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護衛4

「人工的な洞窟ですね。やはり遺跡に繋がっているのかもしれません」

「意外に広い遺跡なのかしらね。小部屋があるところを見る限り、神殿みたいな…」


 フィルリーネは地下に埋もれた人工の洞窟を興味深げに眺めながら先に進む。降りた時は広い坑道に思えたが、壁にある模様がフィルリーネの言葉を裏付けるようだ。

 地下だからかやけに冷んやりとし、背中がぞわぞわする。寒さで震えているわけではないが、なぜか心がざわめいた。


「…フィルリーネ姫、魔導院に調べさせないんですか?」

「んー。先に調べたくない?」


 その返事、突っ込んでいいか?

 フィルリーネの返答にいちいち青筋が浮き出そうになる。前を歩いていたアシュタルは諦め気味か、肩を竦めた。


「壁の色が同じですから、あの祭壇に繋がるのかもしれませんね。グラクトがいてもおかしくありませんが」

「あの遺跡に繋がればいるかもしれないけど、今のところ魔獣の気配は感じないわね」

「魔獣の気配ここじゃしない」

 ヨシュアが間髪入れず言ってくる。それならばいいが、フィルリーネはむうと口を尖らした。


「ここじゃなければ、他でするの?」

「もっと先。ここにはいない」

「安心するのは早そうね」

 アシュタルは剣に手を置いたままだ。ヨシュアはこの道にはいないと言うが、警戒はしなければならない。


「長い廊下ですね。神殿と言うのも有り得そうですが、いつ頃のものなのか…」

「マリオンネができる前でしょ」

 間髪入れずエレディナが答える。建国より前の話などマリオンネを侮辱する会話になるが、さすがのフィルリーネも微妙な顔をした。


「あんまりしたくない話だけどねえ。こんなに遺跡があると、何ともね」

「そんなに、遺跡があるんですか?」

「イアーナも行ったでしょ。冬の館の遺跡」


 あれは遺跡という大きさではなかったが、確かにこの世のものとは思えない場所だった。

 魔導を抱く巨大な空洞。禍々しさすら感じる強力な魔導。神聖な場所のように謳っていたが、長く居続ければ気が狂いそうになる程の圧迫感があった。


 それと同様の場所がいくつもあるなら、グングナルドは魔鉱石を掘削せずに神聖な場所として保存していることになる。


「あれは小さなものだけど、ダリュンベリにも地下遺跡はあるのよ。私も一度見に行ったくらいでちゃんと調べたことないんだけど、こんな感じに変な模様がある壁があってねー。そこから古い魔導書とか、色々出てるわけで」

「ダリュンベリの遺跡も冬の館の洞窟も、神聖さと不気味さを兼ね合わせていると聞きますが」


 冬の館の洞窟は不気味。それは同感だ。だが、ここを歩いていても圧巻さはあり、長居をしたいと思えない。

 肌がびりびりするのは、自分だけだろうか。


「ダリュンベリは大きな書庫を兼ねた神殿のようでしたが、こちらは人を集めるような神殿のようです」

「確かに。信者とか入りそうな広さね」


 古い時代の遺跡だと言われて納得するほどの不思議な空間。ラータニアでは見たことはない。地下にあるならば気付いていないだけなのか。それともグングナルドにしかないのか、何とも言えない。


 フィルリーネは遠慮なくどんどん先に進んでいく。何がいるかも分からないのに躊躇がない。アシュタルの苦労を憐れみたくなる。

 迷子になってもエレディナとヨシュアがいれば転移ができる。だからこそここまで能天気に進むのだろう。


 そのエレディナとヨシュアは率先して先に進んだ。

「びりびり、びりびり」

 宙に浮いているヨシュアが天井を歩くように逆さになる。天井に触れてびりびりを呟いた。


「魔鉱石が埋まっているみたいね」

「やはり冬の館と同じですね」

「長くいると人間には良くないわよ」

「この間見つけた遺跡より、こっちが正門になるのかも」


 長い回廊は階段によって更に下りになる。下っているが天井の高さが同じだ。深く掘られたその地下は、扉によって寸断されていた。


「いかにもねえ…」

「中にびりびりすごい」

 ヨシュアが天井から降りてくると、遠慮なく扉を押す。


 少しは警戒してほしいのだが、アシュタルだけがさっとフィルリーネの前に立ちはだかった。さすがに護衛騎士だ。警戒を怠らない。

 自分も剣を手にして進もうとしたが、フィルリーネを背後にしたアシュタルの意を汲まないフィルリーネは、アシュタルの背から顔を出す。


 気を遣ってやれよ。顔を出すな。顔を!


 何だか可哀想になってくる。アシュタルは顔を出すフィルリーネを守るように片手でフィルリーネの顔を隠した。その辺り慣れているようで、尚更同情しそうになる。


「これは…」

 扉を開いた先、前に見える祭壇より、上空に寒気のする気配を感じた。

 冬の館で見た魔導の塊。魔導が混ざるように蠢き形を成している。


「ヨシュア、近付きすぎないで」

 ヨシュアが宙に浮いて、その球体となっている魔導に近付いていた。すかさずフィルリーネが注意する。


「冬の館と同じね…。祭壇もあるわ」

 祭壇は石でできた机みたいなものだった。ただその祭壇を囲むように床や壁に模様が彫られている。祭壇を中心にした模様は何かを祀っているかのようにも見えた。


「祭壇にマリオンネの女王の石板がないけど…」

 冬の館には魔鉱石に彫刻された石板が飾られていた。こちらは石で作られた祭壇があるだけで、その石板はない。


「あの魔鉱石の彫刻は後々作ったんでしょ。こっちは見付かってなかったから、石板が置かれてないんじゃないの?」

「有り得るな。冬の館は古くからある城だし、古い時代に国の者が設置したかもしれませんね。聖堂にも女王を模した石板はありますから」


 アシュタルの言葉にフィルリーネが頷く。マリオンネの女王がいる時代になって、石板を飾った可能性は高い。


「魔導の塊があるってことは、祭壇に手を付くとまた魔導を奪われるってことね」

 冬の館で、ルヴィアーレとフィルリーネは祭壇に芽吹きの枝を置いた際に魔導を奪われた。自分でも目に見えた魔導は、頭上にあった魔導の塊に吸い込まれるように流れた。

 祭壇に手を置けば、再び同じような光景になるのだろうか。


「触らないでくださいね」

「触らないわ。前回も魔導を奪われたんだから」


 フィルリーネは触れないように祭壇を眺める。細かな彫刻で飾られた光沢のある祭壇だ。石は今まで歩いてきた回廊と同じ材質。

 魔導を奪うような祭壇には見えないが、冬の館で起きたことを考えれば、触れるのは危険だ。


「前に魔導を奪われた祭壇とこちらの祭壇は、関係があるのでは?」

「あっちの祭壇はそこまで祭壇っぽくなかったものね…」

「位置的に近い場所にあるのではないでしょうか? こちらの祭壇の方が正な気がします。あちらは祭壇と言う祭壇ではありませんでしたから、もしかしたらあちらは簡易的なものか、重要な者ではない者が祈る場所であるのかもしれません」

「確かにね。奪われた魔導がこっちの魔導の塊に流れた可能性はあるわ」


 何のためにこんなものが存在するのか。魔導の塊は生き物のように蠢き、今にも襲ってきそうな雰囲気さえある。

 冬の館の洞窟でも感じたが、肌が侵食されるような気分になった。肌が粟立ち、気分も悪くなりそうだ。


「フィルリーネ姫。…早くここを離れた方がいいと思います」

「体調悪い? イアーナは強力な魔鉱石の影響受けやすいかもね」

「そ、そんなことは…」

「表面に魔導纏ってたら影響受けるわよ。今日はもう戻りましょう。これもイムレス様案件ね」


 随分あっさりと帰ることを承諾する。もっと何かと調べるつもりなのだと思ったのだが、フィルリーネは魔導の塊を眺めているエレディナとヨシュアを呼んだ。

 素直に帰るようだ。


「今回はイアーナのお手柄ね。冬の館と同じ現象があると分かったから、あと二箇所も調べた方が良さそう」

「二箇所、ですか」

「ダリュンベリにもあるかもしれないでしょ。この魔導の塊」

「…あとは…?」

「あと一箇所、どこかに同じような物があるかもしれないわ」


 グングナルドに魔導の塊が四箇所もあると言うのか。それは魔鉱石を多く含む場所で、魔導を吸い込む性質を持っている。


 マリオンネの女王がいなかった時代の遺物。

 それはマリオンネが最初であると言う歴史を覆す証拠だ。

 冬の館はマリオンネも承知していると聞いたが、それがいくつも発見されたら、マリオンネはどう思うのだろうか。


「他言は無用よ、イアーナ。ルヴィアーレには伝えるけれども、それ以外には許さないわ」

 フィルリーネは不敵な笑みを浮かべる。有無を言わせない普段見せない迫力に、つい膝を折った。

「承知してます」


 ラータニアにも浮島がある。マリオンネが許した、精霊が多く集まる場所。

 精霊のための建物がある楽園のような場所だと、お伽話のように耳にしていた。


 だからマリオンネの女王は浮島に必ず訪れる。自分が生まれる前にも、女王が浮島に滞在していたことがあったと言う。


 ここに精霊はいないが、浮島にも似たような遺跡があるのだろうか。


 浮島は、マリオンネができる前からあったと言われているのだから。

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