王族の力
王族でしか行えない、魔鉱石に魔導を溜める術。
そんなもの何に使うのかと考えて、政務を行いながら、考えをやめた。
グングナルドには知られていない、魔導の使い方。それは浮島で行うことだろう。
ラータニアの浮島には精霊が多く住んでいるのだから、魔獣を避ける術など必要ないだろうが、魔獣を避ける以上の力があるのかもしれない。
浮島を守るために使うとかねえ。だとしたら、結構危険な物になるような気がするわけだが、その魔鉱石は入れ物に入れて置いておくだけでいいらしい。魔獣だけでなく長く持ち続けると人にも影響があるので、地に埋めるのが良いとか。
そんな危険な物を作る意味とは、何なのか。謎だ。
「それで? 何するのよ?」
王族の力を使い、かつ精霊を使う。その練習姿を見せることは許されない。らしい。ラータニアの教えにより、ルヴィアーレはフィルリーネの引き籠もり部屋に来ていた。
そこで久しぶりに姿を現せたエレディナが空中で踏ん反り返る。
「エレディナも知らないんでしょ? ラータニア特有なんだろうね」
「精霊と一緒に行うって、魔導を助けるのと違うわけ? 魔導を含めて作る魔具とかと同じじゃないの?」
薬草や魔鉱石などの素材を使い、魔導を混ぜて作る魔具や魔導具は当然にあるわけだが、精霊に力を借りるのは王族ならではだ。
精霊からの力を得る時、魔導を魔法陣などに流すが、そこで精霊の力を借りて魔法陣を広げる方法はある。その場合、魔法陣に精霊が同調した力を与えてくれる。
それと同じならば練習などいらない気がする。それと違う方法で行うとすると、他の国の王族で作られていなければ、やはりラータニアだけの方法な気がする。
そんなの教えてくれちゃって良いのかしら。
とは言わないが、ルヴィアーレが気にしていないので、秘術などではないのだろう。
用意されたのは、何種類かの魔鉱石である。魔鉱石を作る精霊にも種類があるので、その精霊によって魔鉱石の種類も変わった。
「相性の良い魔鉱石を使った方がいいのだが。君は…、何の属性でも使えそうだな」
「エレディナがいるから、水系を良く使ってるけど、火系もよく使うし…」
魔法陣を使用する際、人によっては得手不得手があるため、水系が得意ならば反対に位置する火系が扱いづらいなどはあるらしいが。
「あんまり考えたことないなあ。イムレス様、何でも練習させるから」
「不得意な術はないのか?」
「不得意ねえ…」
攻撃で言えば、火や水、氷や風、雷なども使える。大地を揺らすなどの技も使えるが、あまり高い攻撃力にならないので使わないくらいである。癒しに関しても特に問題はない。
結界など跳ね返す力などは風の力の応用だったりするので、そこは同じだ。
「光や闇は?」
光や闇の力は扱うのは難しいとされている。その属性を扱うには難があると言われているわけだが。
「この子はそう言うのないわよ。全ての属性に愛されてるもの」
一番何が苦手かなあ。などと唸って考えていたら、横でエレディナが代わりに答えてくれた。
「全てって言うのはさすがに言い過ぎだけど」
その昔、闇の精霊のいる洞窟へ入った時、邪魔そうに追い立てられたことがあった。あれは愛されているとは違う気がするのだが、ルヴィアーレがそこまで厳密にするものでもないから、不得意と思うものがなければ良い。と言ったので、黙っておく。
「王族でも全ての力を得るのは難しいのだがな。まあいい。エレディナにも出来るだろうから、氷の魔鉱石を使おう」
「人型の精霊でもいいの?」
「その属性の精霊が必要なだけだ。本来ならば城に精霊がうろついているが、この城にはいないからな。わざわざ呼ぶこともない」
未だ城はばたばた続きなので、城には近付かないように精霊たちに伝えてある。隠れてうろついている精霊はいるが、単体だ。それらを集めるより、力があるエレディナの方が効果があるとのことである。
「だが本来は城にいる精霊を呼び、その力を得て行うものだ。精霊が城にいられる頃にまた試すといい」
魔鉱石は練習用に属性の違う物を集めてもらった。氷の属性が合わなければ他のを使用して行う。初めて行うため失敗が前提らしい。
ルヴィアーレはその辺りを先に考え、氷の魔鉱石だけを多めに用意させていた。さすが周到である。
「そんなに難しいの?」
「精霊と力を合わせながら放出するのに時間が掛かる。一人で行うわけではないからな」
魔具を作るように自分の魔導を混ぜ合わせるとは違い、精霊の魔導を流す必要があるため、精霊との相性は必要不可欠でその意気が合わなければ行えない。
難しい術ではないが、難しい。
ルヴィアーレは魔鉱石を手にする前に、手のひらをこちらに向けてきた。
「魔導の流し方は魔法陣に流す方法と同じだ。ただ微細な調整が必要になる。精霊であればその精霊に合わせなければならない」
つまり、ルヴィアーレが適当に魔導を放出するので、その量に合わせて魔導を流せと言うことである。
自分の魔導を外に流して何かが起こるわけではない。音楽に魔導を乗せるのと同じだ。外で行えば精霊や魔獣を誘き寄せる。魔導を好むのは精霊も魔獣も同じだ。城の中なので、来ても精霊くらいだった。
「子供の頃やったなあ」
「魔導の扱い方の話か」
「そうそう。叔父様とこうやって、魔導の流れを教わったわ」
ルヴィアーレの手のひらに、ぎりぎりつかない近さで手のひらを合わせる。
幼い頃に魔導の扱い方を同じようにして教わった。相手の魔導を感じて制御の仕方を感覚で覚えるのだ。
まだ言葉も話せない幼児の時には、親が魔導を抑えなければ放出しっぱなしにすることもある。魔導のある親から生まれれば大抵その力を継ぐので、親が子供の魔導を抑えるのだ。
泣きながら放出する魔導を、抱っこして外に出ないように抑えるらしい。
やったことがないのでどんな状況になるのか分からないが、叔父は苦労したとぼやいていた。魔導のない王では気付かないため、叔父が行うしかなかったのだろう。
軽い言葉が話せる頃には制御の仕方を教わっていた。感覚で覚えるので教える言葉はいらない。魔導を垂れ流しにし続けると体調が悪くなるので、自然と抑える力を覚えるのだ。
魔法陣に魔導を流すためにはこの制御の力が必要になる。そのため、魔導の流れを感じる学びの中に、手のひらを合わせるものがあった。
じんわりと暖かくなる魔導はルヴィアーレのもの。ほんのりと感じるこの力に合わせろと言うことだろう。
「理解が早いな」
「これくらいなら魔法陣に行うのと同じでしょう?」
「…それは、君に力があるからだろう。普通は人と合わせるのは難しいらしい」
らしいと言う時点で、ルヴィアーレも難しいと思っていないのではないか。
無表情のままで言われて、眉を傾げたくなる。
「ルヴィアーレは誰に教わったの?」
「王に」
その言葉を発した時、ルヴィアーレは穏やかな顔を見せた。
「何その顔。どんだけ王のこと好きなのよ」
自分も言いそうになった言葉を、エレディナが顔を寄せて口にした途端、ルヴィアーレの手のひらから魔導の熱が一瞬が上がった。
「王は、大切な方で当然だろう」
一瞬だ。一瞬で緩やかな表情がすぐに無表情に戻り、それだけ言って口を閉じる。
あらまあ。仲が良いと聞いてはいても、本当に仲が良い上に、ルヴィアーレは兄を大切にしているのだ。それを隠しちゃうあたり、可愛げがあるではないか。
ついにまにますると、不機嫌に眉を顰めてきた。
「その顔、何だ」
「いやあ。人並みな表情が見れて、面白いなって」
「どう言う意味だ」
そのままの意味ですよ。いつも嘘くさい笑顔か無表情で、心の見えない、見せようとしない顔である。それが兄の話になると雰囲気を柔らかくさせるのだから、まあ大好きだよね。