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聖堂2

「フィルリーネ様、偶然ですね。こちらにいらっしゃるとは思いませんでした」


 ルヴィアーレは嘘微笑みを讃えて近付いてくる。嘘つき嘘つきー。エレディナに聞いてここに来たんでしょうが。話す機会が取れなそうだからって、わざわざ来たんでしょうが。

 ベルロッヒ、ちゃんと見張ってなよ。


「まあ、ルヴィアーレ様。聖堂にいらっしゃるだなんて、わたくし先程祈りを捧げておりましたのよ。よろしかったらルヴィアーレ様も祈りを捧げになって」

「そうですね。早朝の祈りでなければならない理由はありません」


 ルヴィアーレは率先して石板近くへ歩む。後ろを少しあけて待機したイアーナが不満顔だが、ルヴィアーレはエレディナの話を受けたのだろう。受けなくていいけど、受けたらしい。


 ルヴィアーレが静々と石板の前で跪く。両手を胸に当てて祈りを始めると、ルヴィアーレの周囲に仄かな光が見えた。

 祈りにも魔導を乗せるのか。


 王の魔導が少ないと言うことは、そんな弊害もあるわけだ。自分は魔導を使う儀式はあまり詳しくない。この国でそんな行為を行わないからだ。魔導は少ないとしているため、魔導を使って祈るのは外にいて精霊に願う時だけ。常時の儀式でそんな真似はしない。


 光は一瞬だったが、精霊たちがふよふよと集まって来た。ちょっと、多くない?? 私が祈った時よりみんな興味津々なのか、寄って来てるんですけど。


 色とりどりの精霊たちが天井から、窓の外から集まってくる。ルヴィアーレの祈りに応えるように瞬いた。先程自分が呼んだ精霊たちが他の精霊たちを呼んでくる。少しの間に精霊たちがあっと言う間に増えた。


 全ての種類が集まっているわけではない。見ていない色はあるが、属性の近い精霊たちが多く集まったのだ。これらが霧散して他の精霊たちに伝達していけば、かなり早く伝わるだろう。そこで相性の悪い精霊に説得が聴くのかどうか分からないが、それでも数はいる。


 これが祈りなのか。音楽を奉納するのと同じく、王族の力が発揮されると本当に精霊の行動が左右されるのを目の当たりにした。普段城にいる精霊たちとは関わらないようにしており、精霊たちもそれに従ってくれていたが、それがなくなればここまで集まるのだろう。


 すごいな。そんな単純な感想が口から漏れそうになる。王が精霊を扱えないのは思うよりずっと致命的だった。


『あんたも一緒にやれば、もっと集まるわよ』

 それは恐ろしいね。魔導の大切さが分かるよ。それを聞くと婚姻に一年かかった王族は魔導が弱かったのだろうね。ルヴィアーレの魔導の強さはその比ではないと言うことか。やはり王は間違ってルヴィアーレを引き入れたのだと思う。


 精霊をほとんど見ることのできない王の魔導では、これは想像つかないだろう。ルヴィアーレの力をラータニアから削ぎたかっただろうが、グングナルドにいるからと言って安心できる力ではない。


 ルヴィアーレが祈り終わると、精霊たちがにわかに動き始めた。ルヴィアーレにまとわりつくようにルヴィアーレの周りを一周すると、窓の外へと出ていく。残っている精霊たちもいるが、先ほどより多くの精霊たちが外へ飛んでいった。

 これは確かに早く婚姻が許される気がする。それにしても婚姻許されたらどう分かるんだろうね。未だそれは分かっていないよ。


 ルヴィアーレはゆっくりと立ち上がると、精霊たちを目に入れないようにしてこちらを向いた。司教がうんうん頷いて涙ぐんでいるが、その人婚姻したいとかで祈ってるわけじゃないからね。言いたい。


「夕食まで間があります、少々お時間をいただけませんか?」

「あら、そうですわね。では少し歩きましょう。聖堂の周りに庭園がありましたわ」


 聖堂周囲には小さな庭園がいくつか造られている。坂が多いため余った空間を庭園にしており、庭園はやたら多いのだ。特に聖堂は聖域なのでその余分が多い。少し歩けば少し広めな空間に出て、建物ではなく木々が植えられた場所になる。

 小さな庭園だが細い道が伸び建物の隙間を通って別の庭園へ繋がっている。そんな造りなため道も小道だ。団体で進んでも二人で並べば後ろからついてくるしかない。歩けばそこまで会話は聞こえないだろう。


「小さいですが美しい庭園ですね。ダリュンベリの庭園とはまた違う趣があります」

 ルヴィアーレはそれを踏んで話し始めた。声があまり大きくない。後ろに聞こえるか試しているようだった。


「階段のような造りになっておりますから、あまり広くはないのです。けれど、ダリュンベリに比べて面白味がなくてよ。わたくしはこの城に詳しくございません。ガルネーゼに案内を頼みましょう」

 だからガルネーゼと話せよ。と逃げたいのだが、ルヴィアーレが無駄にきらっきらした笑顔を向けて来た。逆に怖いんですけど。やめてもらえないかな。


「それでしたら、フィルリーネ様もご一緒いただけませんか?」

 何でよ。やだよ。城のことは良く分かってるよ。二人で城探検でもしなよ。

 ルヴィアーレは一人で行動するのを邪魔する気だ。そうでなければ自分も連れて行けとでも言うようである。実際ルヴィアーレは笑いながらも目がぎらぎらしている。一人で行動するとか、させると思うなよ。って目だ。知ったことじゃない。


 庭園の木々は低木で緑が濃い。道もうねっていて後ろからついてくる護衛たちが遅れ気味だ。その隙を見て、ルヴィアーレは小さく別の話をする。


「少しは外の案内をしたらどうだ」

「私は出れますけど、連れてくのめんどくさいですー」

「ラグアルガの谷にも未だ行けぬのなら、他の場所を紹介して欲しいものだな」

「お付きがいるのに振り切る方法なんてないです」

「それを考えたらどう。…フィルリーネ様は他の町にも良く訪問されるのですから、ぜひ私もご一緒させていただきたいものです」


 ルヴィアーレは突然内容を変えた。後ろにベルロッヒの部下が近付いたためだ。こちらも確認しているが、その内容変更はどうかと思う。ここで別の町に行きたいとか、ついでに言ってくれるものだ。


「そうですわね。ぜひ婚姻後に参りましょう」

 返答した言葉にルヴィアーレがにこやかな笑顔を向けてくる。その顔、すんごく怒っているように見えるんだけど、気のせいかな。


『あんたたち、不毛なんだけど』


 それはルヴィアーレに言ってよ。無理ばっか言ってくるのこの人。エレディナの呆れ声に物申したい。何で連れて来ちゃったのよ。

『今どこいるって聞かれたから答えただけよ。諦めて今夜ガルネーゼのところ連れたら? その方が早いわよ』

 それやったらガルネーゼに怒られそうな気がする。それは面倒臭い。


 ルヴィアーレはにこにこしてゆっくりと歩いた。庭園にいる間に話をまとめる気だ。

 私もデリさんのところには行きたいんだよね。

 デリのところに行くのにルヴィアーレは連れて行きたくない。そもそもヴィアーレを昼間っから連れるのは難しいだろう。


「こちらでも街に行く気なのだろう?」

 ルヴィアーレは再びこそこそ話をする。一回くらいは外に連れて行かないと、ずっと言われそうな気がする。既に言われているけれど、もっと言われそうな気がする。

 答えはせずに微笑んで返しておいた。それに眉を上げて微笑んで返さないでほしい。器用なことするな。


 昼間っからルヴィアーレを外に出す方法なんてないよ。考えるのも面倒だよ。何かいい手があるか、ガルネーゼの知恵を借りるしかないだろうか。面倒臭い。


「夜にガルネーゼと会うわ。早めに就寝するのね」


 その言葉にやっとルヴィアーレは無表情になった。

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