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女王3

「弟さんを婿にする意味が、私には分かりかねますが」

「あの子は特別なんだよ」

「マリオンネの血を引いているとか何とか?」

「さて、どうだろう」


 否定はしないか。顔色を変える事なくにこやかに答えてくる。ではやはりルヴィアーレはマリオンネの血を引いているのだ。グングナルド王が望む、魔導の強い子が得られる、最適な者として選ばれてしまった。


「婿となると、王女はいつ女王になられるのかな?」

 フィルリーネの言葉に、シエラフィアはじっとフィルリーネを見つめた。

 薄い水色の瞳が、空の青に似ている。優しげな表情でありながら、その瞳はフィルリーネを見定めるような、鋭いものだった。


「早急に」

 女王になるつもりはないが、王は引きずり落とす。ここまで待ったのだ。失敗は許されない。

 シエラフィアは微かに身体の力を抜くと、優しげに微笑んだ。


「…弟は真面目すぎてはげそうだから、君みたいな人が近くにいるといい影響をもらえるかもしれないね」

「影響は知りませんけど、はげたら笑えますね」


 いつもにこにこ、どこでもにこにこ。人のいる前で笑顔を絶やさず、そして柔和に相手をする。フィルリーネのように常に人に嫌味を言うのも神経が疲れるが、ルヴィアーレの対応の仕方はそれ以上に疲れるような気がする。

 アホみたいな会話に笑って返す気力ないわー。嫌味で返して相手に退場してもらった方が、神経がすり減る量は少ないのである。こちらは面倒な時に席を勝手に立つと言う強行ができるので、ルヴィアーレよりはずっと気楽なものなのだ。


 自分だけの部屋に戻れば、ルヴィアーレは眉間に皺寄せて難しいことでも考えていそうである。彼の性格では、外の世界に疲れ切ってしまうだろう。


「仲良くしてほしいのだけれど」

「すぐにお帰りいただきますから」

「それは残念だな」


 自国に戻ればあのユーリファラがいる。お兄様と抱き着いたまま、こちらに挨拶もできないくらいボロ泣きをするほどなのだから、さっさと帰って婚姻でもしてやれ。と言いそうになる。


 きっと毎日早く戻ってくるのを祈り嘆いているんだよ。健気。どこがいいとかはともかく、ユーリファラにとってルヴィアーレは大切なお兄様で、大切な異性なのだから、もーさっさと帰りなよ。


 帰らせられれば、とうに追い出していたのだが。ままならない。





 弟には秘密にしておいてよ。


 そう言って笑ったシエラフィア、ラータニア王は内緒で国を出ていたことを弟に知られると、後で怖いともらす。王が警備一人しか付けずに他国をうろつけば当然と思うが、そんな兄を持つ弟のルヴィアーレは、家族水入らずで少しの時間をマリオンネで過ごした。ほんの少しであるが、それでもお互いに情報共有はできただろう。


 あの後、先に航空艇に戻るとルヴィアーレを置いて部屋を出たわけだが、航空艇でフィルリーネがそこまで長く待つことはできない。フィルリーネならば、ルヴィアーレの戻りが遅すぎると文句を言わなければならないからだ。

 ルヴィアーレはフィルリーネが少々の愚痴を口にする時間に、航空艇に戻ってきた。それでもこちらは文句の一つは言うわけだが、それは想定済みだろう。つい話し込んでしまったと遠慮げに言いながら謝罪をし、ルヴィアーレとフィルリーネを乗せた航空艇はマリオンネを出発した。


 王族を待つ航空艇の発着所では、まだ王の戻りがなかった。何を話しているやら、碌なことではない。


「研究、どう?」

「ふぃ、フィルリーネ様に、勧めていただいた通り、外での研究は滞りなく、進んでます!」


 オゼはこちらを見ずに身体を丸くして、研究用の肥料や薬を整理する。身の置き所がないように、瓶をあっちにずらしこっちにずらししているので、長居をしない方が良さそうだ。

 オゼの研究所はガラス張りだが、端の方で座りこんでいれば外からは見えない。ヘライーヌも隣でオゼの動きを見ているが、こちらはただの邪魔でしかない。イムレスから逃げてきたと、座り込んだままだ。どうせ悪戯をして逃げてきたのだろう。


「姫さん、外ってやっぱりまずいの?」

「女王様が崩御されて時間が経っていないから、そこまでの変化はないわね。次の女王がまだ立たないから、それまでどうかなってとこよ。前々から怪しい場所は精霊にお願いしていたこともあって、まだ大丈夫だけれど。女王の席が空いたままであれば、何とも言えないわ」

「女王が死んじゃうと、精霊が安定するまで一年くらいは掛かるんでしょ?」

「そうよ。ただその間女王の座が空席と言うわけではないから。精霊の嘆きが長くても一年というだけで、全ての精霊の動きが止まるわけではないのよ」


 崩御した女王は遺体がないため、生前の持ち物が、ある島へ埋められる。そこに訪れられるのは精霊たちと、次代女王、ムスタファ・ブレインだけだ。多くの精霊たちがそこで嘆き続ける。それが落ち着くのは一年ほど掛かるため、精霊が喪に服すのは一年と言われた。

 女王の死は精霊にとって自分の命が失われるほどの嘆きになると言われるほどである。


「立ち直れなくて死んでしまう精霊もいるくらいらしいわよ。いつもならば、次の女王に代が替わるところ、今回は崩御での即位となるから、なおさら精霊の嘆きが強くなると言われていたのよ」

「崩御での、次期女王即位は、あまり歴史にない、んです、よね」

「そうね。多いわけではないわ。急な崩御によって混乱があったことは歴史に残っている。その時は急死されたから、今回とは一概に同じとは言えないんだけれど」


 女王は終身ではない。命のある間に次の女王を立てる。女王から新女王へ口伝もあるのだろう。生きている間に女王を引き継ぐものだが、今回はそれがなかった。次代女王であるアンリカーダが若過ぎたからだ。

 しかし、年齢的に危険があるだろうと言われても、すぐに次代への即位の用意がなかったのは、精霊の嘆きに直結する大地に住む我々にとって不安になる話だ。一人しかいない次代の女王でありながら、教育をされたのが女王の死去がもうすぐと囁かれてからと言うのも不思議である。


「普通は女王がいて、それから前女王が死んで、精霊が嘆くってことだから、そんなに困窮する話じゃないんだもんね。今回は特別なんだ」

「しかも、女王様は二代続けての長さだから、精霊たちの悲しみも深くなってしまったのよね」

「ほ、本来ならば、女王は即位しており、亡くなるのは前女王となるため、嘆きも半々である、あるんでしょうか?」

 オゼの言葉にフィルリーネは頷く。悲しんでも女王は即位しているため、立ち直りは早いのかもしれない。


「だったら、もっと早く即位させとけばいいのにね。いくら若いって言ってもさ、どうせ死んじゃうのが分かってて、精霊が動かなくなるのを放置するよりいいのに」


 言葉は不敬だが、フィルリーネもそれは賛同してしまう。他に候補がいないのだから迷う理由もない。アンリカーダは能力もあると言うのだし、早めに女王として立っていてもいいものだが。

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