュアはずっと近くにいる。エレディナが傍にいないため常に近くにいた。

 エレディナのことも、今回の領地戦のこともあり、頭がいっぱいだ。


「ルヴィアーレにも相談したいのだけれど……」

 ぼそりと呟いた言葉にアシュタルが目を眇めた。その一言程度で不機嫌になってほしくないのだが。つい呟いてしまったと口を閉じる。


 ルヴィアーレを呼びにいかせたのだが、体調を崩しているらしく姿を現さなかったのだ。

 珍しいとは思うが、ラータニア王のこともあり心身共に疲れているのだろう。気持ちは理解できるので、ゆっくり休むように伝えてある。


「見舞いの品でも渡すべきかしらね……」


 その呟きに、アシュタルは少しだけ片眉を上げた。

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