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動き

「ぷりぷりだったわ。エレディナ、何を言ったんだろう」

「そのぷりぷりはエレディナのせいではないように思いますけど」


 ルヴィアーレの部屋を出て廊下を歩きながら呟いていると、後ろにいたアシュタルがぼそりと言う。


「じゃあ、何であんなにぷりぷりしてるのよ」

「そのぷりぷり言うのやめてください。他にも人がいます」


 ぷりぷりはぷりぷりだよ。何かイライラしてるんだよね。

 廊下に控えていた他の護衛たちに聞こえないように呟いたのだが、アシュタルに叱られてしまった。アシュタルやカノイの前だけでなら注意はされないが、二人きりではないので注意をされる。

 あまり子供のような言葉を使うと、王代理として信用が薄くなるからだ。


「ルヴィアーレを早く国に戻す計画は頓挫しちゃったわね」

「現状は仕方がないとしか言えませんね。今後に期待します」


 アシュタルは澄ましながらそんなことを口にするが、イアーナと行動を共にした分、ルヴィアーレを敵対する気持ちは少々薄まったように思える。

 イアーナはこの状況なのでルヴィアーレに返したが、それなりに歪み合いは減っただろう。


 イムレスに会うために魔導院へ入ると、そこにはイムレスとガルネーゼ、ヘライーヌの父親ホービレアスがいた。それとマリミアラの父親、魔導院魔獣研究所所長サルバドルがいる。

 妙な雰囲気の四人がこちらに気付いてすぐに頭を下げた。


「何かあったのかしら?」

「マグダリア領に侵入している魔導士からの連絡で、不思議な魔獣の群れを見付けたと」


 魔導院では各地で発生している魔獣と干ばつの調査を行なっていた。森や畑が枯れる事案が何度も見受けられたため、その情報を得て研究員を向かわせていたのだが、マグダリア領に関しては間諜の役割を兼ねた者が調べに入っている。

 研究員の中でも魔導士として活躍する者だ。

 その魔導士からあまり良くない連絡があった。


 イムレスの返答に、サルバドルが届いた映像を再生した。力のある魔導士だけあって、その瞬間を魔具に留めたようだ。

 紙に記された魔法陣に魔鉱石を置くとその映像が宙に映写される。仄かな光の中に魔獣が見えた。


「種類はヴェデル。水辺に潜む魔獣ですが、この先を見ていただきたい」

 サルバドルが指差した辺りに、小さな何かが見える。地面を這う薄い緑色の魔獣ヴェデルを先導するように円盤のような羽を回して飛んでいるものがいた。


「……これは、ラグアルガの谷にいた、精霊だわ」

 行方が分からなくなっている、精霊と魔獣の掛け合わせとされている精霊だ。

 その精霊が魔獣の前を飛び移動を指示しているかのように見える。

 精霊を誘導し捕らえていたのだから、魔獣も誘導できるのだろうか。


「これを撮った魔導士はどこにいるの?」

 その言葉に三人は沈黙する。

「分かりません。これだけが送られてきた後、連絡が途絶えました。マグダリア領だということは分かりますが、これがどこで撮られたかも分かりません」

 サルバドルは沈鬱な物言いをする。


 直後に襲われたのか、期待のできない話だ。他に侵入している者たちに捜査を頼むしかない。

 背景は草原の中に木々がちらほら見える場所で、田舎に行けばどこにでも見られる風景だった。マグアリア領のどこであるかを調べるのは難しそうだ。


「それと、このヴェデルはこの草原に出るような魔獣ではありません。この精霊が誘導してきたとしか……」

 ヴェデルは泳ぎが上手く陸にいれば四つ足で素早く動く、水陸構わず移動が可能な魔獣ではあるが、住む場所は水辺である。

 近場に水辺があるとしても、草原まで歩くかどうか。

 映像を見る限り水辺からかなりの距離を歩いているように見える。


「魔獣を移動させる理由は何だと思うの?」

「ヴェデルは長い尾に毒を持つ魔獣であり、保護色で近付きにくい魔獣でもあります。前のように魔獣を放つならば、使いやすいかもしれません」


 前のように。つまり前王のように、どこかを襲うために魔獣を使うならば、扱いやすいということだ。周囲に敵しかいなければ、投入しやすい。

 しかし、どこにこの魔獣を放つというのだろう。


「また王都となれば、航空艇で放たれたら面倒ね……」

「マグダリア領が王城を狙うとお考えですか?」

 サルバドルが困惑げに言うと、ホービレアスが肩をすくめる。


「城にはよく魔獣が現れるものだ。そうだろう?」

「それは……」


 前王の時代は、どこからともなく魔獣が現れている。前王の統治には命令があれば簡単に魔獣を城へ連れ込むことができた。

 今それが可能かと言われれば、裏切り者が荷物を承知で門から入れるか、航空艇で訪れるふりをしながら放つことは可能だ。

 急に飛び出した魔獣を全て捕らえられるかは、数にもよるだろう。


「城を混乱させたくらいでは、何の意味もないですがな」

「また斥候で、別の狙いがあってもおかしくないでしょう」

 ホービレアスの言葉にイムレスが付け足す。フィルリーネに顔を向けるが、狙いが自分だとでも言うようだ。


「イムレスは、マグダリア領に集まる者たちの望みは何だと考えるかしら?」

「権力の奪還だとすれば、フィルリーネ様の暗殺。しかし、キグリアヌン王子が仲間に加わっていることを考えれば、ルヴィアーレ王子の暗殺でしょうか」

「わたくしもそう思うわ」


 ラータニア王を狙った後はルヴィアーレだ。マリオンネがマグダリア領と繋がったのならば、彼らは王都を狙うかもしれない。兵士を集めていることも懸念の一つだった。


「マグダリア領周辺の領に協力体制を引いた方が良さそうね。ただし信用できる領になるけれど」

 既に協力してもらえそうな領にはマグダリア領への警戒は伝えているが、自由にさせるよりは警戒をしていると見せつけた方が良いだろう。こちらが何も対策をしていないと思わせて隙を狙わせるには、失うものが多すぎる。

 再び王都を狙われては、王代理である自分や次期王となるコニアサスの名に傷が付くからだ。


「この精霊の生態を調べたいものなんですがね。何を混ぜたらこのような生態になるのか」

「円盤を使い飛翔する魔獣が思い付きません」


 よくよく考えれば交配された精霊を見た者はほとんどいない。ホービレアスとサルバドルは見ることが初めてなため、研究員らしく興奮して精霊を見つめた。特にホービレアスは研究バカなので、興味津々だ。サルバドルも魔獣を研究する者として気になるらしく、興奮気味に眺めている。


 下から見ても精霊の尻は見えないぞ。と言いたくなるが、この二人は放っておいて、ずっと黙って話を聞いていたガルネーゼに視線を変えた。


「冬の館の周囲を警戒しておきたいわ」

「キグリアヌンも心配ですからね……」


 言いたいことは分かると、ガルネーゼは頷く。ホービレアスとサルバドルがいるため、ガルネーゼは言葉を選んで話した。

 冬の館があるサマレンテ領はマグダリア領が隣に位置している上、キグリアヌン国からの船が着く港がある。

 海からの攻撃があるとは考えたくないが、念の為兵を増やす必要があるだろう。


「キグリアヌンからの報告は聞いたけれど、ちょっと試してもらいたいことがあるわ」

「また、悪巧みでしょうか?」

 悪巧みは失礼だ。思惑があると言ってほしい。


「キグリアヌンを抑えたいだけよ。それから、商人たちに協力を要請して。ルヴィアーレから協力できる商人を紹介してもらっているわ。マグダリア領は放置できない。こちらからある程度は動きましょう」

「承知しました」


 落ち着かないこの国を少しでも穏やかにしたい。ガルネーゼの返事に頷いて、フィルリーネはまだ戻らないエレディナの気配を探した。

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