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動き2

「何を見ていらっしゃるんですか?」


 政務室にやってきたカノイが、人の見ている手紙に目を向けた。見られてまずい物ではないので、見せてやる。

 マグダリア領へ留まっているオルデバルトの様子を確認するために、ご機嫌伺いの手紙を出した、その返事だ。


「うわ。茶番」

 カノイはさっと読んで、そのポエムのような手紙を捨てるように返してくる。表情が完全に下手物でも見るような顔だ。

 燃やしていいよ。とか言いたい。


「マグダリア領で寂しくしてるとか、あなたに会いたいとか、気持ちが悪いのよ。マグダリア領に会いにきてほしいみたいね」

「分かりやすく誘ってますけど、本当に来ると思ってないんでしょうね。オルデバルト王子は姫様がマグダリア領を注視していることくらい理解してるみたいです。これで会いに来てくれないとか言いふらしそうですよね。遠くの領に追いやって。とか言ってそう」


 お誘いを断ったのはフィルリーネの方だと吹聴するのは構わないが、一国の王子を他領へ放置しているアピールはどこに向けて行なっているのだろう。

 民衆にか? それとも……?


「キグリアヌン王はまだご健在で、彼の目が我が国であると考えてるのかしら」

「オルデバルト王子を見張る者はいると考えて行動しているのなら、そうなるんじゃないですか」


 キグリアヌン王が放つグングナルドにいる間諜がオルデバルトを見ている。オルデバルトがグングナルドで怪しい動きをしていないか確認している。

 その余裕がまだキグリアヌン王にあるのか。


「そんな心配性な姫様に、僕がプレゼントを持ってきました。商人からです」

 カノイは書類を渡してきた。その書類を眺めて、フィルリーネは眉を顰める。


「姫様が見た細目の男はマグダリア領にいるみたいです。ルヴィアーレ様が支援した商人が確認しました。仕事がないふりをしてマグダリア領に侵入させるとか、よく飼い慣らせるもんですよね」

「元々ルヴィアーレの部下たちは精鋭でしょう。裏工作にも長けた者たちを連れているでしょうから、前王に使う予定だった手をマグダリア領で使ってるだけだわ。前王に近い商人たちを調べていた時点で、目を付けてたんでしょうね」

「納得しました。それで、細目の男ですけど、元々マグダリア領主の屋敷に出入りしている者みたいです。裏稼業専門の方だとか。良く見付けましたよね」


 カノイは少々嫌味っぽく口にした。どうやら先に見付けられたことが不服らしい。先に手を回したつもりだったが、とっくの昔にルヴィアーレの手に商人が落ちていたのだから、カノイとしては悔しいのだろう。

 情報が手に入るのはありがたいことなので、まあまあとカノイを宥めてやる。


「結局、マグダリア領主が関わってることになりましたね。はっきりした証拠もないんで、ルヴィアーレ様暗殺未遂その他諸々を罪に問うことはできませんけど。マグダリア領にいるワックボリヌ夫人も娘を使われたことに不満はないみたいですしね」

 カノイは肩を竦めるが、フィルリーネはカノイの書類をめくりながら、嘆息した。


「本当の娘じゃなかったのね……」

「そうらしいです。ワックボリヌは女性関係華やかでしたし、隠し子が何人いても疑問に思いませんけど、夫人の子ではないとは思いませんでした」


 資料にはワックボリヌ夫人が子供のできない体であると記されている。どこからか養女を得たのかと思いたいが、ロデリアナは父親のワックボリヌに似ているので、どこぞの女性との子供を夫人との子としたようだ。


「闇が深いですよね。娘として育ててきて、結果があれってことは、夫人の恨みを感じます」

「そうね……」


 母親が離れに隠れても様子を見に行かなかった時点で、母娘の仲が良いようには思えなかったが、まさか実の娘ではないとは。ロデリアナは知っていたのだろうか。

 今言っても栓無きことだが、虚しいものだ。仲が良ければくだらない犯罪を誘導されることもなかっただろう。


「それと、キグリアヌン国からの船ですが、マグダリア領の港に着港したのは間違いないです。途中マグダリア領の紋章を掲げた漁船に扮して侵入。その後、船員が領主の屋敷に入りました。ただ、これがキグリアヌンの王からの手なのかどうかは分かりません」


 オルデバルトの手の者の可能性も高い。航空艇では気付かれるため船で繋ぎを付けたようだが、冬の館以外にキグリアヌンからの船は行き来できない。冬の館の警備は強めたので、侵入が難しくなったのだろう。


「冬の館に兵士増やされたんですよね。魔獣も増えてるとか?」

「全地域で魔獣が増えているのは分かってるんだけど、冬の館付近の魔獣の増え方が顕著なのよ。前にルヴィアーレに教えてもらった魔石は効果があるんだけれど、全国に配布できるほど魔石はないからね。討伐にお金を出して狩人にもお願いしているところよ」

「でも、効果が得られないと……」


 カノイの言葉にフィルリーネは沈黙した。魔導院の人間や騎士を派遣しても人数に限りがある。領土の騎士たちも同じ。そこで狩人に金額を提示して処分をお願いしているが、魔獣の量と強さが勝り始めた。


「女王が亡くなって嘆く精霊がマリオンネに留まり、地上の精霊が減り始めて魔獣が増えるまでは想定してきたけれど、女王が精霊を操ることを考えると、女王の交代を嘆き続けて精霊が地上に戻らないこともあり得るのよね。そのせいで魔獣が強くなるなんてこと、起き始めていたら……」

「ふ、不吉なこと言わないでくださいよ」


 そう言いながらも、カノイはその可能性を感じただろう。扉の前でその話を聞いていたアシュタルが魔獣出没の分布図を広げるのを見遣った。


「冬の館周辺の森と、カサダリア付近の森は強い魔獣が増えている」

「王都付近じゃ強くなってるとかは聞かないよね。姫様のお友達の方と話した限り、増えてる程度で困ってるってくらいでしたし」


 最近街に行くことができていないので、カノイには商人との繋ぎついでにバルノルジを紹介しておいた。

 バルノルジはここ最近討伐ばかり行っているそうだ。ナッスハルトたち警備騎士もほとんど街の外の討伐で忙しくしているが、狩人への協力もあってバルノルジも街の外に出ているのだろう。

 そちらからも、量が多い程度で魔獣の強さが増したとは聞いていない。


「マグダリア領中心に増えてるとかはないですかね?」

「マグダリア領で何かしていると考えれば、何とも言えないな」

 不吉なことを言ってくれるが、ニーガラッツやマリオンネが動いていれば、その可能性がないわけではなかった。


「どさくさに紛れて、また実験でもしてるのか?」

「なくはないですよね?」

「そうね。なくはないわ。ただ、そこで魔獣の強さを増やして、どうする気? ……いえ、ちょっと待って」


 フィルリーネは机から別の資料を取り出して分布図に線を引いた。マグダリア領から冬の館へ行く道だ。

 カノイが何の線だと首を傾げる。


「通り道には強い魔獣はいないですね。通り道って言うか、山道って言うか。マグダリア領へのいくつかの通り道ですし、人が通るからでしょうかね」

「ならこっちは?」


 フィルリーネはマグダリア領から他領へ行く道を記す。何通りかはあるが、人が行き来することができる道を線で引いた。


「マグダリア領へ行く道はほとんど強い魔獣が出没していますね。やっぱり、実験でもやってるみたいだな……」

 アシュタルの呟きにカノイも頷く。マグダリア領周辺で強めの魔獣が増えている。

 確かにそのように見えるが、自領の周囲を強力な魔獣だらけにしては、他領への行き来がしにくくなるだろう。


「孤立したいんですかね。魔獣の防壁でも作ってるみたいな感じです」

「まるで、封じているように見えない?」

 フィルリーネの言葉に二人が顔を見合わせた。


 冬の館へは通り道を残しているが、周囲は封鎖しているような魔獣の増え方だ。そして強力なものが増えている。

 それを意図して行っているならば……。


「冬の館へ行き来はできても、他の領からマグダリア領へ入られない。それってつまり……」


「フィルリーネ様、失礼します。冬の館が攻撃を受けているとの緊急連絡がございます」

「……何ですって!?」


 話の最中に部屋に入ってきたハブテルの情報に、フィルリーネは勢いよく立ち上がった。

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