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罰2

 罰にしてみればちょろいもんでしょ。


 もの凄く分かりやすく項垂れ青ざめているところ、突っ込みたくなったわけだが、イアーナは本当にひどく意気消沈してくれた。

 人の護衛がそんなに嫌か。


 全く失礼な男だよね。ぷんすかだよ。女の姿で近付いてきたモルダウンに鼻の下伸ばして(伸ばしたかは定かではない)、騙されちゃった分際で、罰が護衛対象変更くらいですんだんだぞ。


 イアーナはヨシュアに頭を地面に叩きつけられ気を失ったにも関わらず、大した怪我もなくすぐに職務に戻れる様子だった。

 操られていたとしても、カリアに扮していたフィルリーネを狙ったため、ルヴィアーレの護衛にすぐ戻ることはなかったが。


 イアーナが何かしらの術に掛かっているのではないかと言うのは、前々より分かっていた。先に気付いたのはヨシュアだが。

 変な匂いがする。それが魔導の掛かった匂いだと分かるのに時間は掛からなかった。


 イアーナが時折姿を消す。休憩中であるため問題ではないが、今までそんなことがなかったのに、それが最近続いた。それをレブロンが気にしていたのだ。

 このところのイアーナの機嫌の良さにもおかしさを感じていた。

 フィルリーネに会う時はひどく不機嫌で、今まで以上に態度を悪くさせていたが、そうでない時の機嫌が極上に良い。


 レブロンはすぐに女だと感じた。

 その勘正しく、会っていたのが女だと分かり、遅くきた春を見守るつもりだったが、ルヴィアーレが念の為素性を調べさせた。

 しかし…。


 身元不明の女。出てきた結果にルヴィアーレは警戒しただろう。

 そしてヨシュアが、フィルリーネの部屋に残った香りが魔導であると気付いた。


 イアーナがすぐにモルダウンに釣られたわけではない。魔導によって誘惑されていたわけだが、数を重ね偶然を装いイアーナと会い、洗脳を重ねたのだ。

 ならばまだイアーナの元に現れるかもしれない。


 イアーナを囮にし、女を捕らえる。ロデリアナの件が終わり次第行う予定だったが、予定外にイアーナが狂ったのである。

 まさか、ロデリアナの持っていた香水がイアーナを狂わせる薬だとは考えていなかった。


 イアーナを操った相手を探すためには、イアーナの協力が必要だ。しかし、ヨシュアに叩き付けられただけでなく、サラディカの遠慮ない攻撃を受け、怪我は大きかっただろう。

 犯人を探すのに時間が過ぎてしまう。そう考えていたが、イアーナの回復力は常人のそれとは違った。

 ハブテルの報告でイアーナの怪我具合を耳にした時は、イアーナの超人ぶりに呆れるほどだった。


「身体的な損傷はほとんどないそうです」

 あれだけ魔導がぶつかり、テーブルに身体中を打ちつけ、かつヨシュアの全体重でイアーナをつぶし、頭部も握り潰すほど地面に押し付けられたのに、損傷がないだと?

 ルヴィアーレを確認すれば、肩を竦めただけだ。


「言っただろう。特異体質だ」

「そんな特異体質ある!?」


「イアーナは怪力で怪我をしにくく、しても普通の人間よりずっと早く治癒する、おかしな体質を持っている。人間の肉体的構造がどうこうではなく、魔導の溜め方が人と違う」

「どう言うこと?」

「普通魔導を持つ者は体内で生成させ意識を持って外に放出するが、無意識で身体を常に魔導で覆うような真似をしている」

「それって、いつも魔導防御を身体に掛けているってことかしら?」

「そうだ。起きていようが寝ていようが、全く関係ない。前王が魔導士に防御の魔導を常に掛けさせていたが、あれを無意識に自分に行えていると言ってもいい。魔導士が掛ける防御に比べれば弱いものだが、大抵の攻撃は防御できる」


 そんな真似をしていたら、本来ならば魔導が尽きて目を回してしまうはずだ。しかし、それを無意識で行っているとしたら、相当な魔導量を持っていることになる。


 魔導を生成するぞと生成して、続けられるまで続けられるのが魔導量だ。その生成で魔導を溜めて放出する。イアーナはそれを常に生成して身体に纏うことになった。

 やろうと思えばやれるかもしれないが、それを無意識で行うことは難しい。


 防御の魔導を掛けたとしても、防御し続ける時間を考慮しているのであって、きれそうになる前に魔導を掛け直しているだけだ。常に魔導を出し続けるとなると、熟練の魔導士でも大変な集中力が必要となる。


「特異体質としか言えぬ。魔導を溜めるのではなく魔導を身体に纏い続けているため、イアーナは魔導の攻撃がほとんどできない。あの屋敷で行ったように魔導を飛ばす程度の攻撃だけだ。君のように多種類の攻撃方法は行えない。魔導を多く溜められぬからな」

「常に放出しているから、魔導を溜められないと言うことね?」

「量にもよるが、ほとんどできない。その代わり魔導を纏った身体で動くため、常人とは思えぬ攻撃力を繰り出す」


 それは、良いのか悪いのか、何とも言えない特異体質である。

 しかしだから、あれだけ攻撃されても怪我が少ないのだ。それはルヴィアーレも重宝するだろう。魔法陣を描かなくても、最悪イアーナが立ちはだかれば防御壁にもなるのだ。

 その上怪力となれば、武器すら壊れても攻撃ができるのである。


 だが、そのイアーナが敵の手に落ちた。

「イアーナは君への対抗心を煽られ、愚かにも敵に隙を与えた。処分は君に任す」

 ルヴィアーレは静かな声音でそれを口にした。


 婚約は続行。その続行は現状のグングナルドを注視するため。そしてマリオンネからの圧力を避ける意味合いもあるものであったのにも関わらず、イアーナは私的に反論を繰り返し、主人の意を汲むことなくフィルリーネへの不満を膨らませていた。

 そこを敵に勘付かれ、隙を突かれたのである。


 まあ、ぐうの音も出ないよね。

 さすれば処分対象だ。ルヴィアーレに対する裏切りである。処分は相当。処罰に命を取られても文句は言えない。


 こちらもイアーナへの処分は行わねばならない。グングナルド王女を危険に晒せば、理由があったとしても処分せざるを得ない。こちらの立場として、処分しなければしないで自分を守る者たちの心を踏み躙ることになる。


 とは言え、ここでイアーナに死刑でも言い渡せば、ラータニアとの繋がりにヒビを入れることになった。それはそれで避けなければならない。

 そして死刑は避けられても、イアーナはフィルリーネに反感を持ったままだろう。それでは何の解決にもならない。


 ならば、イアーナの考えを改めさせ、できなければ相応の処分とする。

「イアーナの身はわたくしが預かります。皆には目を光らせてもらいましょう」

「フィルリーネ様、恩赦が過ぎます!」


 すぐに反論したのはアシュタルだった。ハブテルも言いたいことがあるだろう。しかし、頭を垂れながら、冷ややかに肯定する。


「承知しました。しかし何かありましたら、その場で処分させていただきます」

「それでいいわ。ルヴィアーレも構わないわね」

「承知した」


 二度目はない。次に不都合を行えばその場で斬首する。

 アシュタルもその決定に渋々頷いた。護衛としてイアーナを連れるならば、イアーナを見るのはアシュタルになる。

 不満が膨らむようなことがあればアシュタルが対処することになるため、アシュタルも理解してくれた。


 イアーナがこちらに反感を持つのと同じく、アシュタルがどのような感情を持っているのか、身を持って知るといい。

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