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カサダリア4

 とりあえず着替えをして部屋の中でくつろぐことにする。ここにも引き籠もり部屋はあるが、今日は出掛ける予定はない。ベルロッヒがどう動くかを確認してから考えるつもりだ。急に呼び出されては敵わない。


 短い航空艇の旅が終わりレミアがお茶を出してくる。一度休憩してから、夕食ルヴィアーレに会う予定だ。その時にカサダリアの重役たちを紹介する手筈がある。重役と言っても王派たちだ。気の休まる食事ではない。


『ベルロッヒは一度あの男の部屋へ行ったわ。ベルロッヒの部下が守るみたいね』


 今まで離れて様子を見ていたエレディナが声を掛けてきた。フィルリーネはお茶を口に含みながら微かに頷く。ベルロッヒも必ず近くで警備するわけではなさそうだ。カサダリアにいる王派とも連絡をとるのだろう。


『ガルネーゼ、後で部屋来いって。夜』

 脳内で別の声が届いた。ヨシュアだ。今回ヨシュアにはダリュンベリを出る前にガルネーゼに連絡をとってもらっていたのだ。ガルネーゼとの伝言係である。ガルネーゼはヨシュアのことを良く知っているので、扱い方は分かるだろう。


 伝言をし終えたらすぐ戻ってこいと言われたらしく、言うだけ言ってすぐに脳内から気配を消した。ガルネーゼ、ヨシュアを小間使いにする気だ。探れないところをヨシュアに探ってもらおうと言う魂胆である。あの子ちゃんと働けるかしら。


『うるさくなくていいわよ。それで、あの男は放置?』


 そうねー。きっと街見たいとか言ってくるよね。一応服は持ってきているけど、どうかなあ。連れていきたくないなあ。ベルロッヒがルヴィアーレを見張っているならともかく、そうでないとルヴィアーレは隙を見て話をしようとするだろう。その時に何を言われるか。うむ、面倒である。


『伝言があるなら行くわよ』

 エレディナ、ルヴィアーレに完全に陥落してるね。いいのよ、あの男は放置で。ベルロッヒに監視されて部屋に閉じ籠もってろ。私は外に出たい。


『あの男はカサダリアの精霊たちに会わせておいた方がいいわよ。もし戦いになった場合、婚姻前でも精霊が協力する可能性がある』


 突然エレディナが提案した。エレディナはもしものために精霊を使う気だ。王には攻撃できずとも、他の兵士たちには精霊の攻撃が行える。エレディナは戦闘になった場合ルヴィアーレが王派と戦う予想をしている。


 それはそうだろうけど、何だろう。癪に触るな。婿に来た理由話さないくせに協力するの? やだなあ。ルヴィアーレはきっと何だか色々計画してると思うの。それが分からないと協力って難しくない?


『念の為よ。あの男に相性の悪い精霊もいるでしょう。祈っていても時間が掛かるなら、あんたが直接精霊に願った方がいいわ。精霊の許しを得たと分かるのはあんたたち本人だけよ。黙ってれば問題ないでしょう』


 ルヴィアーレは一年掛かると考えていた精霊の相性。確かに願わなければ一年以上掛かるだろう。けれど私が心から願えばそれは簡単に変わるかもしれない。エレディナの考えではルヴィアーレならば問題ないと言うことなのだ。


『それはあんたがまともに協力しての話よ。今から聖堂に行って精霊たちに頼むのね。あの男と結託できるのならば、早めに行っておいた方がいいわ』


 王はラータニアとの戦いに備えている。婚姻直前に抑えられるならば、ルヴィアーレの魔導を強力にしておきたい。王都の精霊たちはいつでも可能だが、カサダリアにいる精霊には王都から祈りは届きにくい。


 精霊は独自の情報網があり、人の伝達能力とは違った力があった。そのため聖堂で祈りを捧げていれば国中の精霊にいつの間にか声が届いているわけだ。それは精霊たちがお互いに情報を交換しており、その祈りが遠くいる精霊にも届いているからである。


 全ての属性の精霊が王都にいるわけではないのだから、伝達しなければ願いは届かなくなってしまう。伝達能力があるからこそ、聖堂で祈ると言う場所で問題ないのだ。


『あんたが嫌がってたから言わなかったけれど、広範囲で祈る方が届きやすいのよ。カサダリアからであれば王都から離れた場所にいる精霊たちにも声が届きやすくなる。カサダリアの聖堂で祈った方が得策だわ』


 そうなると、ルヴィアーレに真面目に祈れと言わなければならないのか。それはとっても億劫だが、確かに理に適っている。婚約が済んでいるためルヴィアーレの配置は既にグングナルドだ。ラータニアの精霊は離れていくことになる。


 そうであれば早めにグングナルドの精霊を手に入れた方がいい。婚姻を遅らせることはお互い望んでいるが、精霊の説得を先に行っておいても損はない。


『先にあの男に伝えておくわよ。あんたはまず聖堂に行って、精霊を集めておくのね。城の中にいる精霊だけでもいいから、説得しなさい』


 うう。やりたくないけど分かったよ。ルヴィアーレが反王派たちを攻撃するのは得策ではないので、反王派たちは安全だろう。

 ルヴィアーレにはさっさと帰ってもらいたいのだが、それもままならない状況で王は動き始めている。巻き込まれるのは必至だった。本人はそのつもりでこちらに来ているのだろうが。


 ため息を吐きたいが我慢して、フィルリーネはカップを置いた。

「レミア、こちらの聖堂はどこにあったかしら。明日早朝いつもの祈りの前に、わたくしだけでも精霊に祈りを捧げたいわ」

「まあ、フィルリーネ様。それはとてもいい案だと思います。すぐに案内を呼びましょう」


 レミアは嬉しそうに他の者に命令して案内を呼ぶ。カサダリアに来てもいつも引き籠もっているので、レミアは聖堂の場所を知らないのだ。私は知ってるんだけれどね。まあ仕方ないよね。


 それにしても、エレディナの落ち方が半端ない。ルヴィアーレは氷の精霊との相性が抜群だったようだ。草の精霊も簡単に陥落していたし、知らない内に結構な種類の精霊たちがルヴィアーレとの婚姻を許しているのではないだろうか。


 恐ろしいな。魔導が強いと拒否する精霊が多いって話、どうなったの? おかしくない?


「マリオンネか…」

「何でしょうか?」

 ふと口にした言葉にレミアが反応した。


「何でもないわ。案内が来ないのならば、ガルネーゼを呼びましょう」

「え、いえ。すぐ参ると思いますので、もう少々お待ちください!」


 聖堂に行く程度でガルネーゼを呼ぶなとレミアがぶんぶん頭を横に振った。ガルネーゼのこと怖がってるね。

 先程の呟きはレミアはすぐ忘れるだろう。案内を待つふりをして再びカップに手を伸ばす。


 ルヴィアーレがマリオンネの人間だと言う話を思い出してしまった。


 マリオンネの人間であれば、精霊の吸引力も高そうだ。いや、どうかな。マリオンネの人間である、ティボットは精霊に好かれていただろうか。記憶がない。叔父の家に来ていたあの子供は、精霊と仲が良かったように見えなかった。

 だがシスティアは精霊に好かれていたような気もする。それも人に寄るのか、何とも言えない。


 しかし、実際のところ、予定では一年掛かるルヴィアーレへの精霊の許しは、思うよりも短いのではないかと感じていた。ルヴィアーレが特別な人間だからなのだろうか。


「フィルリーネ様、案内が参りました」


 レミアの声にフィルリーネは立ち上がる。ルヴィアーレとの婚姻を許してもらうと言うより、ルヴィアーレと協力しあいたいと祈ろうか。婚姻したいとか祈るの、嘘すぎて無理そうだから。


 好きな人がいる相手に婚姻祈るのはさすがに避けたい。


 そんなことを思いながら、案内について聖堂へ向かうことにした。

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