会合4
「ベルロッヒがうろついているため、私的な話は外ではできません。こちらの城にも王の手下はうろうろしております。ルヴィアーレ様にはご不便をお掛けしますが、どうぞご容赦ください」
「外には行けないから部屋で我慢してなさいよって」
通訳をしたらガルネーゼに睨まれた。本当のことでしょうよ。
「こちらにも王の手は付いております。しかし、こちらとしても状況は把握させていただきたい。フィルリーネ様より王に反する話は伺っておりますが、我々の監視は強くラータニアとも連絡が取れない状況が続いております。両国の今後を考えるならば、お互いの譲歩は必要かと」
ルヴィアーレは強調した。非があるのはグングナルドだ。ラータニアに対してそれなりの対応をしろと言うわけだが。
ここで、じゃあ浮島って何なの。ルヴィアーレって一体何者? と聞いても教えてくれないわけである。その二つが重要で王がこだわる理由があるわけだが、それについて理解が得られないとこちらも動けないと分かっているだろうか。
「エレディナによって転移は可能ですが、監視を撒くのは得策ではないでしょう。フィルリーネと二人で会うことも禁止されている状況では、できたとして夜中出るくらいです。我々との話し合いは可能ですが、昼に街の様子などを見るのは難しい」
それくらいで譲歩しろ。ガルネーゼは言いたいだろうが、ルヴィアーレは昼夜問わずグングナルドを確認したがっている。軍事的な箇所も夜では把握しづらいからだ。兵の動きや移動の方法など、ラータニア襲撃に関する情報は得られるだけ得たいのは間違い無い。
あとは自由が欲しいのだろう。部下たちはあの手この手でラータニア関係者と情報を取り合っているようだが、ままならないことが多いはず。手紙でやり取りしていても、ルヴィアーレ自身が確認したいことも多々あるはずだ。私だったら自分で乗り込みたい。
「君のように部屋に籠もれば可能だろう」
「可能ではあるけれどね」
その場合誰も連れられない。サラディカは部屋に待機する必要がある。何かがあったときに他の者を部屋に入らせない者が必要だ。フィルリーネの部屋と違ってルヴィアーレの部屋に誰が入らないとは限らない。
そうなるとサラディカは連れられない。エレディナと共に動くならばルヴィアーレは一人で動くことになった。案内に警備騎士を連れたら、どこぞのお忍びの貴族だ。
「昼、外出るのはエレディナに頼みなさいな。ただしウルドとパミルだけよ。他の者は目立ちすぎる。あなたもやめてちょうだい」
ウルドとパミルも城で暗躍できているだけだ。外には出られない。城に他者が入り込むのは難しい。手紙も中に入って来る者たちから受け取っているはずだ。あの二人が外に出られるだけましになる。
「君は昼でも外に出ているのだろう」
「あなたが外にいるのと私が外にいるのでは、全く意味合いが違うわ。自分が目立つ存在だと認識するのね。街にこんなのいたら浮きすぎて注目浴びまくるわ」
ルヴィアーレは眉を寄せた。眉間に皺を寄せている辺り、自分がどれほど目立つのか理解していない。まったく箱入りの王族は面倒だな。
「ルヴィアーレ様が街中を歩いていれば、目立つのは確かでしょう。身長もありますし、立ち姿でどこの貴族なのかすぐに注目を浴びます。この娘は幼少から一人で勝手に外に出ていたので、街には慣れておりますから、街に馴染む方法を存じてます」
「私だったら遠巻きで見るわ。胡散臭いとは思われないだろうけれど、間違いなく忍んで街をうろついているどこぞの貴族だと思われるでしょう」
夜であれば問題ないだろうが、昼は難しい。ルヴィアーレは眉を顰めたまま口を閉じた。ダリュンベリもカサダリアも人は多いのでそこまで目立ちはしないだろうが、兵にでも目を付けられればルヴィアーレだと逃げるのは難しいように思う。雑踏に紛れられない高身長がある。
「目立つならあんたが誘導すればいいんじゃないの? 逃げるのは得意でしょ」
ルヴィアーレに陥落したエレディナが隣で口を出した。そうだとして昼出せないと言う話をしてるのだが、それにも口を出してくる。
「別に部屋に籠もることないんじゃないの? 書庫にでも籠もりなさいよ。この城の書庫で引き籠もれるわよ」
「うわ。やなこと言った」
つい出た言葉にルヴィアーレがにっこりと微笑む。
「詳しく教えてください」
ちょっとー、エレディナさん、陥落するにもほどがあるんじゃないですか。どっちの味方なのよ。その男に肩入れするのやめてもらえないですかね。
「書庫か。難しいが、やろうと思えばだな。長時間は理由をつければ籠もれるか?」
ガルネーゼも余計なことを言い始めた。その場合、私が連れて行けってことだよね。やだよ、面倒臭い。デリさんのとこ行きたいのに、その男連れろってこと? やだよ!
「書庫で籠もっても、他の者たちは連れられないわよ。ルヴィアーレだけが行く意味ある? だったらウルドかパミルに諜報頼んだ方がいいでしょ」
「私が外に行きたい」
何でよ。城にいなよ。ルヴィアーレが外に出ても細かいところまで見られないよ。目立つもん。
デリのところや旧市街なら目立つがそこまで問題はない。兵士が少ないからだ。街中は人混みが多いので誘導が必要だった。だったらせめてサラディカにしてほしい。デリのところに連れて行っても放置しておける。
前回のように寝込んだフリでもして外に出るがいい。そう言うと、与えられた部屋は三人部屋らしく無理だと言われた。ガルネーゼ、何でそんな狭い部屋にしたのよ!
「無茶言うな。建国記念日で他の貴族も泊まりに来るんだ。何人が訪れると思っている」
この機会にカサダリア付近に住まう地方の貴族がこぞって来るらしい。ダリュンベリには招待されない貴族たちだ。中級下級貴族なのでカサダリアで泊まる場所がなく、城に泊まるとか。ルヴィアーレ見たさに来るんだって。見ても仕方ないよ!
「あの書庫なら結構な時間籠もれるんじゃないの? あんたと違って長く本読んでも変に思われないんじゃない?」
「その書庫はどのような造りになっているのでしょうか」
「城が斜面に造られているのが分かるように、書庫も広い場所を使わず、小部屋が繋がった空間になっております。小さな部屋が階段で繋がっている書庫でして、その割に蔵書数が多いものですから、閲覧室が隙間隙間に造られておるんですよ」
書庫だけでも五階は使用しているが、その部屋が小さく、いくつもあった。部屋の左右は本棚で前後が階段であったりする。階段の踊り場に本棚が置いてあるような、狭い場所をうまく使った書庫だ。そのため一人用のキャレルが本棚に隠れた場所にあることが多い。その上部屋が狭いため警備が行いにくい。一番上の部屋を陣取れば階段下に待機することになった。
「あの辺りならば誤魔化しは効くな…」
「本棚くぐった隙間の部屋でしょう。階段前にルヴィアーレの部下たちが入れば王の警備は本棚の外に出るしかないわ。メロニオルがいたら入られないもの」
「あそこであればどこからも見えないからな」
同じ場所を思い描いているだろう。ガルネーゼが唸った。問題なさそうだと頷きながら。
「どのような場所なのでしょう」
「今行って確認するのが早いでしょ。エレディナ、連れてってあげてよ」
「どこのことよ。あそこどこも本棚潜って階段じゃない?」
まあそうだけどね。仕方ない。案内してくるか。しかし、表向き書庫の案内もしなきゃならぬことになるのでは? 面倒この上ないぞ。そこはガルネーゼに任せよう。
「仕方ないな。ガルネーゼ、明日にでも適当にルヴィアーレを城の中案内して」
「分かった。そうしよう」
それ位は引き受けるとガルネーゼは立ち上がった。もう遅いので今日はここまでと、ガルネーゼはルヴィアーレを送ろうとする。送るも何もエレディナと一緒に転移するだけだけれどね。
「さ、移動するわよ」
エレディナに手を伸ばすと、ルヴィアーレもそれに倣った。エレディナは両手を掴まれたまま、書庫に移動したのだ。