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エルフィモーラ5

「それで、赤子を、入れ替えたのか……?」


 ルヴィアーレは唖然としたまま、エレディナを見上げた。


「レディアーナが何でそんなことを言ったのか、私には理解できないけど、でもハルディオラはその通りにしたの。レディアーナの子供は死んで、レディアーナは子供を連れてカサダリアに戻って、体調を崩したまま死んでしまった」


 エルフィモーラが死亡し、残った子供をレディアーナの子供とした。王は何も知らぬまま、弟のハルディオラとエルフィモーラの子を自分の子供として認知したのだ。

 父親だと思っていた王が伯父で、叔父だと思っていたハルディオラが実の父親だった。


「それを、フィルリーネは知っているのか?」

「知らないわ。教えてないもの」


 知っていても知らなくても、ハルディオラが殺されたのは事実だ。フィルリーネはどちらの子供だとしても王を恨んだだろう。

 ただ、ハルディオラの子として生きていたら、早々に殺されていたに違いない。


 それを、ハルディオラは計算したのか?

 ならば、フィルリーネは運が良かったのだ。王の子として認知されていれば、王に狙われることはない。

 だが、


「黙っていたことは、よろしくないと思うが」

「ハルディオラが黙っていたのよ。私たちが話すことじゃないわ。ヨシュアも知ってるけど、あいつは誰が父親とか深く考える奴じゃないからね。ただハルディオラが黙っていることはあいつも黙ってるってことよ」


 エルフィモーラが死んでハルディオラに付いていたエレディナやヨシュアは、フィルリーネよりもハルディオラに従っているのかもしれない。

 この場所を知られないように、エレディナやヨシュアはヴィオーラの木に隠された鍵をそのままにしておいた。


 フィルリーネだけが知らない、アンリカーダにとって重大な事実だ。

 女王の血筋でも、特に濃い血を持つことになる。


「あんたも危険かもしれないけど、フィルリーネも危険なのよ。これで分かったでしょ」

「選定を終えたフィルリーネの方が、私より危険だろう。本来の、地上を統べる者として選ばれたのだから」


 その上精霊の血を色濃く持っている。アンリカーダに気付かれているのはどこまでなのだろうか。曽祖母が女王の妹だということは知っているだろう。

 エルヴィアナ女王に妹がいることも知っているはずだ。では、その子供たちがどうなったか、アンリカーダは知っているのだろうか。


 ムスタファ・ブレインが知らないわけがない。エルフィモーラが地上に降りたことを知っている者はいるだろう。

 さすがに、子供が入れ替えられたとは知られていないと思うが。


「私たち精霊はアンリカーダの力に抗えないかもしれない。……フィルリーネを、守ってよ」

 エレディナは切実に願った。やはり自分が操られるかもしれないと言う恐れがあるのだろう。


「フィルリーネを守ってくれるの、どうなの!?」

「ラータニア王から、フィルリーネを守るように命じられた。フィルリーネはアンリカーダに対抗できる唯一の人間かもしれないのだ」

「それは、あんたも同じじゃないわけ?」

「私は、精霊の王に会ったことはない。女王として生まれたアンリカーダとも立場が違う。精霊の命を得て生まれたわけではない。ただ——————」


 今までは女王に関わることを避けてきた。関わりたいと思わなかったからだ。自分の存在はマリオンネに知られている。だからマリオンネに訪れたことはない。

 しかし、アンリカーダは禁忌を犯した。精霊を自らのものとし、操るような暴挙を行った。歴代の女王の中で私利私欲に走った女王がいたとしても、精霊を見殺しにする女王はいない。


「避けては通れぬ道か……」


 遠くに見えるマリオンネには女王アンリカーダがいる。ルヴィアーレは呟くと、エレディナに静かに頷いた。





「どこに行ってたの」


 エレディナに連れていかれ姿を消したことをフィルリーネに伝えたか、自分の部屋にフィルリーネが踏ん反り返って座っていた。


「相談事よ!」

 フィルリーネの問いにエレディナは怒ったように言いながら姿を消す。


 エレディナはフィルリーネに不安を知られたくないのだろうが、フィルリーネは気付いているだろう。こちらを見て口を尖らせようとしてやめた。


「無事ならいいわ。いきなり姿を消したって言われて、何度もエレディナを呼んだのよ。でも全然応えないし、どこに行っているかと思ったわ」

「今後の対策についてだ。そちらはどうだったのだ。祖父が来てたのだろう?」

「お母様のお墓参りですって。そろそろ命日だから」


 そう口にしつつ、ちらりと周囲を見遣る。サラディカがその視線の意味を察して他の者たちを外に出した。イアーナは鼻の頭に皺を寄せたが、レブロンに引き摺られて部屋の外に出ていく。

 残ったのはサラディカとアシュタルだけだ。二人以外部屋から出ていったことを確認し、フィルリーネは嘆息しながらも話し始めた。


「マグダリア領に厄介者たちが集まった話はしたわね。そこにマリオンネの手が入ったの」

「地上にアンリカーダの手下が現れたのか?」

「前に会ったでしょ。婚約の儀式の帰りに会った男よ。伝達係でもやっているのか、地上に下ろされたようだわ」


 それでは、アンリカーダがグングナルドに何かを仕掛けてくると考えて間違いない。


「面倒だな……」

 アンリカーダが地上と手を組んだ。どこのルートだ。キグリアヌンだろうか。


 キグリアヌン自体はグングナルドに害を成すつもりはないかもしれないが、オルデバルトが何をしてくるか分からない。マグダリア領に集まり何を画策しているのだろう。


「キグリアヌンの状況は耳に入っているのか?」

「キグリアヌンを調べている者からは、兄二人は復帰する様子はないとのことよ。倒れたふりをしているのか本当に倒れているのかは分からないけれど」


 第一王子は毒殺未遂にあい、第二王子は襲撃された後遺症で車椅子に乗り声が出せない。二人とも政務に復帰できるのか微妙なところだ。それが情報戦で偽りなのかグングナルドでは確認ができていないという。

 ラータニアでも調べはしているが、キグリアヌンの王宮が混乱している程度の情報しか入っていなかった。


「キグリアヌン王も寝台で指示しているそうよ。もしオルデバルトの手下が何かしらの動きを行っていたら、最悪オルデバルト以外の継承権を持つ者は死亡するかもしれない」


 王子は七人。うち兄二人の継承は難しい可能性がある。第三王子のオルデバルトはマグダリア領に避難。第四から七王子は母親の力が少なく、蹴落とすのは簡単だ。


「キグリアヌン王もそのうちという感じだな」

「キグリアヌン国でオルデバルトのために動いている者がいるのでしょう。オルデバルトは我が国で高みの見物ね」


 キグリアヌン王は騒ぎを治めるためにオルデバルトをグングナルドに送ったのかもしれない。しかし、それがオルデバルトの思惑だったら、最悪の道に進んでいることになる。


 そこにマリオンネの手が入れば、何が起きるか。


「商人からの情報はまだ得られていないからな……」

 買収した者たちから情報を集めているが、一向に尻尾を出さない。フィルリーネも調べでは何も出ていないと肩を竦める。


「お祖父様からの情報では、マグダリア領は人を集めている。戦いの予定を立てているのよ」

「また内乱か」


 やはりオルデバルトはそのつもりか。マグダリア領の元領主や領主、ワックボリヌの妻とお互いの利点を擦り合わせたわけだ。武器を集めている噂も耳に入っている。

 どう攻撃してくるか、マグダリア領から何をしてくるか、こちらは見極めなければならない。


 最悪、アンリカーダと共謀し精霊を使ってくることもあった。


「念の為、あなたの意見をしっかり聞いておきたいのだけれど」

 フィルリーネは急にかしこまるように言った。真っ直ぐにこちらを見つめ、蜂蜜色の瞳で自分を捕らえるように。


「何を聞きたい」

「グングナルドに帰ってきたことを後悔していない? ラータニア王が心配でしょう?ユーリファラちゃんも待っていたのだし」


 問われた言葉につい眉を上げた。戻ってきてから問うことなのか。

 その気持ちが顔に出てしまったか、フィルリーネは一度小さく息を吐く。


「あなたがラータニア王と話している間に、ユーリファラちゃんに言われたのよ。お兄様を返してくださいって。こちらは国同士の決定を覆すことはないと伝えはしたけれど。もちろんラータニア王やジルミーユ様からも、ラータニアのためにグングナルドにあなたをおくようにと言われたけれども、あなたの意見は聞いていなかったと思って」

「聞く必要などないだろう。それは決定されたことだ」

「そうだけど、聞いてなかったから。あなたがどう思っているかを」


 憂えるように眉を下げてくるが、余計なことだと言いたくなる。


「私はグングナルドに戻ることを望んだ。ラータニア王と同じ意見だ。ラータニア王には王妃が側についている。グングナルドの問題はラータニアの問題となることを分かっているならば、余計なこと気にする必要などないだろう」

「そうだけど……」


 フィルリーネはそれでも納得いかないと顔を歪めていたが、頑なにしていると仕方なさそうに立ち上がった。

「とりあえず、ちょっと休んで。後で、今後の話をしましょう」


 部屋を出ていったのを耳だけで確認して、ソファーに座り直す。どこか緊張があったのか、拳を握っているのに気付いた。


 腹立たしく思うのは何故なのか。胸がつかえるような気がして、けれど多くがありすぎて疲れているのだろうと、ただ息を大きく天井に吐き出した。

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