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「ミュライレン様にも今後ゆっくり政治に関わっていただくわ。コニアサスもお勉強してもらうから、ミュライレン様もコニアサスと学んでください」

「わたくしが、ですか?」


「勿論。コニアサスが王になるにはあなたも国について学ばなければ駄目よ。理解していなければコニアサスを導くことはできないわ。大丈夫。ゆっくり勉強しましょう。ガルネーゼを宰相に上げるから、この城にいてくれるわ。あなたにとっても安心できるでしょう?」

「ガルネーゼ様が…」


 宰相のワックボリヌは捕らえられた。位が上がるのは当然だ。ガルネーゼはミュライレンと懇意にしているのだから、相談できる相手が近くにいるのは良かろうと、安心させていく。


 フィルリーネはできるだけ優しくミュライレンに接している。その言葉だけで今までのフィルリーネの性格を忘れて聞き入れるならば、コニアサスにとって大きな穴になるだろう。それをフィルリーネが放置するとは思わないが。


「それとね、ミュライレン様とコニアサスにも精霊と話をする機会を設けたいの」

「精霊と、ですか?」

「そうよ。ねえ、コニアサス。精霊さんたちを見たことがあるでしょう? 人の形をした、小人さんにお羽が生えた子たち」


 フィルリーネが問うとコニアサスは目を瞬かせた。


「今はばたばたしていて精霊さんたちには城に居ないでねってお願いしているの。もう少し落ち着いたら、精霊さんたちを呼んでお話ししましょう」

「せいれいさんと、お話しできるんですか?」

「そうよ。これからはもっと精霊さんを見ることができるわ」


 コニアサスは嬉しさに頬を紅潮させてばかりだ。精霊との接し方も知らされていない王族などグングナルドだけだが、ミュライレンもコニアサスも予想しなかった話に喜びを見せた。


 そうして、フィルリーネは当然とコニアサスが王になるための信用に足りる者を側に置くと伝え、ひとまずはゆっくり休むことを伝えた。





「あれでは、誰かに付け入れられるのではないのか?」

「ミュライレン様は気が弱くていらっしゃりますからね」

「フィルリーネがコニアサスを王にすると言ってから、擦り寄る奴らは増えているからな」


 口々に言うと、フィルリーネはふっと鼻を鳴らした。

「あらー。いい話じゃない。いいのよ。集っても。勿論慰謝料はいただきますけれど?」

「性格の悪い子だね」

「何でですか! コニアサスに集る奴らが悪いんです! それをどう取り締まろうと、自由ですよ。自由! ちゃんとミュライレン様とコニアサスには人付けましたし、警護も増やしました」


 既にそれは行なっていると言いつつ、フィルリーネはにやりと笑う。深く接触するやましい奴らは覚悟しろ、と誰に言うでもなく呟いている辺り、王女の発言ではない。


「それはともかく、ガルネーゼ。君は怪我がひどいのではないの?」

「ひどくてもこき使う女がいるからな」

「大丈夫って言ってたじゃない。何よ、私に嘘ついたの」

「ついていない。問題ない!」

「いいのよー。ベッドで静かに眠っていても。ゆっくりしてちょうだい」

「眠っていたらお前がどんどん改革を行なって、俺が理解できない範疇まで変更するだろうが。お前の改革は突飛なんだ。誰か止める人間がいなければ周囲に混乱が起きる!」

「もう起きてるから大丈夫よ。さっさと進めないと口出してくる輩がいるんだから、あいつらが邪魔してくる前に終わらせたいのよね」

「煩い輩か。それは小蝿のように煩いだろうね」

「叩き落としてやりたくなるわあ」

「やめろ。急にはやめろ。叩き落とす時はまず俺に確認してから行え。ただでさえ人員が減ったんだ。これ以上急激に減らすのはやめろ」

「やだー。言っただけじゃなーい」


 フィルリーネと本性を知っているイムレスとガルネーゼ三人が集まると、まるで飲みながらの語らいのように聞こえてくる。部屋にいる警備たちはこの三人の関係を分かっているだろうが、こちらの部下たちは驚いてばかりだ。


 フィルリーネの本性を知っているサラディカでも、フィルリーネがイムレスとガルネーゼにここまで気安いとは思わなかっただろう。自分もまた、三人が友人同士のように話している様に少々の驚きを持たずにはいられない。


「あいつらとは誰のことだ」

 咳払いをして問うと、フィルリーネは間延びした声を出した。


「穏健派という名の、何もしないで現状維持しか興味のない、おじいさんの集まりがいるのよ。今まで王が怖くて何も言えなかったけれど、これからは口を出してきそうな面倒そうな集まりよ。面倒なのよ。とにかく」


 面倒しかないと、ガルネーゼが溜息を吐く。フィルリーネは、あーめんどくさい。と足を伸ばした。それにガルネーゼがすぐに反応する。


「お前は、せめてルヴィアーレ様の前では取り繕え」

「あー、めんどくさい」

 再び同じことを口にして両手を上げながら背を伸ばす。そうして改めると、こちらに顔を向けた。


「精霊の話だけれど。ルヴィアーレにお願いしたいことがあるのよ」

「儀式についてか?」

「その通り。さすが、察しが早いわね」


 精霊の話が出て、そう来るだろうと思っていた。フィルリーネはグングナルドでは行われていない精霊の儀式を詳しく聞きたいのだろう。古い資料は見付けたが理解できない部分があるとぼやく。


 精霊の儀式は口頭で伝えることが多い。儀式の粗方を記していても実際に行うのとでは理解度が違うだろう。記述している者は王族ではない。


「ルヴィアーレがこっちにいる間にお願いしたいのよね。ラータニア王とお話しする機会をそろそろ決めるつもりだけれど、時間足りるかしら」

 フィルリーネは事もなげに言う。その意味に対してイムレスとガルネーゼは口を閉じた。


 婚約の破棄を行うのか。フィルリーネは破棄をする気だ。マリオンネに破棄を伝えるのはフィルリーネの役目となるため、行うとしても時間を取るだろう。グングナルドをそれなりに落ち着かせなければ、マリオンネに行くのは危険が伴うからだ。


「ちょっと時間は掛かるにしても、儀式のあらましは確認できるでしょ? できるだけ時間を取れるようにするから、お願いします。あとは自由にしてもいいわよって言いたいとこだけど、あまりうろつかないようにして。まだ王派を全て潰したわけじゃない。潜在層は残っているからね。あなたに何かあってはラータニア王に顔向けができないわ」

「私よりも自分の心配をしたらどうだ」

「こっちは手を出してくれるのを待っている状態よ。その方が手っ取り早いでしょ?」

「自らを囮にする気か!?」


 フィルリーネが死ねばそれで終わりだ。そうであるのに飄々と自らを囮にするなどと馬鹿げたことを言う。イムレスとガルネーゼも目線を背けるのだから、それを許容しているのだ。


「大丈夫よ。それなりの用意はしている。ここで倒れては意味がないことくらい、皆分かっているわ。だからこの慌ただしい中でも手を出してくる者はいるでしょう。まだ舐められている間にお馬鹿ちゃんたちは潰しておきたいのよ」

 うふふと笑う顔が悪女すぎる。なまじ顔の整ったフィルリーネが悪どく笑うと、不気味で迫力があった。


「顔が悪役だぞ」

「私が悪役じゃない時なんてあったかしら?」


 ない時などなかったが、ただ溜め息しか出ない。イムレスもガルネーゼもそれを許しているのかと思ったが、顔を背け続けている辺り説得はし終えたのだろう。諦めの境地でフィルリーネを立てていた。


「無理をして倒れるような真似をしてもらっちゃ困るんだがな」

「無理をするのは私じゃなくて周りだからねえ」

 その言葉にイムレスとガルネーゼが顔を引き攣らせた。守る方の精神が擦り減るだろう。


「人数の足りなくなっている現状で、君につけている余裕はないのだけれどね」

「一網打尽にするなら、囮が手取り早いじゃないですか」

「一網打尽なんて、簡単にいかないと分かっているから、反対しているんだよ」


 イムレスはため息混じりだ。やはり説得はしたのだろう。しかしフィルリーネは一度言い出したら止まらない。


「それなりの効果は出ますよ。まだ私が魔導を持っていないと思っているお馬鹿ちゃんたちも多いですからね。エレディナには姿を隠してもらっているし、警備は薄くしているし。いやー、早く来てくれないかなあ」


 その言葉に三人が息を大きく吐いた。フィルリーネはただでさえ行動力がある。今まで偽りの中で過ごしていたため抑止力があったが、それがなくなったのであれば一体何をしでかすのか、イムレスもガルネーゼも同じ不安を抱えているだろう。


 フィルリーネの笑い声に、お互いに目を合わして、もう一度大きな息を吐いた。

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