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恨み2

「まあ、想定はしていたけれどね」

「恨み強そうとはおっしゃってましたね」


 アシュタルはふざけたように言うが、顔は真剣だ。剣呑な光を灯した瞳が、いかにも今殺りにいきましょうか? と問うている。

 そんなこと許すわけないが、許すと言ったら速攻飛び出していきそうだ。


「何か企んでいるのは間違いないでしょう」


 ロデリアナやその家族に付いている監視は、罪のない者たちへの監視であるため、屋敷の前での門番程度でしかない。

 外出する場合は彼らに行き先を伝え移動を行う必要はあり、移動にも監視は付くが、他家などに行く場合その家に一緒に入られるわけではなかった。


 あくまで家族は罪を犯した者とは別であり、罪を犯した者へ繋がりを求める関係者が入り込まないかを監視するためであった。

 その監視を掻い潜り何者かに会おうとするならば、それ相応の罰はあるわけだが。


「家人ではない者が屋敷から抜け出し、怪しげな店に出入りしたと言う報告がありましたが、その相手はまだ確認中です。ただその店は怪しげな者が寄り付いており、堅気の店ではないと」

「何かしらねえ。怪しげな薬でも売ってる? 怪しげな魔導具でも売ってる? それとも、暗殺請負とか?」

「どれにしても、やられる前に処理するのが良いかと」


 座った目で発言するアシュタルは本気である。いくら何でも何もしてないのに処理とかできないからね。


「ワックボリヌの屋敷に何度か訪れている者たちがいるでしょう。そいつらがロデリアナに何かやらせるとは思わないけれど」

「ワックボリヌが出来の悪い娘がどうなろうと構わないと言うのであれば、放置するのではないでしょうか?」


 今日のアシュタルは不機嫌らしい。さらさらと毒を吐いてくるのだが、何かあったのだろうか。


「ワックボリヌの娘は前々よりフィルリーネ様を見下しておりました。ルヴィアーレ様が現れてからはあからさまな敵視を隠しもせず、愚かにもフィルリーネ様を羨み恨みを持ったのです」

「まあねえ…」


 ロデリアナはルヴィアーレに本気だったようだ。ワックボリヌに婚約者になれないか何度も願ったらしく、それに関してはワックボリヌも頭を痛めていたそうだ。


 さすがのワックボリヌも王の意向に反するわけにはいかない。ロデリアナには諦めるよう説得していたらしいが、結果が逆恨みである。


「逆恨みでフィルリーネ様を狙おうと驚きもしません。あの女が率先してフィルリーネ様を狙おうとするならば、他の者たちが止められるとは思えません」

「それは一理あるわねえ…」


 猪突猛進。恐ろしいほどの思い込みの怨恨で、城まで堂々と乗り込んできそうだ。犯罪者の家族ということで城に近付く真似はできない今、彼女はどう動くかと考えれば協力者を募るだろう。

 それでマリミアラを頼るとは思わなかったが。


「親しい学友など高が知れているのだから、聞いても無駄だと分かるでしょうに」

「それほど切羽詰まっているのではないですか? 恨みつらみを晴らすべく」

「その勢いを別のことに使えばいいものを」


 資産を没収したが、ワックボリヌは方々に金を貸していた。それらを回収すればそれなりに暮らしていける。召使いや騎士たちを解雇することになるだろうが、家族が生きていく分には問題ない。


 父親を助けたいと言うのであれば、もう少しまともな動きをするだろう。ただの逆恨みで動くのであれば、愚かにも程があった。


「男を取られた恨み?」

「そもそもあの女の男でありませんが」

「そうだけど」


 ロデリアナも父親はどうでもいいわけだな。と考えてしまう。いや、父親がいるから今の身分でいられたのだから、父親には感謝しているだろう。

 その捕らえられた父親を本気で心配しているかは疑問だが。


 ワックボリヌは王とは別の場所に収監されている。イムレスとの戦闘によって大怪我を負ったとは聞いた。ただ死ぬような怪我でもない。


 父親を助けようとしても無理だと悟っているのか、父親の罪を軽くするように願う嘆願書は届いていない。他の令嬢や奥方はやたら送ってくると言うのに。


 代わりにロデリアナは方々に手紙を送った。母親の兄夫婦や妹夫婦。父親の弟の妻、その他遠い親戚にまで頻繁に手紙を出した。

 検閲があるわけではないため手紙の内容までは確認できないが、手紙を送っているまでは確認が取れている。その返事も。


 ロデリアナの母親は気丈にしているそうだが、ワックボリヌの妻である分ロデリアナよりも警戒している。彼女は古い王族の血を引いていた。フィルリーネからすれば遠い親戚である。


 しかし、彼女は身を潜めたまま。外出することも手紙を送ることも行なっていない。


「ロデリアナより夫人の方が不気味だわ。娘を盾に何かしてるとは思わないけど…」

「夫人の動向は入っておりません。監視を増やします。フィルリーネ様の警備も増やしましょう」

「警備は増やさなくていい。監視は増やしておいて」

「フィルリーネ様」


 アシュタルは目くじらを立てるが、イムレスとの対戦後警備を増やしたばかりなのだ。これ以上は必要ない。それよりも調査する者たちを増やしたい。


「ワックボリヌの周辺を洗い直して。夫人の友人関係もね。私の警備はそのままで。いいでしょ。あなたたちに守ってもらうわ」


 アシュタルは一度溜め息をつくと、フィルリーネの足元で跪いた。

「アシュタル?」


「フィルリーネ様。コニアサス様が成人を迎えられるまで、まだ長い年月がございます。その間フィルリーネ様はこの城の主人として立たれる身。今以上に危険が伴う立場です。フィルリーネ様の強さもエレディナの強さも疑ってはおりませんが、どうか我々にも御身を守らせてください。あなたのお身体は、あなただけのものではないのです」


 普段口にすることのない丁寧な物言い。そして真剣な眼差しに、茶化すことのできない雰囲気を感じさせた。

 日を浴びた薄茶色の髪と同じ色の瞳をフィルリーネに向けたまま、眼差しを逸らすことができない。アシュタルは本気で心配しているのだ。


「アシュタル…」

 何を言うか迷う間、どこかで大きな爆発音が続いた。

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